2015年東大日本史(第3問)入試問題の解答(答案例)と解説

設問Aの分析、及び対応する資料文の分析

普段では設問を見て方針を定め、資料文にて要素を拾うというプロセスを踏んでいるため、設問→資料文と分析項目を分断していますが、問題の形質上、今回は同時並行で行いたいと思います。
そしてまず踏まえておきたいA,Bに共通する大前提として、江戸幕府が開かれ政治の中心地が移された江戸では急激に人口が増加し、人々の暮らしを支えるために大量の食糧・物資が必要となった。という事情がありますね。

設問A

(1)の表では、大量に送られた商品とそうでない商品との差が明瞭である。繰綿・木綿・油・醤油・酒の5品目が大量に送られているのは、どのような事情によるか。生産・加工と運輸・流通の両面に留意して、3行以内で述べなさい。

まずはこの問題の全体像を確認しましょう。この設問文は(1)の表を用いて解答するように指示しています。そして、表で実際に答案に使用する部分は、左半分の5品目のみです。
その5品目に関して、(2)~(4)の資料を用いながら、生産加工パートと運輸流通パートの2点に「留意しながら」記述します。

というのは、この設問の答案作成において、骨格を意識しなかった場合、安直に「生産加工面での西日本の優位性を羅列したあと、運輸流通面を書いて帰結として終わり。」という形になりかねないということです。そのような答案にするのは理想的でなく、注意すべきと思われます。大前提として、この設問が問うているのは「5品に関しての生産加工の事情と運輸流通の事情の記述」ではないからですね。問われている内容は、「表の5品が大量に送られている事情はなぜか」だからです。細かい部分ですが、限られた時間の中の試験ではおざなりになりかねない部分であるため、初めから注意するクセをつけた方が良いでしょう。

資料文(2)

(2)江戸時代には、綿や油菜(菜種)が温暖な西日本で盛んに栽培され、衣類や灯油の原料となった。

この資料文では、当設問の生産・加工パートについて記述されています。

江戸地廻り経済圏の位置する東日本に対して、より温暖な西日本の気候が栽培に有利である。という内容ですね。そして3行答案に盛り込める内容としては「栽培に有利な温暖な気候条件」程度でしょうか?問いの形に対応して上手く文章を繋ぐことを考えれば、これでもやや多い方でしょうか。

ところで、地理選択の方はわかるかもしれませんが、この内容は植物のイメージに反する内容な気もします。
確かに綿の生育条件に関していえば、熱帯および亜熱帯〜せいぜい温帯の気候下で生育する高温多雨(及び収穫期の乾燥)を求める植物ですが、油菜(菜種)に関しては、現在は1位の北海道と2位の青森で国内の生産量の85%を担っていたり、世界の生産国ランキングでは中国にほぼ並んでの2位にカナダがランクインしていることから、冷涼な気候を好むイメージがありますよね。
ということで、商業向けの大量加工技術が卓越していることから生産も盛んである。という方向性がかんがえられます。なので、方針としては栽培が盛んである直接的な因果関係に「温暖な気候」を盛り込むことは避けます。

長くなりましたが、結論としては、答案に盛り込めるのは「西日本は東日本に対して気候条件や商業向けの栽培加工技術が優れること」あたりでしょうか。

資料文(3)

綿から摘まれた綿花には種子(綿実)が入っていたが、それを繰屋が器具で取り除き、繰綿として流通した。繰綿や木綿は、綿の栽培されない東北地方へも江戸などの問屋や商人を介して送られた。

この資料文には、南海路を用いて大坂から江戸に輸送する商品には東北地方で消費する分も含まれていたため大量になっていた。という内容が記されています。これを記述に盛り込みましょう。

資料文(4)

当時、菜種や綿実を絞って灯火用の油を取ったが、摂津の灘目には水車で大規模に絞油を行う業者も出現した。上総の九十九里浜などでは、漁獲した鰯を釜で煮て魚油を取り、これも灯火に用いられたが、質が劣るものだった。

この資料文では予備知識を基に、まず油系統は当時専ら灯火に用いられていたことを読み取ります。

そしてここでも西日本と東日本での比較があります。
西日本の摂津灘目は商業的に(大規模で効率的に)絞油していたことがわかります。加えて、単純に質という面でも東日本の上総の九十九里浜産の魚油より優れていた、と。
西日本にすでに一度に大量に生産できて、かつ質の良い商品があるならば、東日本側からしてみれば、絞油は労働資本の投入先としては得策ではありません。取り寄せた方が良いわけですね。これは、現在の日本と中国やアメリカなどの諸外国との農作物の貿易事情と照らし合わせて考えてみても同じことが言えます。国内生産量でシェアを賄うより輸入した方があらゆる効率が良いわけです。
よって、この資料文から抜粋したい要素は、「(灯火用の油は)西日本で商業的に大規模な生産が出来ていたうえ、質も優れていた」といった感じです。

