1999年 東大国語 文科第3問(古文)『芭蕉翁頭陀(ばせうをうづだ)物語』解答(答案例)と現代語訳

はじめに

俳諧逸話です。
東大古文では2019年にも『俳諧世説』という俳句関連の出題があります。

2019年 東大国語 第2問(古文)『俳諧世説』解答(答案例)

本問は読みやすいけれど記述が難しい問題なので、記述力強化のために取り組みましょう!

解答例(答案例)とプチアドバイス

(一)傍線部ア・イ・ウ・エを、わかりやすく現代語訳せよ。【各1行】

ア 人の知らざるを宝にかへ

答案例:世間の人々に、あなた方盗人の来訪を知らせないことを宝物の代わりとして

プチアドバイス: 「宝にかへ」の「かへ」はチェンジの「変え」ではなく代理の「代え」です。

 

イ まことに表より見つるとは、貧福、金と瓦(かはら)のごとし。

答案例:本当に、家の外から見た様子と実情とでは、貧富の差が金と瓦ほどに大きい。

プチアドバイス: 省略されている「実際・実情・家の中・内」といった語を補足できるかがポイントです。

 

ウ 御坊にこの発句させたるくせものは

答案例:あなた様にこの俳句を詠ませるきっかけとなった放火犯は

プチアドバイス: 「詠ませた」だと、指示・命令したようになってしまいます。

 

エ 苦楽をなぐさむを風人といふ。

答案例:俳句で苦しみや楽しみの心を和らげる人を風流人と言う。

プチアドバイス: 「火につけ水につけ発句して遊び給はば~」からの流れから、「俳句で」等の語を入れたいです。

 

(二)「ありのままに句に作らば、我は盗人の中宿なり」 (傍線部オ) とあるが、野坡はどういうことを心配しているのか、説明せよ。【1行】

答案例:自分が盗人を休ませたことが露見し、共犯の罪に問われること。

プチアドバイス: 「盗人を匿った〔泊めた・休息させた〕」等の語を入れたいです。「盗人が入った」など、被害者に過ぎない解答はNGです。

 

(三)傍線部カは何をぼかして言ったものか、簡潔に答えよ。【0.5行】

答案例:野坡の家に侵入した盗人らが残した足跡

プチアドバイス: 「あと」も、アフターの「後」か、なにの「跡」かが省略されているので、「足跡」と書きたいです。

本文と現代語訳の併記(JPEG)

本文と現代語訳の併記(PDF)

1999年『芭蕉翁頭陀物語』現代語訳

現代語訳

 ある夜、雪が激しく降って、家の前の人の足音も夜更けと共に消えてゆき、布団を被って寝入った。夜明け近くになって、障子をこっそりと開け、盗人が入ってくる。娘が驚いて、「助けてよ、皆さん。おおい、おおい」と泣く。(芭蕉の門人の志太)野坡が起き上がって、盗人に向かって、「私の粗末な家は、家宝さえも無い。そうではあるけれども、ご飯一釜と良いお茶一斤は持つことができている。柴を折って(囲炉裏に火を)くべて、(あなた方が)暖まって、(盗人に入った罪を)人に知られないようにすることを宝の代わりに差し出し、夜明けを待たないで(あなた方がここを)立ち去れば、私にも罪はないでしょう」と会話(の調子が)平常なので、盗人も気持ちが和らいで、「本当に、(家の)表玄関から見たのと比べると、貧富の差が、金と瓦のよう(に大きい)。そうであるならば、御馳走をいただこう」と、覆面のまま並んで座って、いろいろな会話をする。(盗人の)中に、年老いた盗人(がいて、その者が)、机の上を手探りで物色し、句を書いているものを(見つけて)広げたところ、
  粗末な家で起こった急な火事から逃げ出て
 我が家の(庭にある)桜もつらそうだ。火事の煙が木を襲い掛り、煙の花が咲いているかのようになって。
という句を見つけ、「この火事はいつのことか」(と尋ねる)。野坡が言う、「いついつの頃である」。盗人は手を叩いて、「お坊さん(=野坡)にこの俳句を詠ませた犯人は、最近処刑された。火事であっても水害であっても俳句にして遊びなさるならば、今夜の概要も俳句になるだろう。今聞かせて欲しい。」野坡が言うことには、「苦しい時も楽しい時も、心を和やかにするのを風流人と言う。今夜のことは、格別に面白い。けれども、そのままに句を作れば、私は盗人に宿を貸した者となる。(窃盗の共犯者として罪人になる。)ただ何事も知らないようです(ということにしておいて下さい。)と。」このような俳句を書いて(盗人に)与える。
  垣根をくぐった雀ではない足跡が、雪道に残っている。

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