2016年東大地理(第1問)入試問題の解答(答案例)・解説

第1問

設問ABはアメリカ合衆国、設問Cはヨーロッパ諸国に関する出題でした。高度な知識と推論の力の両方が問われましたがいかがでしたか?各国地誌も教科書でしっかり確認しておきましょう。

設問A

設問(1)

アメリカ合衆国で東半分と太平洋岸で人口が相対的に多く西半分では太平洋岸を除いて人口が相対的に少ないという差をもたらした自然的要因について述べる問題です。字数制限が1行と厳しいので要素は2つ含められたら良いほうでしょう。

まず、基本的な内容ではありますがアメリカの東西の降水量分布を考えると、西経100度を境に西部では年間降水量が500mm以下の乾燥地帯になり、東部は湿潤地域となります。一般的に水が得やすい場所に人は集落を作りやすいので、降水量が多く農業用水や生活用水が得やすい東部に人口が集中する傾向にあります。

つぎに地形環境を考えると、西部にはロッキー山脈を中心にカスケード山脈やシエラネヴァダ山脈、海岸山脈などの山脈に加えてグレートベースンやコロラド高原などの高原が多く存在しています。起伏に富む山地や標高の高い場所では交通の便や水利が悪いことも多いので人口の集中度は低くなります。
逆に東部は比較的なだらかな古期造山帯であるアパラチア山脈の他には中央平原などの平野が広がっていて人口は集中しやすいと言えます。

以上から、西部は乾燥地帯で山脈や高原が広がることと東部では湿潤で平野が広がるということをまとめられたら良いでしょう。

設問(2)

人口が全体的に少ない西部にあって人口密度の高い地域も局所的に見られる理由について社会と自然の観点から1つずつ述べる問題です。大変書きにくい問題でしたね。問題文で示されたAはデンヴァーでBはフェニックスという都市です。

両都市で共通した社会的要素といえば、先端技術産業の集積が見られてる点がまず挙げられます。先端技術産業のような儲かる成長産業が発達すれば雇用機会が生まれ、労働者が集まり、人口が増加するという流れは、地理ではアルアルなので覚えておいてください。

フェニックスではシリコンデザートと呼ばれるエレクトロニクス産業やICT産業の集積地が形成され、デンヴァーでハイテク産業が集積し、今ではシリコンマウンテンと呼ばれています。

自然的要因は何について書くか悩ましいのですが、先程述べたように水が得やすいことで人口は集まりやすくなることを考えましょう。ロッキー山脈のような大きな山脈が広がる西部では山脈から流れる雪解け水を利用でき、豊富な水資源が得られます。

以上のことをまとめれば平均的な答案にはなるでしょう。

設問(3)

図1-1から読み取れるアメリカの人口分布の空間的パターンの特徴とその背景を「交通」「集落」「農業」の語句を使って答える問題でした。これもまとめるのはなかなか難しい問題ですがいかがでしたか?

空間的パターンと言われると身構えてしまいますが簡単に人口分布の特徴について考えれば良いでしょう。図1-1の中で中西部は西部よりは人口が多いとはいえ全体的にまばらで、局所的に人口が集中している場所が見られます。人口が集中しているのはセントポール、セントルイス、オマハなどです。これらの町は大陸横断鉄道とミシシッピ川などの河川との結節点で発展してきました。
これらの地域ではプレーリー土という肥沃な土壌を背景に春小麦や冬小麦栽培が盛んで、収穫された農産物が河川で運ばれていましたが、鉄道が開通すると、小麦を小麦粉に精製する製粉業が発達してきました。

つぎに、「その特徴が生み出された背景」について考えると、西部への農業開発が進んでいった背景にホームステッド法とタウンシップ制の存在があります。
ホームステッド法は 1862 年に当時のリンカン大統領の政権下で制定された法律で、未開拓の土地を5年間耕作した場合、耕作者に土地が無償で払い下げることを定めた法律です。
タウンシップ制は、西部開拓を促進するため、18 世紀後半~19 世紀前半に実施された制度で、1区画を 160 エーカーとして碁盤目状に土地を分割し、各区画に1軒ずつ農家を入植させました。西部への開拓時に、鉄道と農業制度が融合して、集落が形成されていったとみなせます。現在も農業を中心とする集落がそのまま残って人口はまばらになっているようです。

答案比較

設問(1)

Aさん
東部は温暖で湿潤な平野であり、西部は乾燥した山地のため。

Bさん
東は湿潤で平地が広いが、西は乾燥した山地が広がるから。

両名とも必要な要素は書けています。

Aさんは東部が温暖だと書いていますが、北部の方はDf気候が広がって大分寒い地域が広がるので事実誤認となってしまいます。温暖な土地に人が住みやすいのは確かですが、東部全体が温暖なわけではないので、書かないほうが無難だと思います。

