2024年東大地理(第3問A)入試問題の解答(答案例)・解説

はじめに

第1問〜第2問のゴツイ考察問題を経て、この第3問にたどり着いた方は、もしかしたら「わーい!やったー!!シンプルな問題になったぞ☺️」とスマイルを取り戻せたかもしれません。

ですが、本当に3Aや3Bはお得な問題なのでしょうか。
一見複雑に見える図表の読み取り負担がなくなった分、知識レベルの要求水準が高まったとは言えませんでしょうか。
東大過去問を探究してきた私からすると、基礎に忠実な地理的思考だけで解ける第1問〜第2問の方がよっぽど有り難かったです。
見た目のゴツさと、設問難易度は相関関係にはないと先ずはお伝えいたします。

さて、第3問では東大頻出の都市にまつわる問題が出題されています。
この3Aでは、その中でもアメリカの都市にフォーカスがあてられています。
東大地理ではアメリカの地誌も頻出でしたね。
「え?そうなの?」と思われた方は、敬天塾の過去問分析シートをぜひお手元に置いてチェックをしてください。

東大地理分析表(1983~2024年)ダウンロード可能

それでは、早速、設問解説に移りたいと思います。

実際の入試問題入手先

なお、本解説記事を読むにあたっては、事前に入試問題をご入手いただけると幸いです。

産経新聞さんが期間限定で問題を公開されています。
https://nyushi.sankei.com/honshi/24/t01-53p.pdf

東大のホームページでも、春先に最新年度の社会の問題が公開されますので、産経新聞さんのリンクが切れたのちは、こちらをご活用ください。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html

リード文

   次の文は,アメリカ合衆国のある都市に関するものである。

   もともとこの都市を含む地域一帯は, アメリカ合衆国成立期の係争地だった。18世紀半ばに,カナダ東部に入植したアカディアンが追放され離散した際, その一部がここに定住し、異なる文化が融合して独特の料理や音楽などが生まれた地として知られる。

  この都市周辺は,メキシコ湾に注ぐ広大な(ア)川が氾濫し、 運んできた土砂が堆積して形成された (イ) にあり, 周辺より少し高い河畔の (ウ) 上に市街地が形成された。そして, (ア)川の河口に位置する地理的特性を活かし、(A)港湾都市として発展を遂げた。

   20世紀以降は, ポンプ排水技術が進歩し, 堤防が築かれたことにより,さらに低地に市域が拡大したが, 21世紀に入り, 大規模な災害に相次いで見舞われている。そのうち,(B) 20058月に発生したハリケーンに伴って生じた自然現象による被害を検証してみると、(C)特定のエスニック集団が顕著に被災したことがわかった。復興過程でもこの問題が顕在化し, 政治問題に発展した。

設問(1)

問題

この都市の名称を答えよ。

リード文が長く驚かれた方もいたやもしれませんが、正解はニューオーリンズです。
この問題は、絶対に落としてはいけません。
東大2008の1Aでも「デルタ」「ハリケーン」と共に書かせいます。
ちなみに、東大はやけにニューオーリンズが好きなようで、今年は東大英語の第5問でもニューオーリンズが登場しました。

ちなみに、センター試験(共通テストの前身)でも2010年に

ニューオーリンズは,ミシシッピ川河口部に位置する港湾都市であり,メキシコ湾岸で採掘される石炭の積出港として重要である。

と選択肢で紹介されています。
それくらい知らなければならない都市名です。

設問(2)

問題

上記文中の(ア)の河川名と,(イ)と(ウ)の地形名称を,アー◯◯のように答えよ。

 

設問(1)でも述べた通り、東大2008-1Aの焼き直しに過ぎない設問です
ただし、(ウ)は答えられない人もいたかもしれませんが、河の近くで周辺より少し高いところに市街地ができる場所だと言われれば、反射的に「自然堤防」というキーワードを思い出せるようにしましょう。
東大2019-1Bの敬天塾解説を読み込んだ方には当たり前に思えたことでしょう。

【東大地理】2019年第1問の解答(答案例)と解説

それでは、正解です。
アーミシシッピ    イー三角州(デルタ)   ウー自然堤防

設問(3)

問題

下線部(A)「港湾都市」としてこの都市が栄えた理由を,(ア)川流域の産業との関係から,1行で述べよ。

なんの面白みもない知識問題です。
ヒントは「ミシシッピ川流域の産業」でしょう。
この一帯は、コットンベルトと言われ、かつてイギリス綿工業の原料供給地として黒人奴隷を搾取して発展していました。
世界史選択の方には馴染みのある話だと思います。
ミシシッピ川は中西部の穀物(トウモロコシや大豆や小麦)をニューオーリンズまで運ぶ内陸部の大動脈なのです。
このあたりをまとめれば、答えを紡ぎ出すことができるでしょう。

