2014年東大地理(第2問)入試問題の解答(答案例)・解説

世界のヒト・モノ・情報の流動に関する出題でした。通信・情報量などから考える問題は珍しいですし、全体的に地誌的知識を前提として思考力を試す問題が多く、東大らしい設問でしたね。

設問A

設問(1)

アメリカ合衆国とヨーロッパとの間では特にイギリスとの通信量が多く、アメリカ合衆国とカリブ海地域との間では特にプエルトリコとの通信量が多いそれぞれの理由について答える問題です。

アメリカ合衆国を中心とする2008年における音声電話の通信量の分布を示した図2-1を見てみると、たしかにA国のイギリスとB国のプエルトリコが多いことが確認できます。
この2国の違いは、通信の目的の違いです。
イギリスは世界有数の金融センターであるロンドンが位置し、世界最大の外国為替市場を有するため、同じく金融業が盛んなアメリカ合衆国とは業務関連の通信が多いです。アメリカ合衆国と同じ英語圏に属し、歴史的に関係は深いことからも他の欧州各国より交流は盛んになると考えられます。

プエルトリコに関して知識が充実している受験生は少ないでしょう。日本史選択の受験生は全くわからないかもしれません。世界史選択者なら、1898年のパリ条約によってスペイン領からアメリカ合衆国の自治領になったという知識がヒントになります。
自治領ですから、プエルトリコからアメリカ合衆国へ移住した人々がたくさんいます。プエルトリコにいる親族や友人と通信する量も必然的に増えることがわかるでしょう。もちろん、ビジネスの通信も多いでしょうが、イギリスとの対比を意識して、親族や友人との通信を方針にとるとよいと思います。
字数も短いので、それぞれ簡潔にまとめられると読みやすくて良い答案になります。

設問(2)

アメリカ合衆国とインドとの通信量が急増して、日本・韓国・中国との通信量と比較してかなり多い理由を答える問題です。

インドへはアメリカ合衆国の企業が進出して情報サービス業やソフトウェア開発が盛んに行われていることは有名です。この理由を深堀してみましょう。
2021年度の東大地理 第2問 設問A (3)でも問われているように、インドでは英語が準公用語として設定されていて、英語話者が比較的多いです。
また、インドは発展途上国で賃金水準が低いうえに、理系の教育に力を入れていることなどからIT技術者も多いので安価で豊富な労働力が得られます。
極めつけは、インドとアメリカ合衆国の時差は約半日程度であることです。アメリカ合衆国で本社が終業する頃にインドの支社では始業でき、両地域の間で始業時と終業時に仕事の引き継ぎを行うことで24時間体制で営業し続けられることになります。
こうした利点から東アジアの三国と比べて通信量がかなり多くなるのだと考えられます。

設問(3)

世界の10ヶ国における、人口100人あたりのインターネット利用者数(以下、インターネット利用者数)と1人あたりの国際電話の平均年間通話時間(以下、通話時間)を示した表2-1のa~dにアイスランド、シンガポール、日本、フランスのいずれかを当てはめる問題です。

(1)(2)とアメリカ合衆国に関連する問題であったことから(3)でもアメリカ合衆国と比較して考えられると分かりやすかったかもしれません。
一般的にインターネット利用者数は先進国ほど多くなり、発展途上国ほど少なくなる傾向にあります。そう考えると、先進国の筆頭であるアメリカ合衆国でのインターネット利用者数が多いことは頷ける話です。しかし、a国にはアメリカ以上のインターネット利用者がいます。これは「人口が少ない」ことが理由です。

「一人当たり〇〇」や「100人あたりの△△」のような指標は、統計データを出す際に分子と分母の割り算を行います。もちろん、分母は「人口」です。つまり、人口大国では数値が小さくなって、人口小国では数値が大きくなる傾向があります。
これを考慮すると、a国は経済的に発展していながらも人口が少ないことでインターネットが普及しやすいと考えられ、シンガポールまたはアイスランドなどの小国が入るだろうと推測できます。

また通話時間に関して比較してみると、aとdはアメリカ合衆国とだいたい同じくらいであまりヒントになりませんが、bは極端に短くcは極端に長くなっています。このような極端な数値に着目するのは非常に重要です。
これは(1)の解説でも触れたように国際的なビジネスでの通話と、親族や友人との通話の両側面から考えてみましょう。
日本は、単一民族国家と言われることもあるように、言語も日本語で統一され、海外に日本語話者が少ないです。そこで通話時間が極端に短いbが適当だと考えられます。
逆に、通話時間が極端に長いcは、中国系やインド系、マレー系など多くの民族が暮らしている多民族国家であるうえに、外資系企業の進出が多く観光業も盛んなシンガポールが当てはまると考えられます。
そして、先程も述べた通りインターネット利用者数が多いaは金融業が盛んな小国であるアイスランドが当てはまり、残るdがフランスとなります。