Bさんは「東は湿潤で平地が広いが」と文を繋げているところを「平地が広がるが」することで、後半と揃えられて読みやすいでしょう。

正答率が高い分、表現や正確性で読みにくさを与えないような答案作りを意識しましょう。

設問(2)

Aさん
大量の融雪水により水資源が豊富なのに加え、乾燥した地域であることから先端技術産業が集積し雇用が増加したから。

Bさん
自然的要因として山地からの雪解け水で水資源が豊富であり、社会的要因として共に州都であり、航空交通の要衝であるから。

Aさんは要素は捉えられていますが、「水資源が豊富なのに加え、」という部分は「なのに」が口語的なので「豊富であることに加え、」とすると良いでしょう。
また、乾燥した地域であることと先端技術産業の集積の因果関係は薄いです。温暖で晴天が多く過ごしやすい気候がサンベルトへの企業の移動に一役買っているということはよく言われますが「乾燥している」だけでは表せていないうえに、産業の集積には様々な要因が関わっていますので、一概に要因を表すのは難しいです。ここは先端技術産業の集積が雇用を増加させたことだけを書く方が良かったでしょう。

Bさんは自然的要因と社会的要因をそのまま答案に用いていて分かりやすくはありますが、字数を多くとるので可能なら自然的か社会的かが分かりやすい要因を挙げて節約したいところです。
また社会的要因に州都であることと航空交通の要衝であることを挙げていますが、まず問題は1つずつ答えるように言っていますので問いに答えられていないことになってしまいます。他にも州都で、航空交通の要衝であるから人口が増えるというよりも人口が多いから州都であったり航空交通の要衝となったりする可能性もあります。(卵が先か、鶏が先か、のような話)

設問(3)

Aさん
東西に続く鉄道と南北に流れる河川に沿って人口密度が高い。この密度の高さは、開拓時代に農業従事者が交通機関を使って入植し、交通機関の発達した地域に集落を作ったことに由来している。

Bさん
タウンシップ制の下で植民地開拓が進められたため、農業を中心とする散村形態の集落が広がり、運河や交通の交差する地点には比較的大規模な都市が形成されている。

Aさんは最初の文で書いているような「鉄道と河川に沿って人口密度が高い」ということは、図から読み取れないため事実誤認となります。
また「この密度の高さ」という表現は回りくどいので「この特徴は」くらいで表すと字数も節約できて良いでしょう。
後半の「農業従事者が交通機関を使って入植し、交通機関の発達した地域に」という部分は、農業従事者がみんな交通機関を使って入植したというような限定的な表現であるうえに、「交通機関」という単語を繰り返し使っていて、いささか幼稚な印象を与えてしまいます。
加えて、タウンシップ制などの指摘は背景の説明として書いた方が良かったでしょう。

Bさんは要素がわかりやすく入れられていて良い答案です。
「散村形態の集落」と「比較的大規模な都市」で人口分布を間接的に表せていて良いと筆者は思いますが、人口の多寡について直接的には言及していない答案です。可能なら人口も明示できると良かったでしょう。

設問B

設問(1)

全米におけるメガロポリスの地位が低下している理由について答える問題です。

1-1を見てみると(A)で表されているようにメガロポリスの対全米人口比率が20.9%から17.3%へとたしかに下がっています。これにはメガロポリス自体の衰退と、メガロポリス以外の地域で人口が増加したことの2つの要因が考えられます。
1950年から2000年までの期間なので、五大湖を中心とする重工業地帯が衰退してフロストベルトと呼ばれるようになり、近隣のメガロポリスでも雇用条件などが悪化して、人口が流出したと考えられます。

また、五大湖周辺が衰退していく一方で、北緯37度線以南の地域がサンベルトと呼ばれるようになり、先端産業などを中心に新たに産業が活発化していきました。このようにして衰退する北部から活気づく南部への人口移動が顕著になりました。
サンベルト発展の要因には、安価で広大な土地、ヒスパニックなどの安価な労働力、原油などのエネルギー資源が豊富だったことが挙げられます。近年のことで言えば、北部地域に住んでいる高齢者(退職者)が温暖な気候が分布しているフロリダ半島やカリフォルニア州に移住することがよく行われるようになっています。

設問(2)

メガロポリス内部での人口分布の変化について答える問題です。

(B)~(D)をまとめれば良いのですが1行にまとめるのはなかなか難しかったでしょう。50年の間に都市地域人口と郊外地区人口が増加しましたが、中心都市人口がほとんど変わらずメガロポリス域内での割合は下がっているという状況を上手くまとめましょう。

