2011年 東大国語 第1問 桑子敏雄『風景のなかの環境哲学』解答(答案例)・解説

2011年 東大国語 第1問 桑子敏雄『風景のなかの環境哲学』

独りよがりの答案・解説になるのを防ぐため、予備校・塾などの先生方の答案を拝見し、講師・生徒一同で考察を重ねた結果を、本稿にまとめています。
現代文は回答者によって解釈のブレ、答案の表現のブレなどが激しい科目であるため、賛否両論が発生することは承知していますし、闊達な議論を奨励しています。
お気づきの点がありましたら、遠慮なくコメントをお願いします。

※なお、本稿では最低限の読解や私(平井)の答案の紹介を行っています。
《より詳細な内容》に加え、《多くのサンプル答案に対する添削やアドバイス》などを2時間ほどかけて解説した授業動画もご用意しております。
ご自身でサンプル答案の添削に挑戦していただいた上で視聴いただくと、多くの気づきを得られます。

映像授業【東大現代文】2011年第1問 解説授業 販売ページ

敬天塾作成の答案例

敬天塾の答案例だけ見たいという方もいるでしょうから、はじめに掲載しておきます。
受験生の学習はもちろん、先生方の授業にお役に立てるのであれば、どうぞお使いください。
断りなしに授業時にコピペして生徒に配布するなども許可していますが、その際「敬天塾の答案である」ということを必ず明記していただくようお願いします。
ただし、無断で転売することは禁止しております。何卒ご了承ください。

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【平井基之のサンプル答案】

設問(一)
人が川沿いを歩く時には、単に身体を動かし移動しているのではなく、川そのものや川の付近の空間から多様な刺激を受け、歩行者それぞれにとって固有の経験をしているということ。

設問(二)
本来、訪れる人々に異なる体験を与えるべきである河川が、特定の価値観を持つ人間に管理されることで、その価値観を反映した体験しかできない空間となってしまっているということ。

設問(三)
河川工事においての竣工も、庭園においての樹木の植栽も、一見すると完成のようであるが、そこから自然の力と人間の助力によって、長い時間をかけて育つ起点と捉えられるから。

設問(四)
河川は、長期間をかけて自然の営みや人間が訪れた形跡が蓄積されてきた空間であるのに加えて、来訪した人それぞれが別々の経験を積むことが出来る空間でもあるということ。

設問(五)
河川には、過去の自然の営みや人間の訪れた形跡が見られ、その河川へ新たに赴く人もまた各人各様の経験を携えている。よって河川は、別の来訪者の経験を享受する場であり、来訪者それぞれが他者とは違う別の風景を認識する場でもあるということ。

※多少、字数が多めの答案になっていますが、短くまとめきれない私の力量不足以外の何物でもありません。あくまで、答案サンプルの一つであり、皆さんの考察の材料となることを願って作成したものですので、寛大な心でご覧いただけると幸いです。

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【過去生徒Aのサンプル答案】

設問(一)
人が流動性のある河川空間を移動する中で、空間の風景を独自に知覚し把握することで、各人各様に自己の身体意識を実感すること。

設問(二)
何らかの意図や思惑に沿って河川空間を人間の管理下におき、その働きに必然性を与えようとすることで、空間が予測不可能な流動体として人々に創造性を与える可能性を奪われ、単に既存概念を具現化しただけのものになるということ。

設問(三)
河川空間と庭園が自然のものを素材とした空間であり、偶発性を含む自然の力に人間が補完的に働きかけながら長い時間をかけて個性を育むものであるため、着工は空間設計の起点に過ぎないという点で両者は共通しているから。

設問(四)
河川空間は過去と未来の結節点であり、遥か昔から長い時間をかけて、人々に多様な体験を与える役割や個性を育むような、多くの人々の経験や自然の営為を累積してきたということ。

設問(五)
河川空間は長い時間をかけて自然の力や人間の経験の蓄積によって形成され、創造的で多様な体験の可能性を生み出す。空間の風景の知覚を通して、経験を基盤とした価値観を持つ自己が、空間の多重な過去の累積や、空間を共有する他者の存在を認識できるということ。

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設問(一) 身体的移動のなかでの風景体験

採点は5段階評価で標準を3とし、
難しいポイント1つにつき+1、
簡単なポイント1つにつき-1としています。
「傍線部の構造」は答案骨格の作りにくさです。
「表現力」は自分の言葉に言い換える難しさです。