設問(4)

インドとアメリカ合衆国との通信量はかなり多いのに、インドではインターネットや国際電話の利用が他国に比べて低調である理由についてインドの社会状況を踏まえて答える問題です。インドの地誌について知っていれば書きやすい問題でした。

まず、先程も述べたように表2-1では「人口100人あたり」「1人あたり」とあり人口規模が影響します。一般的に人口が多ければ多いほど、貧困層の人口も増えます(人口が多いので当たり前です)。貧困層が多いということは、インターネットを利用できない人が多くなるということです。
他にも、社会状況としてカースト制があります。身分制が残存して地域格差や民族格差を助長しています。

一方、アメリカ合衆国との通信量は多いということから、一部の富裕層や外国企業に勤めるようなエリートなどは情報通信機器を利用しビジネスにいそしんでいます。つまり国内格差が根強く残っていて、多くの貧困層はそれらを利用する余裕がなくなっているということです。

他にも、インターネットを利用するためのインフラ整備について触れても良いでしょう。インターネットを安定して高速で利用するには、設備投資が必要です。国内に基地局や電波授受の施設を建てる必要があります。しかし、インドより国土が小さく可住地面積も狭い、かつ経済発展している日本でもインフラ整備はまだまだです。皆さんも携帯電話やパソコンを使う際に、電波が悪くてイライラすることはいまだにあるでしょう。
インドのように国土が広く、経済発展度も低ければなおさらです。

答案比較

設問(1)

Aさん
Aは同じ英語圏で経済上の結びつきが強く、Bは自治領のプエルトリコに残る家族と米国への出稼ぎ労働者との間で通話が多いから。

Bさん
Aはアメリカと経済的な交流が盛んで、商取引の通話が多く、Bは出稼ぎ労働者が多く、遠方の親族への通話が多いから。

Aさんは、前半のイギリスの部分は簡潔に答えられていて良かったです。プエルトリコについての部分はただ自治領であることやプエルトリコの名前だけ書いても字数を余分にとるだけで加点要素にはなりづらいです。自治領であることは移民が多いことや出稼ぎ労働者が多いことなどに繋げられたら良かったでしょう。

BさんはABどちらも簡潔に述べられていて分かりやすい答案でした。イギリスが英語圏であることやプエルトリコが自治領であることなども書けたらより良い評価が得られたでしょう。

設問(2)

Aさん
インドで英語の普及率が高いことや米国との約半日の時差を活かしてソフトウェア産業やコールセンターの進出が進んだから。

Bさん
インドは英語が広く通用する。そのため両国間の時差を活かし、データを転送し合い24時間連続でICT産業が行われている。

Aさんは簡潔に答えられていて読みやすくとても良い答案でした。

Bさんは後半の部分で、どちらの国でも24時間ずっと営業しているようにもとれます。字数も短い問題ですので、Aさんのように「半日の時差を活かしている」くらいで十分ではないでしょうか。そもそも時差に気づいて答案をかけるかどうかを問われている問題ともいえます。

設問(4)

Aさん
貧富の差が大きく、インターネットや国際電話を利用出来る経済力をもつ人口が少ないうえ、農村部では電話の普及率も低いため。

Bさん
インドは国内の貧富の差が大きく、地域によって通信機器の普及率に差があるので、通信機器の利用が他国に比べて低調である。

Aさんは貧困層が多いことを丁寧に述べていますが、字数をとても多く取ってしまうので「インターネットや国際電話」をBさんのように「通信機器」とまとめてしまうのがおススメです。情報インフラの整備が遅れていることなどの他の要素も書けたら良かったでしょう。

Bさんは最初の「インドは国内の」という部分はカットして大丈夫でしょう。
「地域によって通信機器の普及率に差がある」という部分はアメリカとの通信は多いことを考慮した文なのでしょうが、曖昧な表現になっていて加点される可能性は低いです。富裕層などの一部の人々による利用が集中しているなどと表現した方が分かりやすいです。
後半の文は問題文をそのまま言い換えたような表現なのでここもカットして他の要素を書けたらより良い答案になったでしょう。

設問B

設問(1)

