2024年東大地理(第2問A)入試問題の解答(答案例)・解説

はじめに

本問は世界の地勢をテーマにしています。
おそらく、与えられた図表を目にした瞬間に、「うわ!これ絶対に解けないやつ!」と諦めた受験生も一定数いたのではないでしょうか。

ですが、過去問探究をしっかりやってきたならば、「これ、リード文か設問のどこかに美味しいヒントが隠されているパターンじゃないかな?」と瞬時に高揚感に包まれたはずです。
このあたりは、学力によるものではなく、過去問探究の経験値によるところが大きいです。

さて、リード文を早速読んでいくと、なんやら細かな数値がたくさん並んでいますが、要はアジア・アフリカ・オーストラリア・北アフリカ・南アメリカ・ヨーロッパの6つの大陸を比較させようとしている問題だということがわかります。
ただ、地上やら海底やら高度帯やら土地被覆やらと小難しい漢字が続くので、心折れてしまった方もいたのではないでしょうか。
こうした時は、まず設問文を(1)〜(4)まで見通してみるんです。
その中で、この大問の全体像を鳥瞰することは極めて有益です。
東大地理ではあらゆる設問情報を駆使せよ、と1Bの解説記事で申し上げましたが、それは本問にも通用する理です。

なお、国土地理院のホームページにデジタル標高地形図がアップされていますのでリンクをお知らせいたします。

https://www.gsi.go.jp/CHIRIKYOUIKU/world_landform.html

それでは、早速、各設問について見ていくとしましょう。

実際の入試問題入手先

なお、本解説記事を読むにあたっては、事前に入試問題をご入手いただけると幸いです。

産経新聞さんが期間限定で問題を公開されています。
https://nyushi.sankei.com/honshi/24/t01-53p.pdf

東大のホームページでも、春先に最新年度の社会の問題が公開されますので、産経新聞さんのリンクが切れたのちは、こちらをご活用ください。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html

設問(1)

問題

図2ー1によると,水深0〜3kmの海底の面積は陸地の全面積よりも小さいが,水深3〜6kmの範囲の海底の面積は陸地の全面積よりも大きい。後者を含む深海底は,陸地からは離れているものの,将来の世界の経済に大きな影響を与えると考えられている。その理由を2行以内で述べよ。

解説

設問文をご覧いただければわかるように、図2ー1は解答とは無関係です。
つまり、受験生を虚仮威す(こけおどす)ために図2ー1が出されているとも考えられましょう。
本問の最大のヒントは、「将来の世界の経済に影響に与える」という記述です。影響というからには、➕のものと➖のものがありますが、ここでは➕のものと考えてください。
海底に眠っている「もの」が未来の経済活動に大いなる利益をもたらしてくれると言われています。

お気付きですか?海底に眠る宝、レアアースやレアメタルです。
教科書には次のように書かれています。

(二宮書店2023地理探究p185)

日本周辺の海洋資源・・・深海底には多くの鉱物資源があることも確認されている。・・・・南鳥島周辺の海域には,レアアース(希土類)やコバルトなどのレアメタルが発見されている。工業生産に欠かせないレアメタルの多くを中国などからの輸入に頼っているが,技術が確立し海底資源の利用が進めば自給への道が開かれる。

メタンハイドレートは,天然ガスの原料のメタンが海底下で氷状に固まったもので,水深500mよりさらに深い海底下の地層に埋蔵されている。日本では太平洋側の大陸棚斜面などに埋蔵が確認されており,渥美半島や志摩半島沖の東部南海トラフ海域だけでも,国内の天然ガス使用量の11年分に相当する量があると推定されている。

海底熱水鉱床は,地殻に含まれている各種金属がマグマに熱せられた熱水といっしょに噴出し,海水に冷却され,海底に沈殿してできる。・・・・日本の周辺の海底熱水鉱床は世界的にも比較的浅いところに分布しているため,比較的開発しやすく,その活用が期待されている。

といった具合に、かなりボリュームある記述が大々的になされています。
ちなみに、敬天塾の直前演習でも、南鳥島付近のの深海底開発に関する問題を出しました。
開発に携わる東京大学のホームページでも開発基金を募るなどしています。
https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt124