難しいポイント

ものすごく簡単に言えば、「川の付近をあるくと、その周りの風景を体験する」ということなんですが、難しいポイントがたくさんあります。
①「身体的移動」という言葉は一般語ではない。一般語で表現するにはどうすればよいか
②風景とは何か。
③体験とはどのような体験か。
④「身体的」と「風景」の対比構造を、どのように答案で表現するか

などでしょうか。
①に関しては工夫次第で処理するしかなく、実力が反映される。例えば「身体で移動する」としても、日本語としておかしくなる。
②に関しては河川のみならず、周辺の都市風景などを含む空間そのもの。
③に関しては、河川を訪れる人それぞれが、多様で豊かな体験を得る、というような内容
④は一番気づくのが難しいと思いますが、わざわざ「身体的」という言葉を使っている理由に注目すると、気づけると思います。
すなわち、身体的(自分の肉体の)移動に過ぎないのに、実は周辺の空間すべてを体験していることになるということです。
この対比を、答案に盛り込むのは至難の業だと思います。

本文中の言葉を使ってよいか

なお、本文中の言葉を使ってよいかどうか、という議論がありますが、これに関しては「なんとも言えない。」というのが本音。
なぜならば、「本文中に使われている言葉だから使ってはダメ」という論理が、そもそも違うから、と考えています。

原則として、一般的な日本語で内容がよくわかるように説明する、というのがルールです。本文中に使われているのが一般的な言葉であれば使ってよいし、筆者の造語や、その本文で特殊な意味を持つ用語などは、補足説明を加えるか、一般語に置き換えて説明すべきと考えます。

そのため、「身体的移動」で言うならば、(なんとなく意味は分かるものの)一般的な日本語ではないため言い換えるべき。「風景」は一般語であるが、本文中で特殊な意味を持つ言葉なので、説明を加えるべき。「体験」も同様。などと考えます。

また、「多様な経験」という言葉は一般語の範囲内だと思いますが、では「多様な経験」とは一体なんのことかと言われるとよくわかりません。つまり、抽象的な言葉なので、説明なしに使うと意味が分からなくなってしまいます。

平井答案の解説

以上の議論を踏まえ、答案例を示します。

人が川沿いを歩く時には、単に身体を動かし移動しているのではなく、川そのものや川の付近の空間から多様な刺激を受け、歩行者それぞれにとって固有の経験をしているということ。

・「身体的移動」を、「単に身体を動かし移動している」と、平易な言葉で書き替えました。
・「身体的」と「風景」の対比を、「単なる~~ではなく、ーーーーー」で表現しました。
・「体験」ならびに「多様な経験」は、「歩行者それぞれにとって固有の経験」としました。
・「風景」は、「川そのものや川の付近の空間」としました。

設問(二) 本来身体空間であるべきものが概念空間によって置換されている事態

二は、現代文でアルアルな問題。
自然が、人間の手(科学の進歩や資本主義の進展など)によって汚れてしまった、という主張のもの。
余談ですが、こういう問題の時に、(科学の進歩で恩恵に預かっているという側面はどうするんだ)とか(資本主義を否定するなら、儲けたお金は恵まれない人に寄付しろよ)とか考えてはいけません笑

さて、傍線部。
「本来Aだったものが、Bに置換されている」という骨格が大事。
まず、これを反映する答案にするのがよいでしょう(別にこの骨格ではなくてもよいけど書きやすい骨格なので、ある程度保存した方が読みやすく書きやすいためおススメしています。)

また、Aの方が良いもの、Bが悪いもの、というニュアンスも読み取らなければなりません。
先ほどの、現代文の主張アルアルを知っていれば、読まなくてもわかるのですが、「本来~~あるべきもの」とついているので、筆者はAが良いものだと捉えているのだと、読み取る方が自然です。

次に、Aの部分にあたる「身体空間」は、(一)で答えた内容そのものなので、要約する形で持ってくればよいでしょう。

Bにあたる「概念空間」ですが、これが(二)で初登場の内容です。
「概念空間」は一般語ではなく、筆者の造語のようなものなので、当然説明が必要なので、同様の表現を探します。すると、前の行に「概念という人工のものによって」とあるので、「人工」のことなのだなとわかります。(ついでに、前の行が実は、傍線部イと同内容だというのもわかります。AがBに置換という骨格や、「本来」などそっくりです。)
では、人工について、さらに探すと、「固定化された概念」、「それ以外のことをする可能性は排除」、「コントロールすることは、川の本質に逆らう」などが見つかります。(多数あります。)