答案で、表にない言葉を勝手に書いているものが多かったのですが、ちゃんと表に載っている用語で記述するようにしましょう。

設問(3)

ジェントリフィケーションについて問われる問題でした。
山川出版社の『地理用語集』でどのように説明されているかを確認しましょう。

都市再開発において、都心部に近い場所に住宅を建設し、移り住むこと。とくに高額所得者が、職住近接と文化活動や買い物に便利な都心部に住居を構える傾向がみられる。地価の関係で、多くは高層住宅になる。

とあります。

この説明で96字なので、ちょっと整えれば3行(90字)に収まりそうです。

ただ、都市再開発される地域の特徴が書かれていないので、老朽化住宅やスラムなどの再開発以前の荒廃しつつあった状態から再開発後には富裕層が都心回帰して経済が回復するという流れも盛り込みたいところです。

答案比較

設問(1)

Aさん
アメリカの西部や南部で先端技術産業が発達したことに加え、ヒスパニックの増加により相対的に人口が減ったから。

Bさん
より南方のサンベルトへ産業の中心が移動していったほか、先端産業が西部太平洋岸で発達したため。

Aさんはまず冒頭の「アメリカの」という部分は(丁寧ではあるのですが)書かなくてもアメリカについて述べていることは分かるのでカットしましょう。
また「ヒスパニックの増加」とあり、恐らく最初に述べた西部や南部での出来事として述べているのでしょうが、文が離れていてどこで増加したのか分かりにくいですし、ヒスパニックと限定する必要もないです。
表現としては、最後の「相対的に人口が減った」という部分は相対的にと言ってはいるものの人口が減っているわけではないので比率や割合などで言及する方が良いです。

Bさんはメガロポリスの衰退について言及できていて良い答案でしたが、人口の変化について明示出来ていないので問いに対して少しズレてしまいます。

設問(2)

Aさん
都市の領域が拡大し、郊外の人口が増加した。

Bさん
中心都市から郊外地区に人口が移動した。

両者とも(B)~(D)について全部はまとめられてはいません。

Aさんは中心都市の人口について言及したいところでした。また、「都市の領域」とは、表中のどの数字を指しているのか分かりません。表の言葉を引用しながら書くと良いです。

Bさんは都市地域の拡大への言及が不足しています。また、表を見てみると中心都市人口は減少しているわけではないので中心都市から郊外地区に人口が移動したという表現は不適当です。どこからどこに移動したという構成は表現しきれないので避けた方が今回は良かったでしょう。

設問(3)

Aさん
荒廃した都市内部の建物を一掃して、新たにオフィスや高層マンション、大型商業施設を建設して高級住宅街につくりかえる再開発を進めたことで、中高所得者を中心に都心回帰がみられた。

Bさん
都市部の老朽化した建築物を、以前より高級な住宅街や商店へと再開発されつつある。この開発により購買力のある住民が大きく増加したが、元々存在した地域社会が崩壊しつつある。

Aさんはだいたい流れをしっかりと書けていて良い答案でした。
ただ、最初の「荒廃した都市内部の建物を一掃して」という表現は「スラム」や「老朽化住宅」などと表すとやり分かりやすくて要素の詰まった答案となったでしょう。

Bさんはだいたいの要素は掴めているのですが、前半の部分は表現が少し読みにくいです。まず「都市部の老朽化した建築物」はAさんと同様に「スラム」などの用語で表しましょう。つぎに「以前より」とわざわざ書かなくてもわかるのでカットしましょう。
また、文章骨格を取り出すと、「建築物」を「住宅街」や「商店」へ再開発するとなりますが、建築物が街になるというのはズレてしまっていますので気をつけましょう。
最後の「地域社会が崩壊しつつある」という部分は地域社会の意味がそもそも曖昧なので指摘自体も曖昧で加点はされないのではないかと思います。

設問C

設問(1)

ヨーロッパあたりの国の様々な指標を示した図と指標を正しく組み合わせる問題です。

まずはオのイスラム教徒の割合から考えるのが分かりやすいでしょう。ヨーロッパ諸国ではキリスト教徒が多いのでトルコなどのイスラム教国が黒く塗りつぶされているeがオとなります。

つぎにエの正教徒の割合を考えますが、カのスラブ語の割合と分布が少し似ているところがあるのが、注意点でもあり、ヒントでもあります。
まず、どちらもだいたい東欧の国々が中心に構成しているのでaとdが当てはまりそうです。ここで鍵となるのがルーマニアです。ルーマニアはスラブ民族諸国の中にありながらラテン系の国であり、スラブ語を母語にはしていません。ルーマニアという言葉は「ローマ人の土地」という意味だそうです。覚えやすいですね。
宗教は正教徒ですので、ルーマニアが入っていないdがカのスラブ語の割合で入っているaがエの正教徒の割合となります。