ヨーロッパの主要都市圏で国際旅客数の絶対数と1990~2010年にその伸びが大きくなっている理由について答える問題でした。

ヨーロッパで国際関係といえばまずEUを意識するでしょう。また、図2-2で示されている1990年、2010年という時期にも注目したいところでした。
EU域内では人の移動が自由化されていることは有名ですね。答案にはこの事実だけ書けば十分ですが、シェンゲン協定などについても言及した受験生もいたのではないでしょうか。しかし、これは設問文にロンドンが示されていることから事実誤認となってしまいます。(ロンドンはシェンゲン協定に加盟しませんでした)こうしたリスクがあるため今回は具体的な条約名などは書かない方が安全でした。

シェンゲン協定は締結国において国境審査なしで国境を越えることを許可する、つまり人の移動の自由を許可する協定で、1985年に当時のECに加盟していたベルギー・オランダ・ルクセンブルク・フランス・西ドイツの5カ国がルクセンブルクのシェンゲンで調印し、10年後の1995年にスペインやポルトガルを含めた7ヶ国で発行しました。
現在は26ヶ国もの国が協定を結んでいますが、イギリスやアイルランドは参加しておらず、イギリスに関しては2016年6月23日の国民投票でのEU離脱選択から約3年半の歳月を経て、離脱協定に基づき2020年1月31日にEUを離脱し、2020年末までの移行期間を経て、EUから完全なる離脱を果たしました。

以上のように、人の移動の自由が認められていることから旅行客も含めてEU域内での移動がしやすくなり、EUの拡大とともにヨーロッパの主要都市圏で国際旅客数は増加することとなりました。
また、1990年には12ヶ国だったEU加盟国も東欧諸国の加盟などを経て2010年には27ヶ国にまで増え、ますます国際旅客数は伸びていったと言えるでしょう。

設問(2)

アジアの主要都市圏である香港、ソウル、上海、台北で国際航空貨物の取扱量が大幅に増加した共通の理由を答える問題です。

1990年と2010年の各都市圏の取扱量を比べてみるとその差は一目瞭然ですが、上海では1990年のデータがなく、不思議に思った人も多いでしょう。これは1990年に上海に国際空港が開港されていないことを示しています。このことから2000年頃に新たに国際空港が開港されだしたのではないかと推論が可能ですし、実際に1999年には上海浦東国際空港が開港されており、2000年頃にはアジア各都市圏で国際空港が新たに開港・増設されるなど、ハブ空港の整備が進みました。
また、この頃の中国、韓国、台湾が経済的に大きく成長していることは有名ですね。特に中国は驚異的な速さで発展し、2010年にはGDPで日本を抜いて世界2位まで成長しています。
他にも、グローバル化や安価で豊富な労働力を狙った多国籍企業の進出などで国際分業が促進されたことなども理由として挙げられるでしょう。

答案比較

設問(1)

Aさん
シェンゲン協定の締結や広範囲でのユーロの導入により、EU域内での人の移動が活発になり、ハブ空港の整備が拍車をかけた。

Bさん
EU加盟国の増加に加え、EU域内の移動が自由化され、またハブ空港の整備などの影響でEU域内で観光する人が増えたから。

Aさんは解説でも述べた通りシェンゲン協定は事実誤認になる恐れがあるので書かない方が良かったでしょう。前半はある程度の要素が書けていて良かったのですが、後半の「拍車をかけた」は何に拍車をかけたのか分かりづらいです。また、「〇〇に拍車をかける」という表現は慣用表現なので、よりシンプルな言葉を選ぶと良いでしょう。「助長する」などはいかがでしょうか?

Bさんは要素はたくさんかけていますが、読みづらいです。「加盟国の増加」「移動の自由化」「ハブ空港の整備」の3つを挙げていますが、ABCの3つを並列されるときには、「AやB、C」とつなげるのが基本です。
最後の「観光する人が増えたから」は、移動目的を観光に限定してしまっているので「空港利用者が増えたから」などと目的を限定させない方が良いでしょう。

設問(2)

Aさん
国際分業が東アジアで進み、電子製品の組み立てが多く行われるようになったため、ハブ空港が整備され交通の便が増したから。

Bさん
アジア各国が急速な経済成長を遂げる中で国際分業体制の構築が進むとともに各地の空港にハブ空港としての機能が整えられたため。

両名とも要素がしっかりと書けていますね。
Aさんは、「電子製品の組み立てが多く行われるようになった」ことと「ハブ空港が整備された」ことを因果関係でつないでしまっていますが、強引です。ここは「~~に加え、」など並列や添加でつなげる方がよいのではないでしょうか?

Bさんは簡潔で分かりやすい答案でしたが、何の国際分業体制が構築されたのかを明示するとより分かりやすかったでしょう。

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