2022年東大地理(第二問A)入試問題の解答(答案例)と解説

 2021年にアメリカで共和党のトランプ氏に代わり、民主党のバイデン氏が大統領に就任したことを受けての出題でしょうか。
第一問で人獣共通感染症やスエズ運河が出されたことと同様に、時勢を読んでいるかのような出題でした。

さて、2Aと2Bでは北米と南米が取り上げられていますが、東京大学が繰り返し繰り返し出題している地域でもあります。
たとえば、2016年第1問AB、2012年第1問B、2007年第3問B、2006年第1問、2002年第1問、1993年第2問、1984年第3問の一部、1983年第1問の一部あたりが挙げられると思います。

結論から言えば、東京大学2022年の第2問はAB共に典型問題であり、 落としてはいけないセットでした。
ただ、本問は単なる知識問題というより、受験生にこうしことを意識した学習を心がけて欲しいという出題者からの真心こもったメッセージのように思えました。
それが意味するのは何かについて、設問別の講評をする中で申し上げられたらと思います。

設問(1)の解説

先ずは(1)の問題文から見ていくとしましょう。

設問(1) 1970〜1990 年と 1990 年〜2010 年に分けて人口変化率を見ると、ア州では49.1%から25.2%へと増加率が半減しているのに対し、隣接するイ州では107.0%,74.4%と増加率は高い水準を維持している。両州でこのような違いが生じた理由を2行以内で述べよ。

(1)は、カリフォルニアとアリゾナにスポットがあてられています。
仮に、アリゾナの名前が思い浮かばずとも、 2016年に、東大がシリコンデザートやシリコンマウンテンあたりの知識を前提とした出題をしてきていることから、過去問探究をしっかり進めてきた受験生にとってはサービス問題だったでしょう。

本問で問われているのは人口増加率の高い・低いをもたらす背景が何なのか、日頃の学習で一般化して考える思考習慣だと私は思いました。
人口増加「率」ということは、ある年(正確にはある一定期間)のある人口と比べて、どのくらい増えているかを測るものですが、
分母が大きければパーセンテージの変動差も変わってきます。

また、そもそも、なぜに増加するのか、人口増減の背景を瞬時に最低でも3つ思い浮かべられた方は、東大好みの地理の学習をなさっている方だと言えましょう。

 則ち、

1 飽和 OR 過疎

2 地価 / 経済状況 (地価を指定語句とした東大2015第3問Cも参照)

3 需要 / 魅力

以上の3つです。

これはどういうことかというと、都市の人口密度が異常に高まれば、当然、人口を吸収しきれなくなり、増加「率」も緩やかになっていくはずです。
狭いエリアに人が集中すれば、土地に値段も上がります。

そもそも、都市の人口密度が高まる要因にはいろいろありますが、経済成長著しく労働需要が高い状況が続いている、あるいは、何らかの「魅力」があり、人口が流入していることが考えられます。

ちなみに、この何らかの「魅力」なるものとしては、本問の(2)で取り上げらえうフロリダの温暖な気候や美しい街並みが好例でしょう。

もちろん、上記の3点以外にも重要な視点はありますが、入試レベルであれば、先ずはこれら3つのファクターだけで多くの問題を分析検討することができるようになります。

人が移動するには何らかの要因があり、人の移動は社会的・ 経済的・文化的な「衝撃」をもたらします。
そうした衝撃は、時に紛争をすら招来することがあります。
かように重要なテーマを通して世界を鳥瞰してみると、様々な事柄が有機的に連関していることに気付かされることでしょう。

都市と人口については、東大が好んで何度も出題する分野ですので、しっかりと過去問探究をしましょう。

ちなみに、都市化と聞いた時に、反射的にいくつのキーワードを思い浮かべることができるでしょうか。

      ドーナツ化現象・スプロール現象・インナーシティ問題・ウォーターフロント計画・プライメートシティ

       大気汚染・交通渋滞・インフォーマルセクター・スラム・首都移転・ヒートアイランド現象・再開発

ざっとこんなものでしょうか。
ここに、GISの話も絡んでくると、2022年東大第3問で問われたスマートシティの話なども登場することとなりますね。

とはいえ、これらの用語を無機質に丸暗記したのでは苦痛で仕方がありません。
きちんと論理立てて記憶すれば、いずれも「当たり前」の話をしているに過ぎないことに気付かされるはずです。

さて、話を戻しましょう。第1問の解説記事の中で、過去問・教科書・資料集の重要性について申し上げました。
過去問であれば、2016年第1問のA(2)やB(2)あたりは本問でそのまま活かせたと思います。
また、二宮書店の『新編詳解地理B改訂版』(2022年版)のp284や、帝国書院の『世界の諸地域NOW』(2022年版)のp151では、アメリカの居住・都市問題が特集記事として載っており、サンフランシスコ周辺では著しい経済発展の陰で家賃や物価の高騰で中・低所得者層が郊外に追いやられているという負の側面にも言及されています。

ただ、アリゾナに関する記述は教科書・資料集には乏しく、ここは地理的思考を巡らすことが若干求められましたが、過去問探究をなさった方には、何でもない問題だったと思います。