解答例

流域で生産された穀物や綿花の積出港として発展したから。(27字)

設問(4)

問題

表3ー1は,下線部(B)の災害が生じた直後と,その約1週間後の都市域における人口と自宅の浸水状況についてエスニック集団別に示したものである。この表を参照し,なぜ,下線部(C)のような事態が生じたのか,考えられる理由を2行以内で述べよ。

ようやく頭を使う問題がやってきました。
これまでの(1)〜(3)は30秒でパパッと解けなければいけない問題です。
差がつくのは、この(4)と次の(5)です。
こういった問題に貴重な時間資源を投下できるよう、基礎問をサクッと終えられる知識力を身につけるように心がけましょう。
そうした意味で、共通テスト地理の勉強は東大対策にも有益だと言えます。
さて、まずは。表3ー1をご覧いただくとしましょう。

このようなデータが示された場合、まずは他とは異なるぶっ飛んだ数字(他より顕著に大きいOR他より顕著に小さい)に着目するのが鉄則です。
すると、黒人の被災宅の多くは、ハリケーンによる浸水被害が発生してから1週間経っても、水が引いていないことがわかりますね。
では、ここで、上図を少しいじってみたいと思います。

いかがでしょうか。

(1週間後にも自宅が浸水していた人口)➗(直後に自宅が浸水していた人口)=浸水継続率で計算しました。

すると、黒人の居住区だけがダントツで高いことがわかります。
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。
新たなハリケーンがやってきたのなら、白人の被災者数が半分以下になっているはずがありません。水は低きに流れるはずです。

なぜ、黒人の自宅だけ悲惨な状態が続いたのでしょうか。
その理由は、低い場所に黒人の家が集中しているからとしか考えられません。
ちなみに、この論点は、過去問で出題されたことがあります。

日本では斜面災害が多いが水害の頻度は中程度であり,アメリカ合衆国では水害が多いが斜面災害は少ない。このような両国の相違が生じた原因のうち,地形および人口の分布について,2行以内で述べなさい。

(2011東大1A(2)一部改題)

このように低地の水害については、東大地理でも共通テストでも頻出です。
バングラデシュにおけるサイクロンがもたらす高潮被害は有名なトピックですし、日本でも低地の水害は深刻な問題です。
最近はハザードマップで注意喚起を促しています。
たとえば、東京の江東区では以下のようなマップを配布しています。

https://www.city.koto.lg.jp/470601/documents/02hm_flood_japanese_color.pdf

こうして見てみると、なんとも生々しいしいですよね・・

さて、本題に戻りましょう。
以上のように、ニューオーリンズにおける黒人居住区のみが深刻なダメージを喰らい続けた理由は、黒人が低平な地域に住んでいたと考えられます。
では、なぜ、そうした地域に住んでいたかというと、家賃や地代が安いんです。
悲しいことですが、日本にも低平か高台かで同じ町でも家賃がかなり違っているところはあります。

では、このことから、「黒人は地価の安い低平な地域に集住していたから」と書けば良いのでしょうか。
これなら1行で十分ですよね。
では、なぜ東京大学は2行(60字)で書けと要求したのでしょうか。

受験生の中には、人種差別について触れた方もいらっしゃいます。
ここで、改めてリード文を読んでみるとしましょう。

リード文では、

特定のエスニック集団が顕著に被災したことがわかった。復興過程でもこの問題が顕在化し、政治問題に発展した。

とあります。

なぜ、「政治問題」に発展するのでしょうか。

先程も申し上げたように、ニューオーリンズ周辺部にはもともとコットンベルトとして黒人奴隷を酷使して綿花栽培を強制していた悲しい歴史があります。
奴隷身分でなくなった後も根強い人種差別があり、高賃金の職に就くことは極めて困難でした。
ハリケーンが到来する前に避難勧告が出ていたにもかかわらず、多くの黒人は避難する自動車がなく、あってもガソリン代を購入するお金がなかったのです。
政府による救援活動の初動の遅れもあって、黒人を差別しているからワザと救助を遅らせたのではないかと非難されたりもしました。

こうしてみると解答に人種差別の話を盛り込みたくなりますよね。
ですが、人種差別の歴史と表3ー1の話とはダイレクトに結びつくものではなく、ここでは、あくまで黒人が被災しつづけたことにフォーカスをあてるべきだと思いました。
事前に避難するカネ(資力)がなかったことに言及することも一案ではありますが、それよりは住んでいた建物が災害に脆いつくりだったことや、堤防が決壊したことを書いた方がリード文の第3段落冒頭にある「堤防が築かれたことにより、さらに低地に市域が拡大したが、」の部分に文脈的に沿うのではないかと考えました。
確かに、カトリーナの被害ののち、人種差別が根底にあるのではないかと全米で大論争になったのは事実ですが、そのことを60字という字数制約の中で大々的に盛り込むのはどうなのかなと思いました。

