2014年東大地理(第1問)入試問題の解答(答案例)・解説

世界と日本の化石燃料と再生可能エネルギーに関する設問でした。頻出の典型問題が多かったように感じましたが、いかがでしたか?

設問A

設問(1)

二酸化炭素排出量の上位5カ国の二酸化炭素排出量比と1人あたり排出量を示した表1-1からア~エの国名を答える問題でした。

使用されているデータが古いので注意が必要ですが、十分解けるでしょう。二酸化炭素排出量の統計知識からだいたいの国名は予想がつけられますし、1人当たり排出量などから発展段階や人口規模なども類推できます。

一般的に、二酸化炭素排出量の多い国は工業国か人口大国であることが多いです。1人当たり排出量は人口で割っているため、多い国は発達が進んでいる国(先進国など)か、人口小国になります。といっても、この表は二酸化炭素排出量が多い国ですから、どの国もそれなりに経済発展している国です。

まず、ア国は二酸化炭素排出量が最も多いのに1人当たり排出量が少ないことから、国内で盛んに生産される石炭を中心に化石燃料の消費が多く人口が世界トップレベルで多い中国が当てはまります。

同様に、二酸化炭素排出量が上位3位に入るほど多いのに1人当たり排出量が少ないウ国は、当時の人口が中国に次いで多く、安価で豊富な労働力を活かして工業化を進め化石燃料の消費が増えているインドが当てはまると考えられます。

また、二酸化炭素排出量と1人あたり排出量が両方とも多いイ国は世界有数の工業国であり経済的にも発展しているアメリカ合衆国が当てはまります。

エ国は日本と同じような発展段階にあるドイツや天然資源が豊富で面積が大きいロシアなどの判別は多少難しかったかもしれません。このような場合は、人口規模を比較してしまいましょう。

与えられた統計は、上段が二酸化炭素排出量比で、下段が一人当たり排出量です。上段は世界の排出量に対する割合になっていますが、排出量にも比例しますから、あまり気にせず「排出量そのもの」だと思ってしまいましょう。

すると、上段÷下段の計算によって人口が求められます。エ国と日本でやってみましょう。
エ国: 5.3 ÷ 11.4 ≒ 0.465
日本: 3.8 ÷ 9.1 ≒ 0.417
※実際には、少数第一位までの計算で十分です。

となります。

この数字は人口そのものではありませんが、人口の比較はできます。つまり、エ国が日本よりほんの少しだけ人口が多いということが分かります。
この情報から、日本より少しだけ人口が多いロシアだと特定すれば良いでしょう。

ア~ウ全部で、日本との人口比較をしてみる

今、エ国と日本の人口比較をしてみましたが、試しにア~ウでも同様の計算をしてみましょう。

ア国: 24.4 ÷ 5.6 ≒ 4.35 ←やらなくても、4より少し多いと分かる
イ国: 17.7 ÷ 17.4 ≒ 1.01 ←やらなくても、ほぼ1とわかる
ウ国: 5.4 ÷ 1.4 ≒ 3.85 ←やらなくても、4より少し小さいと分かる

日本の数値は0.417ですから、

ア国: 4.35 ÷ 0.417 = 10.43 ←やらなくても10より少し多いと分かる
イ国: 1.01 ÷ 0.417 = 2.42 ←やらなくても、2.5付近だと分かる
ウ国: 3.85 ÷ 0.417 = 9.23 ←やらなくても、10より少し小さいとわかる

となります。つまり日本の人口に対して、
ア国は約10.43倍
イ国は約2.42倍
ウ国は約9.23倍

と分かります。

日本の人口を1.2~1.3億人とすれば、それぞれの国の人口が分かってしまいますから、二酸化炭素なんて考えなくても国が特定できてしまうでしょう。

設問(2)

バイオマス燃料の燃焼が地球温暖化に繋がらない理由を「光合成」「二酸化炭素」の指定語句を使って答える問題です。つまり、カーボンニュートラルについて説明する問題だと考えていいでしょう。

バイオマス燃料も、燃焼すると石油などの化石燃料と同じように二酸化炭素を排出します。
しかし化石燃料とは違って、空気中の二酸化炭素量を増やさないとされています。

化石燃料を燃やすと地中深くに存在していた二酸化炭素が大気中に放出されて大気中の二酸化炭素の総量が増加してしまいます。
これに対して、バイオマス燃料というのは、植物由来です。植物は生長過程で光合成をおこない、空気中の二酸化炭素を取り込みます。これを燃やしたとしても、もともと空気中の二酸化炭素を出し入れしているだけなので、差し引きゼロになると考えられているのです。これをカーボンニュートラルと言います。

以上のことをまとめればよいでしょう。

設問(3)

アメリカ合衆国とブラジルにおけるバイオマスエネルギーの原料として使われる植物名とアメリカ合衆国のバイオマスエネルギー生産によって生じる問題について答える問題です。