なお、ご参考まで、北川博史教授(岡山大学)の『乾燥地都市における経済開発とその特性~アリゾナ州を事例として』なる公開論文の最後で、非常に視座に富む一節があったのでご紹介したいと思います。

これまで、乾燥地資源の利用は、主として、鉱産資源開発と灌漑農業等にみられる農牧業地域の開発に収斂 してきた。しかしながら、工業用水を大量に必要とする大規模な重化学工業の発展が望めない乾燥地といえど も、工業を中心とした産業発展の可能性がまったくないというわけではない。適応できうる産業を選択すれ ば、乾燥地都市の多くは経済発展が可能となる。 むろん、良質な労働力や産業政策や都市インフラの整備などの条件が整っていることが前提とはなる。アリゾナ州の経験は、まさにそれを具現しているといえよう。 1990 年代以降、アリゾナ州の乾燥地都市であるフェニックス及びツーソン大都市圏において 人口増加が顕 著となった。そうした人口の急増はICT産業やエレクトロニクス、事業所サービス業などの集積による産業発 展に依拠するものであった。

【論文リンク】https://core.ac.uk/download/pdf/32590678.pdf

設問(1)の答案例

Aさん 都市のア州は住環境の悪化、人件費や地価の上昇により郊外へ人口が流出し、乾燥するイ州は先端産業が進出した。

Bさん ア州はアジア系が多く、高学歴化により出生率が低下したからで、イ州はヒスパニックが多く、彼らの出生率が高いままだから。

Aさんの前半は悪くはありませんが、後半がいけません。
「乾燥する」とだけ書いても、それが人口増減との間で何の意味を持つのか不明瞭ですし、「先端産業が進出した」から何なの?、というのが採点官の気持ちです。

Bさんに至っては、お勉強はたくさんされてきたとは思いますが、勝手に決めつけてしまっています。
カリフォルニアにはヒスパニック系がいないのでしょうか。
JETROの発表では、ヒスパニック系が州人口の39.4%を占めており、マジョリティになっています。
(データ元 https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/09/b229a3b97b565520.html)

また、アジア系が進出してくると、高学歴化し、出生率が低下するというのも、わかっているようで、わかっていない答案だなとガッカリしてしまいます。
Aさんは東大合格者平均以上の得点ですが、それでも、こんな初歩的な間違いを犯してしまうわけです。
アリゾナ州にヒスパニックが多いと記述していますが、アメリカの多くの都市でヒスパニックは増えています。
(データ元 https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/02/5448bcfe2d87d8ed.html)

 

設問(2)の解説

引き続き、(2)を見ていくとしましょう。

説問(2) ウ州とエ州は共に75歳以上人口比率が高いが、その背景は大きく異なる。それぞれの州で75歳以上人口比率が高くなる理由を、両州の違いが分かるように2行以内で述べよ。

まず、「75歳以上人口比率が高くなる」というのは、当該地域において、おじいちゃんとおばあちゃんばかりになるということです。

では、なぜ、そうした事態に至ったのかというと、

  • 若者が出ていく
  • 老人が多数流入する

の2つが考えられるはずですね。
日本の地方を思い浮かべてみてください。
職を求めて東京や大阪や名古屋に若者がどんどん出て行ってしまうわけです。

ですが、これだけなら中学受験生でも答えられます。
それだけでは視野が狭いよ、と本問で東大は問うています。
それが、「老人が多数流入する」という視点です。

では、なぜ、住まい慣れた故郷を捨てて、フロリダにお引越しするだけの意味があるのか。そこに如何なる魅力があるのかを考えなさい
と言っているわけです。

この点、東大2019年第2問B(2)や2008年東大第3問A(2)しっかり復習できていた受験生にとっては、「ああ、あの話か」と一瞬で片付けることのできた問題だとも言えましょう。

設問(2)の答案例

Aさん ウ州はラストベルトの労働者が高齢化し、エ州は温暖な気候でヒスパニックを家政婦とできる富裕な定年後の高齢者が多いから。

Bさん 農村地帯のウでは、若者が都市部へと流出し、過疎化・高齢化が進んだ。エは、温暖な気候の地域であるため、退職後の生活場所として高齢者に人気だから。

Aさんですが、ウのアイオワ州はラストベルトではありません。
事実誤認のある答案は非常に嫌われます。

フロリダに関する記述は面白いですね。
家政婦に注目できているのは面白いですが、75歳以上人口比率に関しては全く関係のない余事記載です。

地理に限らず、世界史や英語などでも知識をひけらかそうとする答案が散見されますが、東大教授からすると何の魅力にも感じないものですから、問いに淡々と答えるようにしましょう

Bさんは合格答案と言えるのではないでしょうか。
うまくまとめられていると思います!