(読売新聞記事)https://www.yomiuri.co.jp/politics/20221030-OYT1T50259/

今年は、シェール革命の話を1Bで出したり、海底資源の話が登場したりと、新しもの好きの東大らしい問題が数多く出題された印象です。
やはり最新の教科書や資料集で情報のアップデートを図ることが極めて重要だということが今年の問題でも証明されましたね。それでは、解答例をご案内したいと思います。

将来の世界経済の中核をなす先端産業の発展に不可欠なレアアース等の希少な資源が多く深海底に賦存していると確認されたから。(59字)

化石燃料や将来の世界経済を牽引する先端産業に不可欠な希少資源が多く埋蔵しているとされ、開発ができれば安定供給が叶うから。(60字)

設問(2)

問題

図2ー2のア〜カのうち,ウは北アメリカ,カはアフリカである。他の4つがどの大陸に対応するかを,アー◯◯のように答えよ。

解説

東大入試直前に敬天塾が一般公開した東大地理対策ドリルを解かれた方は驚かれたのでしょうか。
塾長が予想した問題と瓜二つだからです。
ちなみに、塾長は南極大陸も盛り込んでいましたから、本問よりも難易度は高かったと言えましょう。

地理 東大対策問題集 4つセット(思考編①②、知識編①②)

大陸別の高度分布については、入試で時たま見かける問題です。
世界の地形を頭に入れていれば難なく解ける問題はありますが、いきなり標高別の高度分布が出されると、どの数値に着目すれば良いのかわからず、思考がフリーズしてしまう方も多いのです。
東大側としては、そこを狙って本問をチョイスしたのだと思います。

まず、本問では、設問で、「ウ」が北アメリカで、「カ」はアフリカだと明示してくれています。
これは実にありがたいです。

さらに、設問(3)の設問文を先読みしてみると、「ア」の大陸は標高が高い土地の面積が大きい傾向にあると記されています。
標高が高いということは、高くそびえ立つ山があるということですから、それだけ造山運動が活発な地域だということにもなります。
残るアジア・オーストラリア・南アメリカ・ヨーロッパで、高峻な山が多い大陸といえば、新期造山帯が横に長く広がるアジアだというのは明らかですね。
つまり、この時点で、「ア」はアジアだとわかり、残るオーストラリアと南アメリカとヨーロッパの三者のいずれが「イ」「エ」「オ」なのかを考察していけば良いことになります。

ここで、さらにさらに、設問(4)も先読みしてみましょう。
すると、「エ」と「オ」は共に500m以下の陸地の面積比率が高いとあります。
ここで、図2ー2を見てみると、「オ」に至っては、2000m以上の山がありません。
このことから、低平な大陸であるオーストラリアが「オ」だとわかり、古期造山帯や安定陸塊が広がるヨーロッパが「エ」だと確定できます(アルプス山脈があるので、図2ー2では3000m級の山が存在していることになっているのでしょう)。
こうして残る「イ」が消去法で南アメリカとなります。セコイ技だと思われ方もしれませんが、これが東大地理制覇の極意なのです。

以上より、アーアジア、イー南アメリカ、エーヨーロッパ、オーオーストラリアとなります。

設問(3)

問題

図2ー2のアの大陸は,他の5つの大陸に比べて標高が高い土地の面積が大きい傾向が明瞭である。この原因となっている大地形の特徴を1行で述べよ。

解説

本問は、問題そのものとしては易問なのですが、設問の日本語が東大地理にしては珍しく下手くそなのです。
私の考え過ぎなのかもしれませんが。
まず標高が高いということは、造山運動が活発で高峻な山脈や高原が多く存在しているからだというのは、すぐに気づけなくてはいけません。
日本人なら特にです。
これだけのことなのですが、設問の「この原因となっている大地形の特徴」という聞き方に頭を悩ませました。

