2022年東大日本史(第1問)入試問題の解答(答案例)と解説

◎はじめに

東京大学の⽇本史の問題は、リード⽂、資料⽂、設問⽂の3点で構成されているのがスタンダード(例外あり)。
これを、どの順で読むべきかというと、おススメはリード⽂→設問⽂→資料⽂の順です。

これがなぜかというと、理由は2点。
リード文は本文へ導入するための文なんだから、リード文の方が先。
そして、本文は設問に答えるための材料だから、設問文が先ということです。カレーを作るか、ポテトサラダを作るか決めないと、ジャガイモの用途が分からないのと同じで、何に答えるかが分からないと本文の使い道も分からないわけですね。

もちろん、絶対的な指標ではなく、あくまでガイドライン。
未来永劫、本文を最後にすべき問題しか出ない保証なんかないので、その場で柔軟に対応すべきといえばその通りではありますが、だからといって基本パターンを知らなくてよいことにはなりません。

これまで多くの答案を⾒て採点や添削を⾏ってきてわかったのですが、内容の良し悪し以前に、問われていることに答えていない答案が、想像の5倍くらい多いと思ってください。自分の答案が十分問いに答えているかどうか、必ずチェックするクセを付けましょう。

◎設問の分析

この問題では、リード文に分析すべき箇所がないため、設問から分析します。

【設問A】

ややこしい問われ方をしていますが、要するに資料文によって読み取れる文書の伝達方法をまとめなさい、という問題。問われているのは「どのような方法がとられていたか」なので、具体的な伝達方法を書くのだけど、解釈を加えたり抽象化したりして、答案の方向性がズレていた再現答案が多かったです。気を付けるべし。

【設問B】

こちらも具体的な伝達方法を応える問題。
資料文Aとの住み分けも簡単。「中央政府から諸国まで」がAで、「諸国に到着してから民衆まで」が設問Bという区分で考えればOK。要するに、設問Aと合わせると、中央政府の命が民衆まで伝わる過程がよくわかるようになっているのですね。

◎資料文の選定

「中央政府から諸国まで」がAで、「諸国に到着してから民衆まで」が設問Bなので、これに従って資料文を選びましょう。
資料(1)と(2)は中央から諸国の話なのでA、資料(3)と(4)は諸国に到着してから民衆までの話なのでBと分ければOK。(2つずつ)

この問題は簡単ですね。

◎設問Aの解説と答案例

【資料文の分析】

資料文(1)

まず、資料文(1)から分析してみましょう。
1文目は「文書が用いられた」という内容なので、特に何も情報は得られない。
2分目は「~~ではなく、ーーー」という骨格になっていて、前半は各国に1通ずつの話なので、ここもカット。大事なのは後半です。

後半には、畿内と七道合わせて8通の文書が作成されたこと、諸国の国司が複製して国内で施行に至ったことが書かれています。
畿内や七道というのは、律令制で定められた行政区分のこと。日本全体を68個の国に分けて、それをいくつか組み合わせて畿内や〇〇道という区分に分けていました。
この区分ごとに1通ずつ文書を作ったわけですね。

 

そして、国司(今の県知事みたいなもの)が文書を複製して、国内で中央の命令を実行したわけです。

資料文(2)

次に資料文(2)ですが、文書が移動してきた経緯が詳しく書かれています。要するにこういう経路です。
 

これを見て、どう感じるでしょうか?

右から左とも見て取れますが、この文書はそもそも中央(奈良)からきているもの。とすれば、中央から近い順に移動していたと考えるのが自然ではないでしょう。そう、律令制版の回覧板!

資料(1)で国司がコピーすると書かれていますから、これですべての国で正確に中央の政策が隅々まで実行されるようになっているわけですね。この内容をまとめれば、設問Aは完成です。

答案例

五畿七道のうち都と最も近い国に文書を伝達し、国司に文書を複製させ、同じ畿内または道内で順次に伝達させた。

・解き方は簡単ですが、字数制限がかなり厳しいです。書きたいことを正確に書こうとすると、字数オーバーします。

◎設問Bの解説と答案例

【資料文の分析】

資料(3)

では、資料(3)。
今度は、郡司の動きについて書かれています。
郡司が管轄下の役人(里長など)に命じて、木札を掲示した上で口頭でも民衆に伝えさせています。今風に言えば、掲示板にチラシを張り付けて、町内放送でも流すという感じでしょうか。
さらに、木札は一定期間、掲示されていたとありますから、ちゃんと周知されるよう時間をかけたということでしょう。

さて、ここで一つ、解釈の余地について議論があります。
掲示しただけではなく、口頭でも伝えたのは何故かということに関して、「識字できる人は木札、識字できない人には口頭」というように、識字能力によって方法を分けたのではないかと解釈している答案例をたくさん見ました。

これは、1つ説得力のある説明だと思います。
確かに、識字できない人は当時たくさんいたでしょうから、口頭で伝えないと末端まで伝わらなかったでしょう。

一方でもっと卑俗な考え方をしてみると、現代の日本でも、お役所から届いた封筒を中身も見ずに捨ててしまうようなズボラな人もいますから、識字できるかどうかよりも、目と目を合わせてちゃんと伝えないと、伝わらないというだけの気もします。

ただ、こんな卑俗なことを答案に書くわけにはいかないので、識字によった分類の方がキレイではありますよね。あとで提示する私の答案例では、識字云々というのは、「具体的な伝達方法を答えよ」という問いに対する答えとしてズレていると思ったので、含めませんでした。

資料(4)

こちらも口頭で伝える話が書かれています。木札と口頭だけではなく、祭でみんなが集まっているときに、わざわざ役人から全員へ告知されたという話です。こうやって、周知を徹底しようとしたということですね。
(普段家からは出ないけど、酒は飲みにくるっていう人のために、わざわざ場を作っただけのような気もしないではないですが)

いずれにせよ、これで民衆の末端にまで周知されました。

答案作成用メモの例

2022(1)日本史 メモ

実際の問題用紙には、このように書き込むなどすると、答案作成に役に立つでしょう。

答案例

国司から郡司に命令が伝えられ、郡司が管轄下の役人を通じて周知させた。役人は木札に命令を記して、人目に付く道路沿いにしばらく掲示した上で読み聞かせたり、村の祭祀後の宴会で成人男女が集まった際に告知したりする方法で伝達した。

・シンプルに、資料(3)と(4)の内容を漏らさず、簡潔にまとめただけです。
・識字能力に関しては、具体的な方法ではないため、入れてません。

◎総評

ほぼ、特殊な知識が要らず、資料文の読解と記述力だけで攻略できる問題です。だから簡単でもあるし、だから難しい。
再現答案を見るに、記述力の差が如実に表れていて、低得点の答案では、ウマくまとめられずに具体的な方法が正確に書けていないものが多かったですし、高得点の答案でも資料文の内容が漏れているものがたくさんありました。

日本史初心者が、序盤に解いて練習するのに最適な問題なので、ぜひ中学生以下もチャレンジしましょう。

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