2023年(令和5年)東大地理を当日解いたので、所感を書いてみた。
敬天塾の塾長と講師が東京大学の二次試験当日(2023年の2月25日・26日)に入試問題を解いて、所感を記した記事です。他の科目については、こちらのページにリンクがございます。
【科目全体の所感】
総合難易度 標準
難易度は例年並みで良問。
東大らしく、一見すると見たことのないテーマや資料なのですが、よく考えると知っていることに帰着するというラインを絶妙に突いてきています。
やや考えづらい問題もあったものの、全体的には標準的な難易度の問題だったのではないかと思います。
テーマとしては、災害や環境問題など近年話題になっているものが多い印象です。地形図や農業など古くから出題されてきたようなテーマの問題もありますが、東大らしく必ず別の分野と結びつけて考えさせる問題ばかりでした。
市販の問題集や模試に比べて、思考させる問題が多く、解答に時間がかかると思われます。知識だけを覚えていてもダメで、常日頃から世の中の現象を「地理的に」考察する力を養いましょう!
第一問
設問A
難易度 A:標準
経済書にして空前のヒットを収めた『人新世の「資本論」』が話題になっていますが、それを意識してか「人新世」をテーマにした問題が出題。正直、目の玉が飛び出るかのような驚きでした。
リード文を引用すると
人間活動が、地球に対し地層にも残るような広範なインパクトを与えていることから、現在を「人新世」という新しい地質時代に区分する提案が、最近なされている。人新世のはじまりの時期は、16世紀とする意見、18世紀後半とする意見、1950年代とする意見などがあった。いずれの時期を人新世の開始とするにしても、全地球的な証拠が地層中に残されていることが必要であることに留意して、以下の問いに答えよ。
とのことです。
「人新世なんて知らないよ!」と思ってしまったら、罠に引っかかってます。東大の問題では受験生が知らない知識をわざと出し(あえて、面食らわせようとしている!?)、動揺させてきます。
しかしながら、問題文をよく読むと、何かしらの地理の知識や考え方に結びつくようにできているという構造になっているのは、もうお馴染みです。
今回も、端的に言えば、16世紀、18世紀後半、1950年代に起きた、地質に影響を与える出来事を答えろという問題です。(もう少しヒントは多いですが)
やや世界史選択者に有利な気がするのが気になりますが(私が日本史・地理選択だったからか)、このくらいは常識的に知っておいてほしいところではありますね。
(4)と(5)は人新世とはもっと関係なくなって、1950年代以降の経済活動の問題と環境問題の設問ですから、これも難しくないでしょう。
なお、4月からスタートする地理探求の科目ですが、教科書でもマイクロプラスチックによる海洋汚染やSDGsに関する記述が大幅に増える予定です。昨年のスマートシティの話題同様、最新のトピック(テーマ)に意識を傾けてください。
設問B
難易度 やや難
設問Bのテーマは、南アジアの環境問題についてでした。
共通テスト本試験でもインドが登場しましたが、東大でも登場したということになります。
インドと言っても、テーマは温室効果ガスの発生と林野火災です。
もちろん、どこかで聞いたことがある知識をそのまま問うのではなく、ヒントを利用してワンクッション考える必要のある問題が出題されています。
このような環境問題についての問題は超頻出ですし、温室効果ガスについても幾度となく出題されています。PM2.5に関する問題は、2017年第2問以来の出題です。
自然地理を土台に人間生活と環境問題の相互関係を意識した学習をしてほしいというメッセージではないでしょうか?
第二問
設問A
難易度 やや易
ここは養殖業がテーマです。
今年度の共通テストではウナギの養殖について問われましたし、養殖も話題のキーワードですから、やはり最新トピックを抑えることが非常に重要だと思われます。
設問から世界の水産業の実態まで意識を巡らし周辺知識の確認をできた受験生にとってはラッキーだったといえるかもしれません。
問題としては、表データが与えられ国名を当てるという典型的な問題や、養殖生産量の増大に関する背景や、養殖に適する地形を答えさせる問題など、過去問でよく見てきたような問題が多数出題されています。
難易度も抑えめで解きやすかったと言えるでしょう。
設問B
難易度 やや難
ここのテーマは小麦です。ここも共通テスト本試で出題されたインドと中国を主とした設問でした。
ウクライナ危機で世界的に小麦の価格が高騰していることに着想を得て作問されたのでしょうか?もしそうでなかったとしても、受験生側の心構えとしては、このようなニュースを見聞きしたときに、必ず地理的に考察する習慣は必須です。クセ付けましょう。
中国の小麦生産量が上下した背景について、経済成長や安全保障と絡めて答える問題。一見知らないテーマのようで、結局はここ30年ほどの中国の変化と絡めれば解ける問題だと言えるでしょう。
ハンガリーの小麦生産量も90年代に大幅に落ち込んだが、それはなぜかという問題も出題されましたが、これはやや難しいかもしれません。指定語句に「農業補助金削減」とあるので類推してストーリーを作ってなんとか答えた受験生が多かったのではないかと思います。
東大は特定の作物にフォーカスをあてた設問を過去に何度か出題しています。それぞれの農作物の特徴や農業政策、技術革新や市場動向などは知識をまとめておいても良いでしょう。
第三問
設問A
難易度 標準
昨年に引き続き、地形図が登場しています。
昨年は東大のキャンパスが登場し、スマートシティと絡めるなど少し新しい話題に絡めた問題でしたが、今年はやや「古臭い」問題です。住宅と地形の関連や、土地利用と地形の問題など問題集などでよく見るテーマと言えるでしょう。
気になる問題としては、(3)の災害後に建てられた人工建造物についてです。2014年の災害を特定し、地図記号や災害後の土地被覆まで考慮して建造物の建設目的を答える問題。かなり凝った作りになっています。
山のてっぺんから崩れているような部分を見つけられれば土砂災害だと特定できて、土砂をせき止めるための壁みたいなものかなぁと答えられるのですが、これまでになかった出題方法のようで印象的でした。
なお、2022年年から始まった地理総合では、日本の自然災害を地図や衛星情報から分析して解決策を考えていくことを重視するようになっています。
設問B
難易度 やや易
国内の1世帯あたりの人数と、居住室数のグラフが与えられ、都道府県名を当てながら、背景を答える問題。
核家族が進んだり、都市化が進むとどちらも小さくなり、田舎の方にいくと大きくなるというのが理解できれば、難しくはないでしょう。
珍しいのは、日本の住宅の構造が木造から非木造(鉄筋やコンクリートなど)に変化してきた理由を答える問題。あまり見たことのない視点の問題のように思えました。
最後に、空き家率が高まっている理由ですが、これは簡単だったことでしょう。
ちなみに、2030年ころまでに1/3近い住戸が空き家になるという試算があります。空き家が増えることで、地域の活気が失われ、病院や商店、銀行などの撤退が相次ぎ、治安の悪化や税収減が懸念されています。
また、空き家といっても一様ではなく、売却用、賃貸用、別荘など二次利用目的のものまで含まれます。別荘については、避暑地として有名な軽井沢を有する長野県や、山中湖、河口湖など観光スポットの多い山梨県などに多いことも頭に入れておくと良いでしょう。
最後に
上記の地理の記事は敬天塾の塾長とおかべぇ先生が執筆しています。
おかべえ先生は、東大地理で60点中59点を取得した先生です!
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