2016年東大地理(第3問)入試問題の解答(答案例)・解説

設問A

日本の都市、環境も災害に関する出題でなんとなく掴みどころのない問題でしたがいかがでしたでしょうか?こうした地図読み取り問題もよく出題されるので訓練しておきましょう。

設問(1)

平野の地形を分類した図3-1から記号に該当される地形名称を答える問題でした。基本的な知識を活用すれば簡単に判断できます。

アは図3-1の西部と東部に両方書かれていますが、東部で考えた方が分かりやすいでしょう。東部は扇状の地形が広がり、分流する河川も見えることから扇状地であると判断できます。

イは図3-1に普通に示されているところと、河川沿いが拡大されている図と、2箇所示されています。拡大された図で見ると、河川付近に示されていることが分かるので自然堤防が解答となります。

残るウは河川が海洋に注ぐところに形成されている三角州となります。

設問(2)

図3-1でX-X’間に堤防で3つの河川が合流せずに直線状になるように整備されている目的について答える問題です。

実際に複数の河川が合流すればどうなるかを想像できれば書きやすかったでしょう。
河川の合流地点では本川と支川の流れの相互干渉により複雑な流れが発生します。合流点付近で流れの急激な減速などによって大量の土砂が堆積して氾濫に繋がる場合も多いようです。よって、合流させない目的としては河川の水面上昇を防ぐこととして良いでしょう。氾濫防止などでも良いと思います。

また、流路が直線状になっているのは、堤防を作ったら自然と直線状になってしまうのではないかとも考えられますが、流路が直線状になることで湾曲した河川よりも早く水が流れることは十分考えられるので速やかに水を海に流すことを目的として書いても良いでしょう。

設問(3)

地点Pでの地盤沈下が続いた理由と1975年頃から安定化した理由についてその社会的背景とともに述べる問題です。

基本的に、地盤沈下は工業用水の汲み上げが原因で発生することが多いです。特に石油危機が発生するまでは鉄鋼業や石油化学工業、造船業などの水多消費型の重厚長大型産業が主流だったので地下水の汲み上げは盛んに行われました。よって地盤沈下が続いた理由は地下水の汲み上げとなります。

また、地盤沈下が安定化した理由については、地盤沈下が起きる原因が減ったからです。つまり地下水の揚水制限が行われたと考えられます。高度経済成長期には公害が深刻化していたことは有名ですが、地盤沈下は1967年の公害対策基本法で典型7公害の1つに指定されました。指定された時代から推測すれば簡単に解けたでしょう。

なお、高度成長期とは、1955年~1973年です。1973年には第一次オイルショックがあり、ここで日本の経済成長がマイナスに転じてしまいました。

設問(4)

三角州で起きやすい自然災害について2つ挙げつつそれぞれに有効な対策を答える問題です。

三角州での自然災害は海際にあることから高潮や津波、液状化現象などが挙げられます。高潮と津波は似たような災害なので2つ例を挙げるなら高潮と津波のどちらか一方と液状化現象を挙げれば良いでしょう。

高潮や津波の対策としては海岸線に堤防を建設することや沿岸に防潮堤を建設すること、遊水池を建設することなどが挙げられます。

液状化現象は対策は地盤の対策と建物の作り方の対策に分けられ、前者では地盤の締め固めや固化、水抜きなど、後者では地盤に届く杭を打って強化する方法が取られます。
こうした自然災害に関する出題は頻出なのでしっかりと復習しましょう。

答案比較

設問(2)

Aさん
河川の合流による増水を防ぎ、すみやかに川の水を海に流すため。

Bさん
河川の合流地点から下流にある中洲への氾濫を防止するため。

Aさんは合流させない理由と流路が直線状になっている理由の両方を書けていて良い答案です。

Bさんは詳しく書けていますがやはりAさんのように両方の理由を書いている答案よりは見劣りしてしまうのでコンパクトにまとめて要素を多くするべきでしょう。

設問(2)

Aさん
粘土状の地盤と近くの川による液状化で沈下していたが、土木技術が発達したことで安定した地盤へと改良されたから。

Bさん
高度経済成長期に工業用に地下水が過剰揚水され沈下したが、その後、地盤沈下が公害とされ、揚水が制限され沈下が安定した。

Aさんは地盤沈下の理由として液状化を挙げていますが、1975年の社会的背景を問われているのでやはり高度経済成長期の地下水の過剰揚水は指摘したいところです。また、液状化現象は粘土のような土砂の間が詰まっている土壌では起こりにくいので加点はされないでしょう。全体として社会背景の内容が薄く問いからズレてしまっています。

Bさんは要素や変化がしっかり書けていて良いのですが「地盤沈下が公害とされ」という部分は恐らく7大公害の1つとなったということを述べたいのでしょうが、これだけでは伝わらないうえに今回の問題では答案に入れるほど重要なことでもないので、単純に公害が深刻となったことや公害対策が取られたことを書けば良いでしょう。

設問(4)

Aさん
強力な低気圧や台風の際には、高潮や氾濫の被害を受けやすくなる。高潮に対しては水門や防潮堤の整備が有効となる。氾濫に対しては貯水池を作り川の水量を調整することが有効となる。

Bさん
高潮や津波による水害と地震による揺れや液状化といった地震災害に脆弱である。前者には堤防のかさ上げや遊水池の整備、後者には建物の耐震補強や地盤の固化といった対策が有効である。

Aさんは高潮と氾濫を2つの自然災害としています。全く同じではないですが先程も述べた通り明らかに違う種類の災害を挙げるのが得策でしょう。

Bさんは要素がしっかり書けていて良いのですが高潮、津波、地震、液状化と自然災害を4つも挙げてしまっています。今回のような問題じゃなければ多くの要素を書けていてとても良いのですが、例を2つ挙げるように限定されているので問いに答えられていないということで減点される可能性があります。