第8段落まで進むと、「コントロールされた概念空間に対して、」の続きに、「河川空間は新しい体験や発想が生まれる創造的な空間だ」とあり、Aの部分の補足部分も見つかります。

平井答案の解説

以上を踏まえ、私の答案例です。

本来、訪れる人々に異なる体験を与えるべきである河川が、特定の価値観を持つ人間に管理されることで、その価値観を反映した体験しかできない空間となってしまっているということ。

・骨格は傍線部を保存し「AがBに取って代わられてしまう」としました。
・Aの部分は、(一)を要約し、かつ後半の「価値観を反映した体験しかできない」に対比させるため「人々に異なる体験をあたえる」としました。またこの部分は傍線部の「身体空間であるべきもの」を反映させ「与えるべき」としました。
・Bの部分は、「人間に」と(動作の主体)を入れることで補足説明をするよう工夫しました。
・「概念空間」は本文の趣旨を踏まえ、「その価値観を反映した体験しかできない空間」としました。「その価値観」と指示語を利用することで、価値観を保有するのが管理をする人間であることを示す工夫をしました。
・文末を「なってしまう」とすることで、悪いことが起きているニュアンスを表現しています。「しまう」と使うことで、意図せずに悪いことが起こったニュアンスが出ます。(例、電車で寝過ごしてしまう)

設問(三) それは庭園に類似している

本文を丁寧に読み、論理的に対応関係をとらえていくと、解答の方針は見えやすい問題。
しかし、こういう問題だからこそ、答案の表現方法で差がつきます。

まずは、論理関係。
「それは庭園に類似している。」が傍線部であり、設問が「なぜそういえるか」です。つまり、傍線部の理由を考える問題。
否。
実は、傍線部の直後に「樹木の植栽は、~~~だからである。」とあるため、考える問題ではなく、直後に存在する解答部分をただ探す問題でした。

傍線部の「それ(指示語)」は「河川」で良いでしょう。つまり、河川が庭園と似ている理由を探るのですが、直後には
「樹木の植栽は、庭の完成ではなく、育成の起点だから。」
とあります。

これと、傍線部の直前が似ています。「工事の竣工は、河川の空間が育つ起点となる。」
つまり、ここで論理関係を見ると、

河川⇒ 工事の竣工が、実は起点
庭園⇒ 樹木の植栽が、実は起点

となっています。
これを書けば、答案の大きな骨格はOK。あとは、補足説明を加えていきます。

さて、ここまでで河川と庭園で類似しているようすはわかりましたが、では類似している点を端的に言い表すと何になるか。
行間を補足すると、「ゴールと思っているものが、実はスタートになっている。」という点です。

工事の竣工が起点というのは、要するに「ゴールだと思ってるけど、実はスタート」という驚きや意外性があるわけですね。この意外性が庭園にもある。だから類似しているわけです。

では、河川は竣工後に何が起こるかというと、次の第10段落。
自然の力によって長い時間をかけて育つ、人間はその手伝いをする、個性が生まれ、その川の川らしさが生まれる、などと書かれています。

平井答案の解説

河川工事においての竣工も、庭園においての樹木の植栽も、一見すると完成のようであるが、そこから自然の力と人間の助力によって、長い時間をかけて育つ起点と捉えられるから。

・「AとBが似ている」という内容を表現する際、「Aは~~で、Bは~~だから、~~が同じだ。」などと書く技法があります。しかし、今回は’(というより東大は)字数制限が厳しく、AとBの共通点で書くべき内容が多いように思われたため、「AもBも、〇〇だから」という骨格にしました。
なるべくシンプルに、分かりやすい骨格になるよう、工夫しました。
・類似点の行間を補足し「一見すると完成のようであるが」としました。
・竣工(植栽)の後に起こることとして、①自然の力②人間の力③長期間④育つ の4つの要素を入れました。
・①自然の力がメインであり、②人間の力がサブ、という主従関係を表現したかったのですが、「人間の助力」としか表現できませんでした。(表現力不足を痛感しています。)
・「個性を持つ」という要素を入れるかどうか悩みましたが、自然な日本語としてまとまらなかったため、省きました。
・設問が「類似している」とあるが、なぜそういえるのか、ということなので、文末を「育つから」「同じだから」などではずれてしまうと感じたため、「捉えられるから」としました。

設問(四) 河川の空間は、時間の経過とともに履歴を積み上げていく

要するに「履歴」を答える問題

今回、読解において最難関の問題(五も難しい)。授業時にも、生徒たち含め見解が一致していませんでした。

ただし、傍線部「河川の空間は、時間の経過とともに履歴を積み上げていく」を見ると、意味不明なのは「履歴」のみ。他の部分はすべて一般語といってよいでしょう。
つまり、この問題で問われていることは「履歴とは何か」です。