下線部(C)でいう「この問題」は、あくまで黒人居住域が深刻な被害を受けたことを指しているのであって、復興過程での救助活動の遅れや人種差別の背景自体は、「この問題」そのものではないと私は考えました。
もちろん、そうした背景があることも事実だからこそ、「政治問題」に発展したわけですが、東大側は敢えて「政治問題」の部分に下線を引っ張っていませんので、人種差別というセンスィティブな話に答案の方向性を持っていかないでほしいという思いが込められているのではないかと私は感じました。

ちなみに、防災科学技術研究所に興味深い解説ページがありましたのでリンクをご案内したいと思います。

https://dil.bosai.go.jp/disaster/2005katrina/5_1surge.html

ちなみに、この論点は、最近の教科書には必ず載っているセグリゲーションの話に他なりません。
定義をぜひ教科書で確認しましょう。
インナーシティやジェントリフィケーション(東大2016-1Bで定義が問われています)といった都市にまつわるカタカナ語句の定義はしっかりと答えられるようにしましょう

定義がブレると思考がブレます。
思考がブレると答案骨格もブレます。

以上より、

解答例

(字数調整前の答案)

貧困層の多い黒人が集住していた地域は、排水不良の低湿地が多く住宅構造も簡素でハリケーンによる高潮や破堤氾濫水の被害を極大に受けたから。(67字)

(解答例)

貧困層が多い黒人の集住域は、排水不良の低湿地が多く住宅も簡素でハリケーンによる高潮や破堤氾濫水の被害を極大に受けたから。(60字)

設問(5)

問題

この都市の周辺地域では,近年,(ア)川の水位が大幅に低下する年もある。このことが,この地域の経済活動に与える影響を2行以内で述べよ。

解説

本問は、一見して単なる知識問題に思えるかもしれませんが、合理的に推論できる良問でもあります。
まず、設問(3)でニューオーリンズが港湾都市として栄えた理由について述べさせましたね。
則ち、穀物や綿花の積出港として繁栄したのでした。
ニューオーリンズが栄えていられるのは、アメリカ内陸部の大動脈たるミシシッピ川があるからです。
この川の水の水位が減ったらどうなるのかと問うています。
これだけだと答えられないかもしれないから、東大側はわざわざ「経済活動に与える影響」とヒントを与えてくれています
影響には、+と−がありますが、水位の低下で受けるメリットはありませんから、ここではマイナスの影響について考えてくれということになります。

河川を用いた水運については盲点とする受験生が意外に多いです。
昨年、ヨーロッパを襲った記録的な猛暑でライン川の水位が低下し、貨物船が満載の状態では航行できず物流に支障が生じたことが大々的に報道されました。
水位低下により鉄道やトラック輸送に切り替えなければなりません。
すると、輸送コストが高まってしまいますから、穀物輸送などにもマイナスの影響を与えることになってしまうわけです。
ちなみに、昨年の夏には以下のような報道がなされていました。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-10-07/RJD80PDWX2PU01

以上より、穀物輸送に支障が出たことを盛り込むべきことはわかりましたが、それだけだと2行(60字)の字数を埋めることはできません。

要するに、川を利用した経済活動を列挙せよと言っているわけです。
川といったら飲み水にも使います。
当然、水不足に陥ります。

その他にも、ニューオーリンズは河口にあるわけですよね。
ということは、海に面しているわけです。
ミシシッピ川の水位が下がれば海水が逆流し水質が悪化します。
川の水は農業用水や工業用水にも使われていますから、海水が混じっては困ったことになります。
その他、大きな川には観光船なんかも通っているはずです。
調べてみたら蒸気船クルーズがあるそうです。
ですが、水位が下がれば運航にも支障が生じます。

このように見てみると、川って偉大ですよね。文明が大河の流域に出来た理由がよくわかります。

以上より、

解答例

輸送費増で穀物価格が高騰し国際競争力が落ちる他、海水の逆流で飲み水や農工業用水の不足を招き、水上交通の混乱も生じている。(60字)

 

長くなりましたが、皆様の学習の一助になれましたら幸いです。
なお、6月ごろに作問担当の東大教授が講評を発表しますので、確認の上、敬天塾のホームページですぐにご紹介いたします。
ぜひ、ブックマークなどをお願いいたします。

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上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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映像授業コース(旧オープン授業)【東大地理】

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