2015年東大地理(第2問)入試問題の解答(答案例)・解説
世界の貿易に関する出題です。各国の輸出入品に関する知識はもちろんのこと、推論力も試される良い問題でしたね。とくに設問Bは普段から生活と地理を結びつけて考えているかが問われる良問でした。
設問A
設問(1)
表中の主要貿易相手国をヒントに南アフリカ、ナイジェリア、モロッコをA~Cに当てはめる問題です。ここでの答えが他の設問のヒントになるのでしっかり正答したいところでした。逆に、他の設問からもヒントを得られるので、分からなくなってしまったら悩みすぎずに一旦飛ばして他の設問を読み込んでみるのも戦略的にアリです。(2)以降をヒントに(1)の客観問題を当てるというのは、東大地理ではよくある形式です。
具体的には、(2)からA国とB国は主要貿易相手国の構成比の特徴がヒントとなり、(3)からC国は輸出額が輸入額を大きく上回るうえに社会的な問題があるという特徴がヒントとなります。
このように見ていくと、A国はフランスとスペインが上位38.1%を占め、モロッコが両国に地理的に近接していることや旧植民地であることを思いつきます。
また、A,B国は産油国であるサウジアラビアが輸入国の上位に入っていますが、C国では入っていません。産油国から輸入が少ないことと輸出額が輸入額よりも大きく上回ることから、C国も産油国であると考えるとCにはナイジェリアが当てはまります。
残るB国が南アフリカとなりますが、B国の主要輸出国を見てみると、世界の主要な工業国が上位を占めていることが分かります。このことからもレアメタルなどの豊富な資源が盛んに産出される南アフリカが適当だと考えられます。
設問(2)
モロッコと南アフリカの主要輸出相手国の構成を比較してそれぞれの特徴とその背景を答える問題です。(1)が分かれば書きやすい問題でした。
まず、表を見るとA国ではフランス、スペインの2国が全体の約4割を占めていて、B国では中国を初めとする工業国に分散して輸出していることがわかります。
貿易などの国際交流は歴史的・文化的・地理的関係性が大きく影響し、それらの関係性が深い国同士では貿易額が高くなる傾向にあります。簡単に言えば、歴史の関係が深い、文化のつながりが強い、近いということです。
さきほども述べたようにモロッコとフランス・スペインは歴史的に旧宗主国・旧植民地の関係であり、地理的に近接しています。また、需要と供給の関係も貿易相手国に大きく影響します。
B国の主要輸出相手国は中国やアメリカ合衆国などの工業国が占めていて、南アフリカでは金、白金族、鉄鉱石、石炭などの鉱産資源が豊富に産出されます。
以上をまとめてA国とB国で整理して書くと分かりやすいでしょう。
設問(3)
C国の全体の輸出額が輸入額を大きく上回る理由と経済・社会発展上の課題を答える問題です。これも(1)が答えられていたら書きやすい問題でした。
ナイジェリアの輸出貿易品は原油が約7割(2012年時点)を占め、原油のモノカルチャー経済となっています。山川の地理用語集からモノカルチャー経済の説明を引用してみましょう。
一国の経済が特定の一次産品の生産や輸出に依存する経済体制。生産量や国際価格の変動によって、国全体の経済が左右されやすいという欠点をもつ。かつてはブラジル (コーヒー), ホンジュラス(バナナ)、スリランカ (茶)、ガーナ(カカオ)など発展途上国に多くみられる経済体制であったが、近年はモノカルチャー経済からの脱皮が図られている。
と説明されています。
問題点としてはモノカルチャー経済の説明にあるように、ナイジェリアの経済は原油の輸出に依存した状態で価格変動などの影響を受けやすく不安定であることを挙げれば良いでしょう。しかし、この問題では経済・社会発展上の課題を答えるように指示されているのでナイジェリアの経済的な問題点が経済・社会発展にどのように影響するかを考えましょう。
原油のモノカルチャー経済では一部の人だけが儲がる傾向にあります。つまり、石油の利権を握っている一部の人だけが儲かり、それ以外の人は貧しいままになってしまいます。経済というのは、一部の人だけがお金を持っていてもダメで、国民全体がそこそこお金をもっているような状態の方が、全体の経済力が上がります。経済力が向上しなければ国内市場も成長しにくくなります。長期的な開発や政策に対してもビハインドになってしまうでしょう。