答案構成を検討

以上の資料文を踏まえた上で文章を構成すると、西日本は東日本に対して気候条件や商業向けの栽培加工技術が優れること。南海路を用いて大坂から江戸に輸送する商品には東北地方で消費する分も含まれていたこと。西日本で商業的に大規模な生産が出来ていたうえ、質も優れていたこと。となります。

もちろんこれらを盛り込みますが、答案の骨格として扱いづらいです。あくまでも単純な資料文のコピーペーストの羅列になってしまいかねないです。これらには生産・加工面での西日本の優越と東北地方への分も含まれていたなどの運輸・流通面の事情は留意されていますが、問いの「大坂の町人が江戸へ送った量の表の中で、左半分の五品目が大量に送られている理由」としてのダイレクトな解答として的確とは言えないでしょう。
ゆえに大前提ではありますが直接的な理由としてまず、大消費地である江戸の需要を満たすということと、西日本の産品が大坂に集積することを骨格に据えるよう解答したいと思います。

設問Bの分析、及び対応する資料文の分析

一方、炭・薪・魚油・味噌の4品目は、とるに足らない量で、米も江戸の人口に見合った量は送られていない。それはなぜか。炭など4品目と米とを区別して2行以内で述べなさい。

こちらの設問では(1)の表の右半分の部分について出題されています。

左半分との比較になっています。東大はこのような二極化した傾向を比べたようなグラフの問いは出すのが好きな印象がありますね。
そして、そのなかでも1つ注文があります。「米とその他4品目を区別して」輸送量が少ないことを記述する必要があります。
例年の東大では〇〇と△△を比較して、のような出題が多いですが、珍しく区別という表記になってますね。せっかくですので字数の都合がない限りは表記を合わせて丁寧に答案してみます。「(炭など)4品目は〜。米は〜。」のようなフォーマットを採用します。
では資料文の分析に移りたいと思います。

資料文(2)

この資料文には対応する箇所がありませんね。しかし裏を返せば、西日本に東日本に対しての気候条件や生産の盛んさといった優越がないということも言えます。

資料文(3)

この資料文にも対応する箇所はありません。

しかしながら、東京を介して東北に運ばれたという部分から東廻り航路の海運を想起することとなります。これが解答のヒントにもなりますね。そもそもの東廻り航路開発の目的と、東北地方から流入する品目に関しての気づきのサポートになります。

そもそも江戸幕府は東北地方から安全かつ迅速に年貢米を持ってくることを目的として河村瑞賢に、航路の開発を命じたわけです。それが、酒田(当初は元宮城県の荒浜)〜江戸を繋ぐ東廻り航路です。それにより需要の一部は満たされていたということですね。これが米に関しての解答の軸です。

資料文(4)

この資料文にも対応する箇所はありません。
しかし、江戸の近郊で漁獲や魚油(4品目に該当)の生産があったことはわかりますね。

答案構成を検討

以上となりますが、これらの資料文で直接示されていた内容はありませんでした。しかし、先述の通り、解答の助けになるヒントはありましたね。これら踏まえて解答の方針を立てます。

この設問Bはある意味で設問Aと関連していますね。逆の関係性です。
Aでは、西日本が、5品目の生産の振るわない東日本に対して、諸々の優越する条件を利用して多く生産し輸送することで大消費都市江戸の需要を満たしていたわけです。
Bではその必要がなかったわけです。つまり、江戸の需要が東日本、殊に江戸地廻り経済圏で賄えていたわけですね。

そしてもう一つ。Aでは東北地方の分までも江戸に運ばれてきていたため大坂からの輸送量が更に増していたわけですね。一方Bでは、米に関してですが、逆に東北地方から流入してくる分があったために大坂からの輸送量が減っていたわけです。
このように、図表を用いつつ問われている大問では、結果に繋がる道程の部分を紐解きのヒントに活用できるケースがあります。そして今回のように二極化されている傾向が比較されているものに関しては、原因やプロセスも逆、対照的であったりもするわけです。行き詰まった際には、そういった部分に注目し、推測することでヒントとなることもありますね。

答案例

設問A

気候条件や栽培、加工技術が優れる西日本では、上質な商品を大規模に生産し、大消費都市の江戸の需要を満たすべく南海路にて輸送した。その際、東北地方で消費する分も運んだため大量になった。

設問B

4品目は地廻り経済圏での生産で江戸の需要を賄ったから。米は東廻り航路で運ばれる蔵米で江戸の需要の一部を満たしていたから。

まとめ

問われ方に対しての答え方を意識したいです。
前述の内容に関してもそうですが、それ以外の部分でも、Aでは「事情」を述べるように、Bでは「なぜか?」に対して「~から。」で解答を作成できるように、締めの部分を大切にしていきます。
そして図表やグラフの問いに関しては、示されている数値などの結果をただそのまま受け取るよりも、なぜわざわざこの表を用いているのかということを考えて、その結果に至るまでの行動や背景事情などの因果関係を推し量ることで解答のヒントになったり、論述の論理関係の構築で充実化が図れたりすることもありますね。

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