2016年東大日本史(第2問)入試問題の解答(答案例)と解説(スタッフ作成)

塾長による解説記事もあります

本稿は日本史記事作成スタッフが書いた記事ですが、塾長による解説も存在します。よろしければ両方ご覧ください。

こちらにございます。

◎設問の分析

問われているのは、「惣村がそのような行動をとったか」である。その内容は資料文⑴〜⑸を通して具体的に示されている。つまり、本問は資料文の具体例を抽象化してまとめる問題であり、決して知識が問われている訳ではない事に注意しよう。

◎設問の解答

本問は設問が分かれていないので、資料文の選定という作業は割愛する。その代わり、資料文ごとにどのような内容が書かれているかは詳しく見ていこう。

まず資料文⑴で、対象とされている桂川流域の荘園の状況が整理されている。流域の荘園は、主にふたつの用水路から引水しており、先取りではあるが資料文⑶から、五カ荘用水は5つの荘園が共有している事がわかる。

次からは資料文⑵〜⑸を見ていくが、これらをカテゴライズすると、⑴で見たような灌漑用水の利用が何らかの原因で妨げられた場合、惣村がそのような対応をとったかを示していると言える。では、⑵から見ていこう。

資料文(2)

資料文⑵は、洪水によって用水路が埋まり農作業ができないという問題に直面した惣村の対応である。今回焦点を当てられている上久世荘は、荘園領主である東寺に修理の資金援助を要求している。つまり、惣村は用水路の維持費の負担を荘園領主に要求していた、という風に一般化できるだろう。

次に資料文⑶〜⑸を見てみよう。これらは一連の流れを描いている。

資料文(3)~(5)

まず⑶で見られるように、五カ荘用水を利用する荘園らと別の西荘の間で用水取り入れ口の位置を巡る争いが発生し、その裁定を幕府に求めている。
次に⑷では、西荘の主張を認めるという幕府の裁定に基づき、西荘が近隣惣村を巻き込んで五カ荘の取水口を破壊しようとする実力行使に出て、それを阻止しようとし近隣惣村と協力した五カ荘と合戦になった事がわかる。
最後に⑸では、合戦で決着がつかなかったため再度裁判になり五カ荘側にも用水を引く事が認められたものの、それでも決着はつかず争いは継続し、最終的な決着は近隣惣村の沙汰人らによる仲裁であった事がわかる。

まとめると

さて、これらを一般化してみよう。まず取水口の位置を巡る惣村間の紛争に際し、最初にとった対応は幕府に裁定を求める事だった。しかし、幕府の裁定は最終的な解決とはされず、惣村ら実力で解決する自力救済の実行の根拠とされるのみだった。合戦の後に再度幕府の裁定が下されても紛争は解決しなかった事からも、この事は確認できる。そして、近隣惣村の沙汰人による仲裁が最終的な解決となった。

以上が資料文を忠実に読解していくと辿り着く部分である。以降は、問題文に「近隣惣村との関係に留意」とあるように、近隣との関係性に注目してみよう。

近隣惣村との関係

まずはリード文にヒントが隠されている。それは、「領主を異にする小規模な荘園が…ひとつの惣村としてまとまりをもっていた」の部分である。そして⑴にあるように各荘園は用水路を共有していた。このように用水路の管理など、共通の利害を通じて領主を異とする惣村が連合する事があった。ちなみにこのような連合は惣荘・惣郷と呼ばれ教科書にも小さく掲載されているが、覚えておき論述に用いる必要まではないだろう。

また、そのような恒常的な惣村連合よりもさらに大きなレベルの、非常時に結ばれる惣村の協力関係があった。これを「合力」という。設問では紛争に際してこれが結ばれている。本問が対象としているような中世後半では幕府の権威は低下し、近隣惣村との合力関係が非常に重要であった事がわかる。

以上が近隣惣村との関係として把握しておくべき部分である。状況に応じて敵になったり援軍になったり、または仲裁したりといった流動的な中世の地域社会の感覚をぜひ掴んで欲しい。

◎解答と総評

惣村は、灌漑用水を異なる領主の近隣惣村と共同利用しつつ、その水路の維持・修復の経済援助を各領主に求めた。用水を巡り近隣惣村と対立した際は、幕府の裁定を根拠に近隣惣村の協力を集めて実力行使に出たり、最終的に第三者の惣村に仲裁を要請したりし、地域全体で自治的な解決を図って用水を確保した。(142文字)

惣村連合などを取り結ぶ際、沙汰人層が主導となっていたという事について深く触れた回答があるかもしれない。間違いではないが、設問で問われているのは「惣村の行動」であるため、必ずしもその主導者としての沙汰人に触れる必要はないと判断し、模範解答では触れなかった。

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