2022年東大国語 第3問(漢文)『呂氏春秋』解答(答案例)と現代語訳

東京大学2023年漢文の出典は『呂氏春秋』でした。
人事教訓の書です。

こちらもご参照ください。
2022年(令和4年)東大国語を当日解いたので、所感を書いてみた。

はじめに

こちらはぜひ、東大2022年の漢文を解いてみた後にご覧ください。

2022年の東大漢文は標準問題であり、典型的な政治に関する評論文でした。
この文章が「典型的だな」と思えなかった方は、Z会『文脈で学ぶ 漢文 句形とキーワード』にあります「ジャンル別文章読解」を熟読することをオススメします。

また、「威」の訳し方について、受験生は頭を悩ましたと思います。
どの訳し方が適切で、どの訳し方だと不適切か、ぜひ辞書とにらめっこして分析してみてください。

「威」の言い換えとして思い浮かぶ語:威圧・威嚇・脅す・脅威・猛威・威厳・威光・威風・威力・威勢

答案例とプチアドバイス

(一)傍線部a・c・dを現代語訳せよ。【各0.5行】
a 馬スル所以ト 

※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点と送り仮名

答案例:馬を威圧して御する方法

プチアドバイス:再現答案では「所以」を「理由」と訳している解答多数。漢文は語彙の勉強が不足している受験生が多いです。取り組んでいる語彙の本で「所以」の訳が「理由」だけの場合、東大レベルには対応できていないと認識しておきましょう。
また、東大漢文2018年でも「所以」で「手段」の訳が求められていました。
過去問にしっかり取り組んでいるかどうかで、差が付きます。

映像授業【東大漢文 語彙力・漢字力編】オリジナル語彙一覧付

c 民愈用ヰラレ

※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点と送り仮名
 (助動詞「ず」は不)

答案例:民衆はますます役立たせられなくなる

プチアドバイス:再現答案では国語の点数が低い人ほど、副詞「愈(いよいよ)」の訳ができていませんでした。漢文の副詞は頻出です。手を抜かないように!

 

d 威有無不可

※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点(送り仮名無し)
※送り仮名を足すと、威有ルコトカルベカラルモ

答案例:威圧は無いわけにはいかないけれども

プチアドバイス:一見、傍線部を訳すと、「威ばかり制するのは良くない」という趣旨と矛盾しそうで迷った受験生が多いはず。傍線部の下にある「而」には、順接だけでなく逆接もあることを理解していると、スムーズに訳せたと思います。

 

(二)「人主之不肖者有似於此」(傍線部b) を、「此」の指す内容を明らかにして、平易な現代語に訳せ。【1.5行】

b 人主の不肖ナル者此ニ似タル有リ。

※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点と送り仮名
 (動詞「の」は之)

答案例:愚かな君主は造父の御術を会得せずに威嚇するだけで役に立たない御者と似ているところがある。

プチアドバイス:「此」の指す内容は前文の3つ。①造父の御術を会得せず・②ただ威嚇し・③役に立たない。

 

(三)「譬之若塩之於味」(傍線部e) とあるが、たとえの内容をわかりやすく説明せよ。【1.5行】

e 之ヲ譬(たと)フレバ塩の味ニ於ケルガ若シ。

※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点と送り仮名
 (動詞「の」は之)

答案例:塩加減を誤った料理は食べられなくなるように、威圧し過ぎる治世は民を従わせられなくなる。

プチアドバイス:再現答案では「料理」と「治世」の話が逆になっている答案が散見されました。主題である「治世」の話を文末に持っていきましょう。

 

(四)「此殷夏之所以絶也」(傍線部f) とあるが、なぜなのか、本文の趣旨を踏まえて簡潔に説明せよ。【1行】

f 此殷ト夏の絶ユル所以ナリ。

※実際は書き下し文ではなく、白文に返り点と送り仮名
 (動詞「の」は之・助動詞「なり」は也)

答案例:殷と夏の王は民に愛情と利益を与えず、威圧するだけで、天罰を受けたから。

プチアドバイス:再現答案では「愛利の心」の「利」の要素が漏れている答案が多かったです。

 

本文と現代語訳の併記(JPEG)

本文と現代語訳の併記(PDF)

2022年『呂氏春秋』現代語訳

現代語訳

 宋人で道を進む〔旅する〕者がいた。その(者の)馬が(道を)進まないので、殺して鸂水に投げ入れた。また再び(他の馬で)道を進むけれども、その馬も(道を)進もうとしないので、また殺して鸂水に投げ入れた。このようなことが三度あった。(昔の車馬を御する名人であった)造父が馬を威圧して制御した方法といっても、これほどまでのことはやらなかった。造父のような馬を扱う術〔道〕を会得せずに、ただ馬を威圧する方法だけを身につけても、(馬を)制御するのに何の役にも立たない。

 愚かな君主はこれと似ている点がある。君主としての(国を治める)術〔道〕〔=徳〕を会得せず、ただ君主としての威圧を増す。威圧が増せば増すほど、民は一層、役立たせられなくなる。国を亡ぼしてしまう君主というのは、過度な威圧によって自国の民を働かせることが多い。
 それで、(民への)威圧はなければならない〔必ず必要だ〕けれども、ひたすらそれ(=威圧)に頼るのでは不十分だ。これ(=威圧)を喩えると、料理の味における塩のような存在である。一般的に塩の使用方法は、委ねるもの(=料理の素材)の存在が前提となっている。適量でなければ、料理の素材を台無しにしてしまい、食べられなくなる。威圧もまた同じである。必ず委ねるものが存在して、その後に実行すべきである。(では)何に委ねるのか。(それは民に施す)愛情と実利に委ねるのである。愛情と実利を施そうとする心を(民に)理解されてはじめて、威圧(的なやり方)は実行すべきである。

(もし君主による民への)威圧が大変甚だしければ、(民が理解していた君主による民への)愛情と実利を施してくれると信じていた気持ちが失われる。愛情と実利を施してくれると信じていた気持ちが失われてから、ただ厳しく威圧を行うと、(君主の)身に必ず災いがおこる。これが、(古代王朝の)殷や夏が滅んだ原因である。

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