では、その定義が書かれているところを探すと、傍線部の次の段落(第12段落)に、「履歴は~~~ではない。多くの人々の経験の蓄積を含み、さらには自然の営みをも含む。」とあります。
ものすごく簡単にいうと、「人間の経験と、自然の営み」の両方を含むということ。

続いて「こうして積み上げられた空間の履歴が、その空間に住み、またそこを訪れるそれぞれのひとが固有の履歴を構築する基盤となる。」とあります。誰かが訪れると、河川の蓄積された履歴に触れることになり、また人それぞれ別の履歴を構築するわけです。

と、難しそうに見えて、解答の根拠になる部分は明確。しかも短い。
では、何が難しいかというと、要するに「何を言っているかわからない。」からです。

「履歴」はミスマッチ

河川に対して「履歴」という言葉のミスマッチがあります。
これは、文章のテクニックとして、あえてミスマッチな言葉を使うことで、面白さや印象深さを強調する技法でもあると思いますが、しかし内容が分かりづらいため、受験生には不評でした。

だって、河川を訪れたときに、(ああ、昔の人の履歴を感じるなぁ)なんて思わないですよね。
これを言ってしまっては元も子もないかもしれませんが、筆者の方は河川大好き人間なのでしょうが、一般の人は川は川でしかなく、強い思い入れもないでしょう。
だから、川に過去の人間の経験が蓄積されている、とだけ言われてもピンときません。

頭の中で具体的な場面をイメージしてみよう!

では、こういう文章に出会ったらどうするか。
(あくまで文章の読解に偏見が入らないように工夫をしながら)、自分の頭の中で具体化することです。

ある生徒の意見で出たのですが、
川に行ったらスナック菓子のゴミが落ちていたら(誰かがここで食べたんだろうな)と思う。石が詰まれていたら(子供が遊んだのかな)、スプレーで絵が描かれていたら(不良が描いたのかな)と思う。
このような具体例があれば、確かに過去の人間の履歴が蓄積されていることが、分かりやすいと思います。

ちなみに、読解は難しいのですが、読解以外は標準的なレベルだと思います。

平井答案の解説

では、私の答案例です。

河川は、長期間をかけて自然の営みや人間が訪れた形跡が蓄積されてできた空間であるのに加えて、来訪した人それぞれが別々の経験を積むことが出来る空間でもあるということ。

・「履歴」をわかりやすく、丁寧に言い換えることを主眼に答案を作成しました。
・また、傍線部の「時間の経過とともに・・・・いく」という表現から、過去から未来へ流れる時間を意識して答案を作成するよう心掛けました。推敲前には「過去」や「未来」という単語を盛り込み、もっと強く表現していたのですが日本語が不自然になるため断念して、上記のような答案になりました。
・自然が「主」で、と人間が「従」である関係をもう少し色濃く反映させた買ったのですが、字数が増えすぎてしまうため断念しました。「自然の営みや人間が・・・」と自然を先に書くことまでになりました。
・「(河川が)人々の経験の蓄積を含み」のように、「河川」に対して「経験」を対応させる表現が本文中に多く見られますが、自然な日本語ではないと判断し、「人間が訪れた形跡が蓄積されてきた」と単語を変換しました。

設問(五) 風景こそ自己と世界、自己と他者が出会う場である。

「他者と出会う」とは?

では最後です。
(四)と同様、履歴がどうの、経験を共有するとかなんだとか、がテーマです。
つまり、読解が難しく、何を言っているのかわかりづらい問題だと思います。

まず傍線部を見て、「自己と〇〇が出会う場」とあります。
〇〇に入るのは、他者と世界。
どうやら、河川に行くと、他者と世界に出会えるそうです。

人気の河川(例えば、京都の鴨川)に行けば家族連れやカップルがたくさん集まり、他者に出会えるでしょう。
しかし、そういうことを言っているわけではないようです。

傍線部の直前を見ると、「人々に共有される」とあります。これが「出会う」に近い表現なので、もう少し読んでいきましょう。
すると、一人ひとりが自分の履歴をベースに河川に行って風景を見る。だから、人々に共有されるんだ、というような内容が書かれています。

これは、(四)の内容とやや近い内容です。
(四)では、河川に履歴がたまっていくというだけの内容でしたが、(五)では河川に履歴がたまっていくんだから、そこに訪れる人は他人(の履歴)に触れられるんだ、というところまで踏み込んでいるようです。

これが「自己と他者が出会う」の意味としてとらえて良いでしょう。

「世界と出会う」とは?