設問B

設問(1)

昭和と平成の2度の市町村合併で1つの市となったA市の1950、1965、2010年の推移を表した図3-3と図3-4から、1950年当時のA市と山間部の村ではどのような境界設定の考え方が用いられていたかを答える問題です。答案が書きづらい問題でした。

まず山間部の村の境界はすぐ分かるでしょう。山がちな地形なら尾根線が行政界になることが多いのですが、たしかに図3-3を見てみると等高線から尾根線が用いられていることが分かります。

A市は図3-3からはヒントがありませんが、図3-4を見ると人口集中地区の位置と1950年のA市の位置がだいたい重なっていることが分かります。周りが村で、人口集中地区に市があることから人口が集中している部分と集中していない部分で分けたと考えられます。一般的に考えて道路や河川なども境界になったとも考えられますが、図からは読み取れないのでやはり人口の集中度で分けたと考えるのが妥当でしょう。「人口集中度」を境界にしたというのは、なんとも曖昧な根拠なのですが、それくらいしか見つからないので仕方ありません。

設問(2)

1965年と2010年の間にA市の人口集中地区の面積が3倍弱になったのに人口は約30%しか増えていない理由を答える問題です。

簡単に言えば、たいして人口が増えてないのに人口集中地区は拡大したのは何故かという問題です。つまり人口流入があまり多くないのに郊外地域へ人口が増えていったということなので、人口集中地区にもとから住んでいた人たちが外側にどんどん移り住んでいったことや、新規に移住してきた人が郊外に住みつき、ドーナツ化現象のようなことが起こったと考えるべきです。

一般的なドーナツ化現象では中心部分の地価が高騰したり居住環境が悪化したりすることで住民がより地価の安い郊外へ移動していきます。これが大都市であれば鉄道網が発達し郊外へニュータウンなどが建設されていきますが、今回は地方都市のようなのでモータリゼーションの進展によって移動が簡単になったことで人口集中地区から地価の安い周辺地域へ人口が移動したと考えられます。

設問(3)

市町村合併によって発生する可能性がある行政上の問題と生活上の問題を1つずつ答える問題です。これは当時の状況を知っていないと分からなそうですが起こりうる問題を考えればいいので論理性が保たれていれば正答となるでしょう。

生活上の問題としては市町村合併によって「行財政の効率化」が図られて、山間部の採算が合わない病院や商業施設は経営を停止させられることがあります。また市役所などの公共施設も廃止や合併が行われ山間部の住民は公共サービスを受益しにくくなります。

行政上の問題は想像しにくかったかもしれませんが、地方公共団体の首長は選挙によって選ばれるので候補者は人口が集中している地域に利益になるような政策を打ち出せば当選の可能性が高くなることなどから山間部の住民の意見が行政に反映されにくくなります。

生活上、行政上ともに思いつきづらい設問で、もやもやが残ってしまうのも仕方ないと思ってしまいます。

答案比較

設問(1)

Aさん
A市は平野部の人口が集中する地区と周辺村落との境界が用いられ、山間部は交通の障壁となる尾根線が用いられた。

Bさん
基本は自然地形を境界とし、平地では河川が、山間部では尾根が境界となり、平地においては生活圏ごとにさらに分割された。

Aさんは考え方はあっていますが、「人口が集中する地区と周辺村落との境界」と表現していて人口の集中度が違うことが分かりにくくなっています。

BさんはA市も自然地形を境界とすると書いていますが、先程述べたように地図からは読み取れないので加点される可能性は低いでしょう。また、平地における境界についても答えていますが問いはA市と山間部の村の境界線について聞いているのでこれは明らかに問いからズレてしまっています。

設問(2)

Aさん
モータリゼーションの進展により、車の所持を前提とした人口密度の低い一軒家が以前の人口集中地区の周囲に建ったため。

Bさん
モータリゼーションの推進による住宅地の建設や大型商業施設の進出によって、人口集中地区が低密度の郊外にまで拡大したから。

両者ともモータリゼーションと郊外に人口が移ったことは書けています。

Aさんは「人口密度の低い一軒家」という表現が分かりにくいです。人口密度の低いのは人口集中地区の周囲なので「一軒家が」というところをカットし、最後に中心から人口が移住したということを言えば良いでしょう。

Bさんは「モータリゼーションの推進」とありますが、誰かの意図が感じられる表現になるため、「モータリゼーションの進展」と書いた方が良いです。また、後半の「低密度の郊外」という表現は分かりにくいので「人口密度が低い郊外」と少し詳しく書きましょう。

設問(3)

Aさん
旧A市と比べ山間部は人口が少ないため、山間部の住民の意見が反映され辛くなる。又、山間部から旧A市の地域に移住する人が増え、山間部の地域社会が崩壊し生活を送り辛くなる。

Bさん
行政上の問題は地域ごとの災害対策などの違いから地域特有の課題への対応が疎かになること。生活上の問題は地域ごとに水道料金などのインフラ制度が異なることで住民の負担が増えること。

Aさんは「住民の意見が反映され辛くなる」という部分は「住民の意見が政治に反映されづらくなる」として何に反映されるのかを示し、「辛く」をひらがなにしましょう。「又」もひらがなにした方が良いです。
また生活上の問題として「地域社会が崩壊する」とありますが「地域社会」という言葉自体が曖昧ですし「地域社会が崩壊し」と言われても何のことを指すかよくわかりません。答案は具体的に書くのが基本ですので、具体的な内容を指摘するようにしましょう。

Bさんは行政上の問題と生活上の問題が分かりやすく、因果関係も分かりやすいので良い答案でした。これをお読みの皆さんも、Bさんのように分かりやすい答案作成を心がけましょう。

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