2017年東大日本史(第3問)入試問題の解答(答案例)と解説

◎はじめに

東⼤⽇本史の問題は、リード⽂、資料⽂、設問⽂の3点で構成されているのはしっていることでしょう。
ではいったい、どの順で読むべきでしょうか?
問題によって柔軟に対応するのがベストではありますが、基本的には、①リード⽂、②設問⽂、 最後に③資料⽂の順に読むことをお勧めしています。 それは、まずはリード⽂と設問⽂をよく読み、解答にどのような情報が必要なのか 把握した上で資料⽂と向き合うのがよいだろうと考えられるからです。

これまで多くの⽣徒や再現答案を⾒て、採点や添削を⾏ってきましたが、内容の良し悪し以前に、問われていることに答えていない答案が、想像以上に多いです。そこで、設問の分析から始めることで、問われている内容から外れないようにい⼼掛けることを強くお勧めしています。

 

◎設問の分析

設問A

与えられた資料文を冷静に分析してまとめれば解答に辿りつけます。落ち着いて高得点を狙いましょう。

設問B

当主の男女での名前の書かれ方の違いを踏まえるという条件のもとで村と家における女性の位置付けを考察するのですが、資料文の解釈が難しい問題です。

 

◎資料文の選定

東⼤⽇本史では、資料⽂が複数与えられた場合、設問Aと設問Bで利⽤する資料⽂が住み分けされることがあります(両⽅の設問に利⽤する資料⽂が与えられる場合もあることに注意)。

本問は、全体的な説明となっている資料文⑴を頭に入れつつ、主に相続について記述されている資料文⑵と⑶を用いて設問Aを、当主の名前の書かれ方について述べられている⑷を用いて設問Bを解いていく感じでしょう。

 

◎設問の解答

設問A

まずは資料文⑵を分析してみましょう。
資料文によると、相続者の過半数は長男で、そのほかの構成員もちらほら相続しているとわかります。では、そのような人達はどのような基準で相続していたのでしょうか。

次の資料文⑶を読んでみると、とりわけ女性が相続する場合の条件が記述されています。それは、男性がいない場合か相続に不適格な場合であり、しかもそうした女性の相続は一時的であると述べられていますね。
したがって以上の事をまとめると、相続では男性とりわけ長男である事が重視され、適当な男性がいない場合に限って女性が一時的に相続していたと言えますね。

 

設問B

資料文⑷に入る前にまず当主について主に資料文⑴を参考にしつつまとめておきましょう。
当主とは家ごとの家業や財産を代々継承する存在であり、特に男性当主は家名として代々同じ名前を継ぐことが多かったとされています。また、当主は家を代表して年貢や諸役をつとめ、村の運営に参加しました。ここで思い出して欲しいのが村請制です。村請制とは村全体で年貢や諸役をまとめて納入する制度でしたね。このように村の自治性を保障されていた江戸時代における、家を代表して村の構成員となる当主の立場の重要性が理解できると思います。

 

さて、資料文⑷の分析に入りましょう。
家における女性の位置付けについては、宗門人別改帳での書かれ方から推測できます。それは、「百姓平左衛門後家ひさ」のように亡夫の名前を肩書きに付けて記されている事から、女性は男性と対等な個人として扱われておらず、あくまで男性に準ずる存在に過ぎなかったという事が読み取れますね。

 

次に、村における女性の位置付けについて考察してみましょう。
村に関する書類では「平左衛門」という男性当主の名前、すなわち代々継承された家名が使われており、後家ひさの名前は出てきていません。すなわち、ここで後家ひさは旧当主平左衛門と同様の当主としての役割を村において果たしているにも関わらず、書類では平左衛門の名を使われている訳です。したがって、実情では女性が当主であり男性と同じ機能を果たしているとしても、建前・体裁上は男性を代表としており、ここには「男性であること」、ジェンダー論的に言うと「男性性」が重視される社会の慣習が見て取れます。また、設問Aで見たように女性が当主であるのは一時的であり、つまり女性は男性の代理人に過ぎずやがて男性が当主になることを前提としているという側面もあるでしょう。

以上、まとめると女性は男性より低い位置付けであった事が読み取れます。

 

答案作成用メモの例

 

◎解答例

A原則として男性、特に長男が優先的に相続し、年齢や資質等の点で適格な男性がいない場合のみ女性が一時的に相続した。(問番号含め56字)

B女性は、家では自立した個人ではなく男性に準じる存在として扱われ、村では実際に当主を務めていても表向きには男性の家名を名乗る必要があり、総じて男性より低く位置付けられていた。(問番号含め87字)

※設問Bについての補足

村に関する書類で女性が男性当主の名前を冠しているという部分について、上記の解釈とは逆に女性が男性当主と同等の地位を認められているという解釈で解答を作成している予備校も、少数ではありますが存在します。どちらが正しい解釈なのか、与えられている資料文の判断材料からは確信が得られない為、本解答では多数派の解釈を採用しました。

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