バイオエタノールの原料としてはアメリカ合衆国ではトウモロコシの利用が多く、ブラジルではサトウキビの利用が多いことは有名ですのでパッと答えて欲しいところでした。また、アメリカ合衆国のバイオマスエネルギー生産によって生じる問題もまたよく聞く話です。

トウモロコシの生産はアメリカ合衆国が世界1位の生産量を誇り、主に食用や家畜の飼料用などに使用されますが、その用途にバイオエタノール生成が加わったことで更にトウモロコシの需要が増え、価格が高騰します。また、飼料価格の高騰は家畜の生育にかかる費用の増加に直結し、家畜産品の値段の上昇も引き起こします。他にも、大豆からトウモロコシ栽培に転作する農家が増加し、大豆の価格も高騰するという問題も起こっており、様々な所に影響が及んでいます。
このような内容を論理的に書ければ十分得点できたでしょう。

答案比較

設問(2)

Aさん
バイオマス燃料の燃焼は光合成によって吸収する二酸化炭素以上に二酸化炭素を排出しないので、大気中の二酸化炭素の総量が増えないから。

Bさん
二酸化炭素は、燃焼時に発生する量と植物が光合成によって吸収する量は同じで大気全体では総量が変わらないと考えられるから。

Aさんは言っていることは概ね正しいのですが、「二酸化炭素」を使いすぎてくどいです。また「二酸化炭素以上に二酸化炭素を排出しない」という表現は日本語としておかしいです。Bさんのようにまとめられると良かったでしょう。

Bさんは簡潔にまとめていますが、最初の「燃焼時」にはバイオマス燃料を燃焼させることを明示した方が分かりやすいですし、「発生する量」は「放出量」、「吸収する量」は「吸収量」などと短縮した方が字数も節約できます。

設問(3)

Aさん
飼料・食料用作物の供給が減少し、価格が高騰する。飼料価格高騰に伴い畜産品価格も高騰し、発展途上国を中心に食糧が不足する。

Bさん
トウモロコシへの転作が進むことで大豆などの食料や飼料の生産が減少し、価格の高騰を招くほか、過剰な開発で土壌の浸食が進む。

Aさんは、冒頭の「飼料・食料用作物の供給が減少し」に至るまでの過程が欲しいところです。「バイオマス燃料にトウモロコシが多く使われ」などと入れると分かりやすいでしょう。その直後のの「価格高騰」の内容が重複しているため、片方で良いです。途上国の食糧不足はアメリカ国内ではなくなってしまっています。問題の設定上はアメリカ国内に限らなくても良いのですが、論理や飛躍しやすいので、「アメリカ国内の経済が混乱する」などで止めておいて良いでしょう。

Bさんは、概ね良くかけています。「生産」を「生産量」としたり、「開発」を「トウモロコシ畑の開発」としたりと、言葉を添えるとより分かりやすい答案になります。
価格高騰だけでなく土壌侵食という別方面の問題点に触れられたところは非常に良かったでしょう。

設問B

設問(1)

日本の再生可能エネルギーによる発電能力(設備容量)の推移について示した図1-1のA~Dに風力・水力・地熱・太陽光を当てはめる問題です。

Aは1995年から設備容量が停滞していることや、表1-2で示されているAの設備容量が多い県には火山地帯や温泉観光地が多いことなどから、発電所の建設を妨げられている地熱発電が当てはまります。(設問(2)で詳しく説明します。)

また、他の再生可能エネルギーよりも設備容量ではるかに上回っているDは、山がちな日本では昔から多く見られ、安定して電量が供給できる水力発電です。水力発電はクリーンエネルギーにくくられますが、他の発電方法とはけた違いの発電量を誇ります。

BとCは同じようなグラフの形を取っていて判断がしづらいですが、今回は表1-2がヒントとなりました。残る太陽光発電と風力発電についてそれぞれの安定的な発電に必要なものを考えると分かりやすいです。
どちらの発電も名前にあるように太陽光と風力をエネルギー源とするので、それぞれ日照時間が長い地域や安定して風が強い地域に発電所が建設されやすいです。この観点から表1-2を見てみるとBの上位県は青森県や北海道など、冬季には降雪によって日照時間が比較的短くなりがちな地域が占めています。このことから太陽光発電はまず有り得ないと考えて、Bを風力発電、残るCを太陽光発電とできます。

ちなみに、2009年に電力買い取り制度などの普及制度が始まったことで太陽光発電の設備容量がグッと伸びました。図1-1でCのグラフが最後に急増していることからも判断できたでしょう。
また、太陽光発電は住宅が多く太陽光電池の設置数が多い東京、神奈川、大阪などで設備容量が多くなるので、やはり表1-2に表示されるような地方が設備容量の上位を占めているのはおかしいと判断できます。

設問(2)