新期造山帯は紛れもなく大地形の一種ですから、その特徴ということで、高峻な山脈や高原が多く形成されると答えるのが自然なのかなとはじめは思いました。
ただ、「この原因となっている大地形の特徴」が指すものが「アジア大陸の標高を高くしている新期造山帯の特徴」と読むこともできるので、そうなると、大陸プレートが衝突するだの、狭まる境界だの新期造山帯を形成したアジア大陸特有の原因にも言及しなくてはいけないのかと悩んでしまったのです。
今年の東大地理で一番悩んだ問題が本問です(笑)。

正直、どう答えて良いのか悩むところではあるのですが、ここでははじめに解釈した方針で解答例を示したいと思います。
本問だけが自信のない問題です。
皆様のお考えをコメントでいただけると幸いです。

解答例

新期造山帯が広範囲に広がり、高峻な山脈や高原の割合が高い。(29字)

設問(4)

問題

図2ー2のエとオの大陸は,共に標高500m以下の陸地の面積比率が,他の大陸よりも大きいが,そこでの土地利用・土地被覆の特徴は2つの大陸で大きく異なっている。どのように異なっているかを,相違が生じた理由とともに2行以内で述べよ。

解説

まず、標高が比較的低い陸地ということで、オーストラリアとヨーロッパを挙げることができます。
詳しくは設問(2)の解説もご参照ください。
要するに本問は、ヨーロッパとオーストラリアの土地利用・土地被覆の相違点について理由とともに説明せよと要求しているのです。
問われているのは2点です。

  • オーストラリアとヨーロッパの土地利用・土地被覆の相違点
  • その理由

まず、「土地利用」と「土地被覆」の定義から確認するとしましょう。
「土地利用」は、人間がどのように土地を利用しているのかということです。農地として利用したり、放牧地や牧草地として利用したり、住宅地にしたり、工業用地にしたり、道路にしたりと様々です。
その一方、「土地被覆」は一見馴染みの薄い言葉に思えたかもしれませんが、読んで字の如く土地を覆うものです。
裸地もあれば、草地もあれば、森林や湖沼となっている土地もあれば、人工的な建造物で覆われていることもありますね。
このように考えると、「土地利用」と「土地被覆」は当然無関係なものではなくなります。

細かく考えれば、ヨーロッパにもオーストラリアにも色んな種類の土地利用がありますから、綺麗に区別なんて出来っこありません。
ですが、大まかに(マクロに)捉えたならば、相違点は見出せるのではないでしょうか。

たとえば、オーストラリアに関して受験生が知っている教科書レベルの知識であれば、オーストラリアは国土の大半が乾燥帯地域ですよね。
だから、沿岸部に人口が集中しているわけです。
敬天塾オリジナルの東大地理分析シートでもお分かりいただけるように、東大は日本と関係の深い地域や国の問題を繰り返し繰り返し高頻度で出題してきています
ぜひ、そうした国や地域の自然地理や地誌をしっかり確認するようにしましょう。

では、ヨーロッパはどうでしょうか。
ヨーロッパと言っても広いですが、北部には平原や丘陵性の山地が広がり、南部には急峻なアルプス山脈が分布しています。北部の一部には氷河地形がみられますが、全体的にオーストラリアと比べれば湿潤な気候です。
また、人口は広く均等に分布しているように思えます。
ですので、オーストラリアのように沿岸部にだけ人口が集中しているわけではありません。

ここまで書けばお気付きかと思いますが、今年度の1Aも2Aも自然地理を東京大学は重視しますよと高らかに宣言しているようなものです。
自然地理を軸に農業や産業、人々の暮らしについて有機的に結びつけて考えてくださいねとメッセージを発信しているわけですね。

以上より、

解答例

エは湿潤な気候が主なため森林や都市が広がり耕地利用が多く、オは乾燥気候が主のため砂漠やステップが広がり牧草地利用が多い。(60字)

 

長くなりましたが、皆様の学習の一助になれましたら幸いです。なお、6月ごろに作問担当の東大教授が講評を発表しますので、確認の上、敬天塾のホームページですぐにご紹介いたします。ぜひ、ブックマークなどをお願いいたします。

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敬天塾では、さらに深く学びたい方、本格的に東大対策をしたい方のために、映像授業や、補足資料などをご購入いただけます。

上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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映像授業コース(旧オープン授業)【東大地理】

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