では、「自己と世界が出会う」とは何か。
これは、読んでも書かれていません。(書かれてないですよね?)つまり、行間を補い、想像するしかないでしょう。

「え?想像して書いて良いの?自分の考えを入れて読んではいけないって習ったよ。」

よく聞くアドバイスだと思います。
私も、当然これに賛成なのですが、条件を付けさせてください。すなわち「(共通テストなどの)マークであれば、自分の考えを入れて読んではいけない」
共通テストレベルの選択肢から選ぶ問題であれば、行間が雄弁な部分は出題されませんし、行間を読み取らせると、解答がいくつにも分岐してしまうため、(出題者側の都合として)選択肢として一つだけの正解を選ばせづらくなります。

しかし、記述問題であれば、「お前はどう読み取ったんだ」というのを、答案を通して聴くことができます。
受験生としては「自分の考えを入れて読むな」と教えられているので困ってしまいますが、本文に書いていない部分に関して説明せよ、と言われているので仕方ありません。

無難な解答として「見なかったふりをする」「あえて何も書かず、触れずに解答する」ということもできますが、
攻めの答案として「自分なりに因果をつなげてみる」ということも可能です。

私の答案では、字数に余裕がなくそこまで攻められていないのですが、「あらゆるところから訪れた先人たちの経験に触れることで、世界と通ずることができるということ。」などとすれば、世界と出会う理由として表現されていると思います。

平井答案の解説

では、私の答案です。

河川には、過去の自然の営みや人間の訪れた形跡が見られ、その河川へ新たに赴く人もまた各人各様の経験を携えている。よって河川は、別の来訪者の経験を享受する場であり、来訪者それぞれが他者とは違う別の風景を認識する場でもあるということ。

・「自己と世界が出会う」の回答として「来訪者が他者とは違う別の風景を認識する」としました。つまり世界とは「来訪した人だけが見られる、その人だけの風景」という解釈です。
・「自己と他者」の回答として「別の来訪者の経験を享受する」としました。過去に河川に訪れた人が残していった(蓄積していった)経験や形跡に触れることが出来る、ということです。
・上の二つが傍線部に対する直接の回答なのですが、その二つが実現できる理由が不明です。ということで、前半部には、後半部が実現される前提の内容や理由を書きました。
・河川には過去の先人たちの経験が蓄積されていること、河川に赴く人も固有の経験を抱えていることなどが、後半部を実現させる条件です。

過去生徒Aの答案について

過去生徒に、非常に良い答案を書く子がいたため、ここにオマケで載せておきます。
私と違って、変に平易な単語に頼らずに表現する能力は目を見張るものがあり、豊富な語彙を巧みに使いこなすため、重厚感と読み応えがある答案になっています。
皆さんの、学び・参考になれば幸いです。

設問(一)
人が流動性のある河川空間を移動する中で、空間の風景を独自に知覚し把握することで、各人各様に自己の身体意識を実感すること。

設問(二)
何らかの意図や思惑に沿って河川空間を人間の管理下におき、その働きに必然性を与えようとすることで、空間が予測不可能な流動体として人々に創造性を与える可能性を奪われ、単に既存概念を具現化しただけのものになるということ。

設問(三)
河川空間と庭園が自然のものを素材とした空間であり、偶発性を含む自然の力に人間が補完的に働きかけながら長い時間をかけて個性を育むものであるため、着工は空間設計の起点に過ぎないという点で両者は共通しているから。

設問(四)
河川空間は過去と未来の結節点であり、遥か昔から長い時間をかけて、人々に多様な体験を与える役割や個性を育むような、多くの人々の経験や自然の営為を累積してきたということ。

設問(五)
河川空間は長い時間をかけて自然の力や人間の経験の蓄積によって形成され、創造的で多様な体験の可能性を生み出す。空間の風景の知覚を通して、経験を基盤とした価値観を持つ自己が、空間の多重な過去の累積や、空間を共有する他者の存在を認識できるということ。

※なお、本稿では最低限の読解や私(平井)の答案の紹介を行っています。
《より詳細な内容》に加え、《多くのサンプル答案に対する添削やアドバイス》などを2時間ほどかけて解説した授業動画もご用意しております。
ご自身でサンプル答案の添削に挑戦していただいた上で視聴いただくと、多くの気づきを得られます。

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