設問(4)
2000年代に入ってとくにアフリカ諸国で中国からの輸入が急増している理由を答える問題です。中国とアフリカ諸国の両方の背景から考えるとわかりやすいでしょう。
まずはアフリカ諸国の事情から考えてみましょう。
アフリカ諸国で人口が急激に増加し、鉱産資源や商品作物などの輸出を中心に経済成長が進んでいることなどは有名です。こうして経済成長が進んだアフリカ諸国では先進国ほどではなくとも国民の所得水準が上がり、工業製品の需要も同時に高まります。しかし、相対的には発展途上で裕福な状況ではないため先進国の高価な製品を購入出来る層は少なく、中国の安価な製品が流入しやすくなります。
次に中国側の事情ですが、アフリカが成長市場として魅力だったからでしょう。
中国は2000年以降、ものすごい経済成長を見せ、2008年のリーマンショックが起きるまで中国経済は平均10%を超える経済成長を続けていました。多少落ち込んだとはいえ、その後も高い伸び率を維持しています。
また、中国には安価な労働力という強みもあり、低価格な工業製品が大量生産できます。そこで市場として狙われたのがアフリカ諸国だと考えれば良いでしょう。インフラ整備、資源開発など様々な分野で投資や援助を進めているため、アフリカ諸国との関係は深いものとなっています。
「一帯一路」構想について
この問題を解く際に、中国の「一帯一路」構想を思い出した人も少なくないはずですが、今回は答案に盛り込まない方が良いでしょう。
なぜならば、「一帯一路」は習近平総書記が2013年に提案したものであり、本問で与えられた資料が2012年であるため、時系列が逆転してしまうからです。
とはいえ、一帯一路は重要なテーマですし、今後の東大入試でも出題される可能性は十分にあるため、簡単に解説を書いておきます。
「一帯一路」とは、習近平がかかげた経済成長のための戦略です。
「一帯」とは中央アジアとヨーロッパをつなぐ陸上の物流ルートのこと(本物のシルクロードに近いですね)、「一路」とは南シナ海からインド洋を通り、アフリカにちょっと立ち寄ってスエズ運河を抜け、地中海へ至る海上ルートのことです。「現代版シルクロード」とも言われています。
中国は経済的に余裕があるため、一帯一路上にある国々へ積極的に投資をして、陸海の物流インフラを整備させてしまい、貿易を促進させることにより経済圏を作ってしまおうという構想です。当然ながら中国としては、国内で過剰になった製品を売って利益を出したいとか、13億人の人民を働かせる市場開発という腹積もりもあるでしょう。
一方、中国の貸し付けに対し返済不能に陥ると、中国が使用権を独占するという「債務の罠」を張るなど国際的に問題視されている側面もあります。ユーラシア大陸を広々と使った経済圏は、今後上手くいくのか、上手くいかないのか。これは後世の判断に任せることとしましょう。
答案比較
設問(2)
Aさん
軽工業の輸出が多いA国は旧宗主国や近隣の先進国の割合が高いが、資源の輸出が多いB国は世界の主要な工業国の割合が高い。Bさん
A国は歴史的関係の深い2国が貿易の相手国となっている。B国は経済発展の大きい国が主な貿易相手国となっている。
AさんはA国について「軽工業の輸出が多い」と書いていますが、問われている特徴ではないですし、背景としても不十分です。後半の部分は良く書けています。
BさんはA国の説明で歴史的関係が深い二国だけが貿易の相手国となっているような表現になっているので、「中心となっている」とか「割合が高い」などとぼかして書くと良いでしょう。後半部分は経済発展の進んでる国がなぜB国の主要輸出相手国になっているのかの説明がないので、工業が発達して鉱産資源の需要が高いという背景をしっかり書きましょう。
設問(3)
Aさん
石油の輸出に依存しているため、原油価格の変動の影響を大きく受ける。その為経済が安定せず長期的な開発や政策が行えない。Bさん
石油への依存度が高く、原油価格に経済全体が左右されやすいうえ、富が一部に集中しているため国内産業の育成がみられない。
Aさんは原油のモノカルチャー経済の問題点と経済・社会発展上の課題をしっかり書けていて良い答案でした。しかし、前半の部分は原油価格の影響を受けるのがC国の経済であることを明示した方が良かったでしょう。
また「開発や政策が行えない」という表現は限定しすぎているので「行いづらい」などとぼかした方が良いでしょう。