設問(3)の解説

引き続き、(3)を概観してみましょう。

設問(3) 中西部に位置する多くの州では人口増加率が低い。これらの州の中心都市では、基幹産業の斜陽化、およびそれが引き起こした社会問題によって人口減少に拍車がかかっている。こうした社会問題として考えられることを2つ、合わせて1行で述べよ。

先程の(1)とは逆で、人口減少にフォーカスをあてた問題です。

東大2012第1問Bをしっかり復習した受験生であれば瞬殺であったでしょうが、そうでなかったとしても、基幹産業の「斜陽化」、つまり、産業の衰退が元凶にあるとヒントを与えてくれているわけですから、しっかりとこれを活かしたいところです。

また、30文字以内で2つの例を挙げさせていますので、遠回しな表現や下手な接続詞を使おうものなら、あっという間に字数オーバーになります。

端的にまとめる訓練を日頃からしてきたか否かが、こういうところでも採点官には分かるものです。

ただ、気をつけて欲しいのは、「リーマンショックがあった」「金融危機があった」などと書いても、設問条件に答えていないので0点だということです。

あくまで、基幹産業の斜陽化によって生じた「社会問題」にフォーカスを当てなさいと述べている。
要するに、リーマンショックなどで産業が衰退し仕事がなくなったら、その地域にはどのような問題が起きますか?と、東大教授は問うているわけです。

なお、アメリカの中西部の話ではありませんが、リーマンショック以降廃れてしまったミシガン州デトロイト市に再生の動きが見られているそうです。 ぜひ、帝国書院の資料集『世界の諸地域NOW2022』p146下段にあるトピックをご一読いただければと思います。

設問(3)の答案例

Aさん 失業率上昇に伴う治安悪化と貧困層増加税収が減少した。

Bさん 製造業が衰退し若年層が流出、都市の中心部の治安が悪化。

では(3)に参りましょう。
まずAさん。前半は悪くはありませんが、後半には違和感を覚えます。

貧困層増加→税収減というのは直接的な因果関係では結ばれないはずです。
句読点がありませんから、仮に「失業率上昇→治安悪化&貧困層増大」と読むならわかりますが、仮にそうだとして、「税収が減少した」とどのように繋げるのでしょうか。

Aさんの答案にある「で」が、どことどこを繋げ何を意味するのかが不明瞭です。

Bさんは「若年層に流出」という、高失業率の次段階の影響に言及していますね。
全体的にコンパクトにまとめられており良いと思います。

設問(4)の解説

では、ラストの(4)に参りましょう。

設問(4)   エ州は、中南米諸国と国境が接していないにもかかわらず、ヒスパニック系人口の比率が高い。このような状況をもたらした政治的理由を1 行で述べよ。

本問は知識問題ではありますが、東大はわざわざ「政治的理由」とヒントをくださっています。
フロリダ州に、中南米の人がやってくるのはなぜなのか。

「国境が接してないにもかかわらず」という条件から、海路でやってくることがわかります。フロリダに海路でやってくる中南米の人にはいろいろいるでしょうが、「政治的理由」と言っているわけです。
政治的理由で、中南米の人たちが多くやってくるわけです。
そこから、政治難民や亡命を連想できるかが勝負の鍵となります。

ここは、日頃から地図を眺めている人や、世界史や政治経済選択者に有利だったと思います。

フロリダの前には、何がありますか?
そう、キューバですね。
キューバは共通テスト(旧センター試験含む)でも何度か出されたことがあります。
ポイントを列挙するなら、

  • 砂糖のモノカルチャー経済
  • アメリカのフロリダの目と鼻の先
  • 1962年のキューバ危機は第三次世界大戦に繋がりかねなかった
  • 2015年に54年ぶりにアメリカと国交正常化
  • 社会主義国。長らく独裁体制。

といったところでしょうか。政治難民や亡命を希望する人は、しばしば社会主義諸国(あるいは旧社会主義国)の人であることが多いわけです。いま話題のロシア、中国、北朝鮮、そしてキューバあたりとなりましょう。共通テストや東大過去問で出題された国や地域のことくらいは、資料集の巻末まとめなどを利用して情報整理しておきましょう。

設問(4)の答案例

Aさん 陸続きの国境付近では監視が強化されたため、水路での越境が増加した。

Bさん キューバからの難民が多く流入してきたから。

それではラスト(4)。
Bさんは、まあ答案の核心は掴めていますが、字数にゆとりがありますから、社会主義国キューバとまで書けたら良かったです。

一方、Aさんについては、トランプ前大統領が設置した国境の壁という知識に引きずられすぎて、設問文にある「政治的理由」「国境が接していないにもかかわらず」というヒントを無視していますね。

丸暗記した知識の量だけで勝負ができるほど、東京大学は甘くはありません。

設問文をちゃんと読む、問にちゃんと答える姿勢の大切さを改めて実感していただけたと思います。

最後に、作問を担当された東大教授からのメッセージをお伝えしたいと思います。

(東大教授からのメッセージ)

広大な国土を有し、多様な地域を内包するアメリカ合衆国の地誌的な理解と共に、異なった要因による類似した現象の出現など、地域の変化を引き起こす複合的なメカニズムを説明する力を問うています。

いかがでしたでしょうか。
簡素なメッセージではありますが、最後に東大教授のメッセージをもう一つお伝えしましょう。

与えられた図表や地図,それに自らの知識を動員して解題し,相手(採点者)を納得させるように論理を展開せよ。

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