(1)でも述べたように地熱発電の設備容量の伸びが1995年以降停滞している理由について、地熱発電の立地条件を踏まえて答える問題です。

地熱発電は地球内部の熱源に由来する熱エネルギーを利用して発電を行います。そのため、地熱は火山地帯で利用しやすく、日本は地熱発電に適した国と言えます。
しかし、問題でも言われている通り、1995年以降停滞したままであるのはなぜなのでしょうか。
それは、地熱資源量のほとんどが国立公園の特別保護地区や特別地域内に位置し、開発が制限されてしまっていることが大きな理由としてあります。また、そうした火山地帯には温泉観光地が多く、地熱発電所建設によって温泉が枯渇してしまう恐れがあることなどから建設に否定的な意見も多いようです。

設問(3)

風力・水力・地熱・太陽光のうち、太陽エネルギーによらない再生可能エネルギーを選ぶ問題です。太陽光は名前の通りなのですぐに除外できますし、基本的に気候には太陽エネルギーが関係すると知っていればすぐに地熱と答えられたでしょうが、水力を降水と結びつけられずに少し迷ってしまった受験生も少なくなかったでしょう。

たしかに、水力発電は水の位置エネルギーや運動エネルギーを利用して発電し、水力には水量や落差などが関係しますが、水自体は降水などによってもたらされ、降水に関わる蒸発や冷却などは太陽エネルギーに影響を受けます。よって、地球内部の熱源に由来する熱エネルギーである地熱は太陽エネルギーによらない再生可能エネルギーだと言えるでしょう。

設問(4)

青森県や北海道で風力発電の設備容量が多く他県よりも優れている立地条件について自然条件の面から答える問題です。

まず指摘したいのが「年間を通して安定した強風」です。季節風や山背(やませ)は時期が限られる風なので、不適切とはいえないまでも根拠としては弱くなります。
他の自然条件としては、海岸が多いことでしょうか。海岸沿いは海から吹いてきた強風を最も直接受けられる場所ですので、風力発電に有利です。

自然条件としては以上2つくらいでしょうが、社会条件まで考えると他にもいくつかあります。もしかすると社会条件の方が思いつきやすいかもしれませんね。

風力発電所はある程度大きいので、風通しの良い十分なスペースが必要です。民家が近くにあったり、ビルが建っていたりすると、邪魔になってしまいます。人口が希薄という点でも海岸沿いは有利です。
また風力発電の部品としては重くて大きなタワーや、長さが30メートル超のプロペラがあるので、運搬するための道路や港湾が利用可能である必要があります。例えば、風力発電のプロペラを運搬するには、荷揚げする港から風力発電を作るところまで5m以上の幅の道路が必要です。これも海岸沿いが有利なポイントですね。
あとは、地熱発電のように地元住民が反対すると建設できないですので、地元住民の理解も必要です。

答案比較

設問(2)

Aさん
地熱発電は活火山の近くで海抜が低いのが好ましいが、これらの条件を満たす地域は国定公園が多く、開発が行い辛いため。

Bさん
Aは火山周辺が立地に適しているが、多くが国立公園に位置し開発が制限されているうえに温泉枯渇の懸念から反対が強いから。

Aさんは要素は答えられていますが、少し論理が飛躍しています。国定公園に指定されていることだけでなく、開発が規制されていることなどを述べましょう。また、「海抜が低い」などの地熱発電所の建設に適する条件を書けていて良かったですが、「海抜が低い土地が」と主語を明確にした方が良かったです。

Bさんは要素も上手くまとめられていてとても良い答案でした。

設問(4)

Aさん
西方に海があり、西風が年中安定して吹き付けるため。

Bさん
臨海部に年中風量が多く、台風の影響を受けにくい平地が広がっている。

Aさんの最初に「西方に海がある」と述べている部分は説明不足です。たしかに青森県や北海道の西方には風力発電所が多く設置されており、洋上風力発電には遠浅な海が適しています。解説部分でも海沿いが有利な理由がいくつか出ていました。しかしさすがに「四方に海がある」だけでは表現できていませんね。
なお、ゼミ授業内では日本で洋上風力発電が盛んになってきたのは2019年の再エネ海域利用法あたりからのようなので適切ではないのではないかという意見も出ました。

後半の「西風が年中安定して吹きつける」という部分は、「年中安定した西風」というものが曖昧です。冬の北西季節風では「年中」ではありませんし、偏西風では中緯度全体が該当するため、青森県や北海道の優位性が指摘できません。

Bさんは最初の「臨海部に年中風量が多く」という部分で、「場所に風量が多い」という表現はあまり見かけず読みづらさが出てしまうので、文末の「広がっている。」の前に「臨海部に」を持ってくると良いでしょう。
また、「台風の影響を受けにくい」と書いてしまうと台風が通ってもあまり影響がないという意味にとれるので、そもそも「台風があまり通らない」と簡潔に書いた方が良かったです。

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