Bさんもストーリーが分かりやすくて良かったですが、こちらも「国内産業の育成がみられない。」という表現が限定的なので「国内産業が育成されにくい」などとした方が良いです。
他の答案の中では「貧富の差が大きいから国内市場が成長しにくい」という答案がありましたが、「貧富の差」と「国内市場が成長」はキレイに因果関係で結ばれることではないので、「貧富の差」を「富の偏在」という路線に変える方がベターでしょう。
設問(4)
Aさん
中国が経済発展に伴って、資源確保や市場拡大などのために安価な中国産製品の輸出を増やした。Bさん
人口増加や経済発展による所得の増加で安価な工業製品の需要が高まり、中国がインフラ整備を通して関係を強化しているから。
Aさんは中国を中心に書いていますが、これではなぜ中国がアフリカを相手にしているか、説明ができていません。
Bさんはアフリカ諸国での安価な工業製品の需要の高まりと中国の進出を書けていますが、前半でアフリカ諸国のことを明示していないので少し分かりにくいです。加えて、中国がアフリカと関係を強める方法としてインフラ整備だけを書いているのですが、様々な方法で関係を強化しているので「インフラ整備など」と幅を持たせた方が良いでしょう。
なお、人口増加(減少)と所得の増加(減少)の因果関係については議論の余地があります。気になる人は経済学の授業などで勉強してほしいですが、受験生レベルでそこまで理解している必要はないので、減点対象にまではならないのではないかと思います。
減点される可能性があります。
設問B
設問(1)
日本が生鮮野菜を輸入した国を示す表2-2の(ア)~(ウ)にジャンボピーマン、たまねぎ、まつたけを当てはめる問題です。あまり見慣れない問題でびっくりした受験生も多かったのではないでしょうか。こうしたデータは教科書に載っているようなものではなく生活のなかでいかに地理的思考をしているかが問われているような問題でした。
ただし、ポイントが見つかると非常に簡単です。
表中の平均単価を見てみると、(イ)は重量あたりの平均単価がズバ抜けて高く、(ア)は重量あたりの平均単価が安いことが分かります。ここでまつたけが比較的高価でたまねぎが比較的安価であるイメージから(ア)をたまねぎ、(イ)をまつたけとして、残る(ウ)をジャンボピーマンとすれば十分でしょう。
他にも、ジャンボピーマン(パプリカ)はハンガリーで改良され、比較的最近になって日本への輸入が解禁された生鮮野菜であることを知っていればオランダ(ヨーロッパ)からの輸入が多いことが推測されます。
ちなみに本問では問われていませんが、生鮮野菜の輸入額が最も多いA国は中国、パプリカの輸入が多いB国は韓国、かぼちゃの輸入が多いC国はニュージーランドとなります。各野菜の輸入国どのデータについて確認をしておきましょう。
設問(2)
中国からのたまねぎと、韓国からのジャンボピーマンについて、輸入の平均単価が低くなり、生産量が増加した理由についてそれぞれの自然的・社会的条件を踏まえて答える問題です。
A国が中国と判定出来れば中国に関する記述は簡単に思いつけたでしょうが、韓国は思いつきづらかったのではないでしょうか。どちらにせよたまねぎやジャンボピーマンの生産が増加する理由など知っている受験生は滅多に居ないでしょうから、地理的な思考力で対処するしかないと思われます。(似たような問題に、2022年第3問設問Aのブルーベリーの問題があります。併せてご覧ください。)
まず、中国についてですが、中国では広大な国土を背景に一年中たまねぎの生産が可能であり、また安価な労働力が豊富なため、たまねぎを安価に大量生産できます。
一方、韓国のジャンボピーマンについては、一度「ジャンボピーマン」というのを忘れて「生鮮野菜」くらいに換言して考えると良いかもしれません。皆さん、日常的に口にするから忘れていますが、野菜は買うとなると案外高いものです。商業的に育てて販売すると、しっかりと利益が出る商品です。
さらに腐りやすいため鮮度が重要。ということで、腐る前に出荷→販売にたどり着けるよう、大市場の近くで生産される傾向にあります(園芸農業)。
もやしや水菜、キュウリなんかは水分量が多く、特に腐りやすいですが、ピーマンはもう少し日持ちがします。ということで、韓国からでも鮮度が落ちる前に入荷できるということでしょう。