残った指標のなかでもウの失業率はギリシャの信用不安からヨーロッパ債務危機が起こったように、南欧諸国で高くなる傾向があります。よって南欧諸国が特に黒くなっているbがウの失業率になります。ギリシャ危機については、検索すればたくさん記事が出てきますので、参考にしてみても良いと思いますが、ここでは内閣府の ページを紹介しておきます。内閣府のHP

残る2つはイの国民1人あたりGDPについて考えます。
これはGDPが高く、かつ人口規模が小さい国で高くなる傾向があるのでスイスを中心に西欧諸国の色が濃くなっているcがイの国民1人あたりGDPになります。残るfでもスイスの色が濃く、同様にエストニアやラトビアも色が濃くなっていますがこれらの国の経済レベルが高いとは判断しにくいのでやはりcが妥当でしょう。

残るアの移民率はfに該当します。

一人当たりGDPについて

一人当たりGDPは、大学受験地理において非常に重要な指標なので、良い機会ですから簡単にポイントを説明しておきましょう。大学受験生がイメージを掴むくらいのレベルに落として、細かいことはわざと省いて説明しますので、必ずしも正確ではないと思ってください。

まず定義ですが、その国のGDPを人口で割った値のことですので、文字通りの意味ですね。
似ている指標に「一人当たりGNI」というものがありますが、大学受験レベルでは区別する必要はないでしょう。
一応、気になる人のために説明すると、
GDPとは、Gross Domestic Product(訳は国内総生産)の頭文字で、国内の外国人の経済活動は含みますが、国外の日本人は含まない指標です。
対して、GNIとは、Gross National Income(訳は国民総所得)の頭文字で、国内の外国人は含みませんが、国外であっても日本人を含みます。

GDPとは、経済取引の金額を全部足したものだと思ってください。コンビニでアイスを買うとか、車のガソリンを入れるなどしたら、その分だけGDPが計上されます。そのGDPを人口で割った値が「一人当たりGDP」ですから、国民一人当たりの経済活動の金額が計算されているということになります。つまり、1年で国民1人が平均して使うお金の全額です。
よって、「一人当たりGDP」が大きい国では、国民がたくさんお金を使うということになり、要するに「国民が豊かな国」です。一方「一人当たりGDP」が小さい国は、国民が使えるお金が少ないということで貧しい国だ、というイメージを持っておいてください。
なお、「国民一人当たりの所得」や「物価」と似たようなイメージを持っておいても、大学受験レベルでは良いと思います。

「一人当たりGDP」が高い国の傾向としては、
①先進国なのに人口が少ない国(スイス、ルクセンブルク、シンガポール、ノルウェーなど)←金融に強いことが多い
②産油国など、一次資源が豊富に取れる国(カタール、ブルネイ、サウジアラビアなど)
③世界有数の先進国(アメリカ、ドイツ、日本、フランス、イギリスなど)
でしょう。

低い国としては、
①産業未発達国
②人口大国
です。

①産業未発達国としては、アフリカの国やアジアの一部の国の名前が目立ちます。
②人口大国として真っ先に思い立つのは、中国やインドだと思いますが、中国は世界第2位の経済大国にまで発展したこともあって、かなり順位を上げ、今では世界平均くらいです。
インドやインドネシア、バングラデシュなども平均値以下です。

設問(2)

fのなかでも×がつけられているエストニア、ラトビア、カザフスタンが値が高くなっている要因を他の国々とは異なるというヒントつきで問われています。

まずは×がつけられていない色が濃い国々のスペイン、アイルランド、スイス、オーストリア、クロアチア、スウェーデン、フィンランドについて考えます。
これらの国々は北アフリカ諸国、トルコもしくはヨーロッパ諸国の労働者が移民として入ってきて割合を上げていると考えられます。
つぎに×がついている三国について考えますが、これは世界史選択者が有利な問題でした。この三国はどれもロシア系の住民が多く、この理由について考えれば良いのですが、旧ソ連の構成国であったことからロシア人が旧ソ連時代、もしくは帝政ロシア時代にも移住してきたのだと考えられます。

答案比較

設問(2)

Aさん
旧ソ連時代にロシアから移住したロシア系移民が多い。

Bさん
旧ソ連時代に多くのロシア人が移住したため。

正答率は高かったでしょう。

表現の部分でAさんはロシアから移住したロシア系移民が多いというところで意味が重複しているように感じられるのでBさんのようのスッキリ答えられると良かったですね。

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