なお、知識として補足しておきますが、ジャンボピーマンは1997年時点ではオランダ産が多く日本に輸入されていましたが、近年は韓国で日本向けの輸出に特化した施設栽培で生産が行われるようになりました。韓国は日本へ地理的に近接していることからオランダよりも輸送費が安く、日本向けに特化して大量生産するようになったことで平均単価が安くなったと言えそうです。
設問(3)
日本でメキシコとニュージーランドからのかぼちゃの輸入が盛んな理由を、自然的条件に触れながら答える問題です。
キーワードは「端境期」でした。
両国の自然的条件というところから連想して、メキシコが低緯度に位置し、BS気候やAw気候が中心に分布して一年中温暖でかぼちゃの通年栽培が可能であることから日本の端境期に出荷できます。
一方、ニュージーランドは日本と季節がほとんど逆になることから、かぼちゃが日本の端境期にあたる時期に輸入されているというわけです。
日本のかぼちゃ生産は北海道が中心であり、国産は主に6~12月に市場に売り出されます。一方で1~5月にかけては海外からの輸入に依存しており、2~5月にかけてはニュージーランド、11~7月にかけてはメキシコから多く輸入されています。
なお、(2)と(3)は合わせて考えると非常に興味深いですね。
(2)は韓国が日本に近いということで、輸入が盛んだということを指摘する問題でしたが、(3)はメキシコとニュージーランドという日本から遠い国でも、端境期に輸入されています。遠いというのは、普通に考えたらマイナス要素ですが、経済的な合理性を考えると必ずしもマイナスではなくなります。
東大地理は「地理」という名前が冠になっていますが、「経済」の視点が非常に重要です。高校生にはあまり馴染みがないかもしれませんが、世界はお金で動いているという側面もありますから、日ごろから経済の視点を取り入れて生活しておくことが重要です。
なお、ピーマンに比べて、かぼちゃは日持ちするというのも重要です。かぼちゃは、メキシコやニュージーランドから輸送しても、十分食べられます。野菜の種類によって、貿易にまで大きく影響を与えているというのも、面白い点ですね。
答案比較
設問(2)
Aさん
中国は安い人件費と適地適作ができる広大な国土を活かしてアを生産し、韓国は資本と日本との近さを活かしウの生産を行う為。Bさん
A国では安価な労働力と広大な土地を利用してアを大量生産し、B国は近隣の日本向けにウの栽培を行うようになった。
Aさんは中国に関する説明が簡潔にまとまっていて素晴らしいです。
後半の韓国の社会的条件に関して「資本」を挙げているのでしょうが、「資本」とだけ書かれても説明不足なので、せめて「潤沢な資本」くらいには書いてほしいところです。また、「日本向けに」生産していることなどを盛り込めたら良かったでしょう。中国に関しても韓国に関してもそれぞれの野菜の生産が急増した理由について聞かれているので両国で大量に生産されているニュアンスを出して欲しいところでした。
Bさんは両国とも簡潔に説明できていて良いと思います。強いて言えば、韓国のジャンボピーマンの有利な点が「近隣」だけなので、「園芸農業」というキーワードを入れるとか、「鮮度」について触れるとか、日本が市場として魅力的であることなど、要素を足せるとなお良いでしょう。
設問(3)
Aさん
温暖な気候であるメキシコは年中かぼちゃが栽培できるため。C国は日本と夏至の時期が異なり端境期に日本へ出荷できるため。Bさん
長距離輸送が可能なカボチャは、温暖で通年栽培が可能なメキシコや、南半球で日本での端境期に生産可能なC国から輸入されるため。
Aさんはニュージーランドの夏至の時期が日本と異なることから端境期にかぼちゃを輸出できるとしていますが、遠回りな表現ですので、「季節が逆転」だとか「日本の冬にニュージーランドの夏があたる」などと言い換えるとより直接的でよくなると思います。
Bさんは簡潔にまとまっているうえにかぼちゃが長距離輸送できることにまで言及できていて良い答案でした。ただ、問いが「多くのかぼちゃが輸入されている理由」を聞いているので、文章構成を「長距離輸送が可能なかぼちゃは〜から輸入されるため」とするのではなくメキシコとニュージーランドが端境期に輸入できることを中心に書いていく方がより問いに答えられている答案になるでしょう。