2023年 東大国語 第3問(漢文)『貞観政要』解答(答案例)と現代語訳

はじめに

よくある君臣論でした。
諫言(かんげん)についての話を読みなれていない方は、東大漢文2012年『春秋左氏伝』、2014年『資治通鑑』などで慣れておきましょう。
(一)cの「直」も、2014年『資治通鑑』の本文に「主明ナレバ臣直ナリ」で出てきています。

また、漢文は句形と語彙100語ほどの暗記で終わらせる受験生もおおいですが、語彙は100語では足りません。
熟語から類推力を養う必要もあります。

答案例とプチアドバイス

(一)傍線部b・c・dを平易な現代語に訳せ。【各0.5行】
a 前史美

傍線を含む文の書き下し文:
前史之ヲ美(ほ)メ、以テ先見ニ明カナリト為(な)ス。

答案例:昔の歴史書は何曽を賛美し、

プチアドバイス:「平素な」という条件付き現代語訳では指示語を具体化します。
「之」は語順的に「美」の目的語です。
傍線部直後に「先見の明がある」とあり、傍線部前の何曽の行動と一致するので、之は何曽となります。
また、読点の前なので、終止形ではなく連用形にします。

 

c 当正諫(せいかん)シ

傍線を含む文の書き下し文:
当(まさ)二辞(じ)ヲ直(なほ)クシテ正諫(せいかん)シ、
道ヲ論ジテ時(とき)ヲ佐(たす)クべシ。

答案例:言葉を率直にして

プチアドバイス:語彙力が問われた設問です。
「辞」は多語義で「言葉」の意味もあります(辞書・辞典)。
論語にも「辞は達するのみ(辞達而已矣)」言葉は相手に伝わることだけが重要だ」という言葉があります。
なお、「辞する」は元々、「退出の挨拶をする」の意から、「退出する」の意味も加わっています。

受験生の答案を読んでいますと、「素直な言葉で」という風にレ点を無視している答案が多数ありました。
そのようなミスをなくすためにも、「語順」もしっかり理解しておく必要があります。

(参考)映像授業【東大漢文 語彙力・漢字力編】(オリジナル語彙一覧付き)

(参考)映像授業【東大漢文 導入&語順編】(豊富な語順トレーニング付)

 

d 論ジテ一レ

傍線を含む文の書き下し文:
当(まさ)二辞(じ)ヲ直(なほ)クシテ正諫(せいかん)シ、
道ヲ論ジテ時(とき)ヲ佐(たす)クべシ。

答案例:その時代の政治を助ける

プチアドバイス:「時代を助ける」だと日本語として不自然なので、「政治を」「君主を」などの補足をしましょう。

 

(二)「爾身猶可以免」(傍線部a)を、「爾」の指す対象を明らかにして、平易な現代語に訳せ。【1行】

傍線部の書き下し文:
爾(なんぢ)ガ身(み)ハ猶(な)ホ以テ免(まぬか)ルべシ。

答案例:劭よ、おまえの命はそれでもやはり、難から逃げることができるだろう。

プチアドバイス:「猶」は東大頻出の重要副詞。
〈➊それでもやはり ➋やはり〉。
漢文では基本➊。たまに➋。
※古文では逆に基本が➋で、たまに➊。
※再読文字(猶~のごとし)の場合は「❸ちょうど~のようだ」

 

(三)「後言」(傍線部e)とあるが、これは誰のどのような発言を指すか、簡潔に説明せよ。【1.5行】

答案例:何曽の、武帝は政治に無関心なので、晋王朝は子孫代々続くことはないだろうという陰口。

プチアドバイス:「退有後言」と「進無廷諍」は対比であることに注目!
「後言」は「廷諍」との対となっていますね!
そのことから、臣下の行動であることが明確です。
また、傍線部前の「退き」は二文目にもあったので、ここで何曽がやった行動になります。

つまり陰口をたたいたことが「後言」です。

 

(四)「顚而不扶、安用彼相」(傍線部f)とあるが、何を言おうとしているのか、本文の趣旨を踏まえてわかりやすく説明せよ。【1.5行】

傍線部の書き下し文:
顚(たふ)レテ扶(たす)ケずンバ、安(いず)クンゾ彼ノ相ヲ用(もち)ヰンヤ。

答案例:君主が過ちを犯している時に諫め助けようとしない補助者を私は任用しない。臣下は諫言しなさいということ。

プチアドバイス:「諫めて〔諫言して・直言して〕」といったキーワードが必要です。

対比分析

漢詩ではなく漢文であっても、「対比」に注目することは読解において非常に重要です。
以下、「対比」となっている部分に色付けをしています。
四句または六句であることに気づけますか?

「四六駢儷体(しろくべんれいたい)」(漢文の文体の一つ。主に四字・六字の句を基本として対句を用いる華美な文体。)という言葉もあるように、対比はこのように四句または六句がほとんどです。

(参考)「対」による読解をマスターするなら映像授業【東大漢文 読解法編】

(2023年4月下旬追記)東大「出題の意図」

東京大学の漢文作問担当教授陣が以下のようなメッセージを発表しましたのでご紹介いたします。

第三問は、漢文についての問題です。唐の太宗と近臣たちの政治議論をまとめた『貞観政要』を題材としました。漢文の基礎的な語彙・文法をふまえ、旧時の名臣とされた何曽の言行に対し、唐の太宗が異議をとなえた議論を正確にとらえているか、また個別の表現をきちんと理解しているかを問いました。文科ではさらに、語句の具体的内容を、文脈に即して説明する問題も設けました。

4点ほど、コメントしておきます。

①「基礎的な語彙・文法」だそうです。
 設問(一)の「辞」は間違った受験生が多かったようですが、このくらいは基礎として押さえて欲しいということでしょうか。
 (漢文の先生として、私も知っていて欲しいと感じます!)

②「異議をとなえた議論」だそうです。
 東大漢文の過去問にも、「異議をとなえた議論」はよく出てきます。
 このパターンはぜひ押さえて、すぐに理解できるようにしておきたいものですね。

③「個別の表現をきちんと理解しているか」だそうです。
 「基礎的な語彙・文法」とは別の「個別の表現」とはどれのことを指すのかは不明ですが、精読が求められている気がします。

④「文科ではさらに、語句の具体的内容を、文脈に即して説明する問題」だそうです。
 理科にはなくて文科にだけ出されたのは設問(三)です。
 今回は傍線部と具体的な内容の場所が離れていました。
 このような具体化も慣れておきたいですね。

本文と現代語訳の併記(JPEG)

本文と現代語訳の併記(PDF)

2023(3)『貞観政要』現代語訳

現代語訳

 我が聞くところによると、晋の武帝は、呉を平定してから後は、驕って贅沢をむさぼり、決して政治に心を留めなかった。何曽は朝廷から退出して(帰宅し)、子の劭に語って「私が君主にお目にかかる度に、(君主は)国家を統治するために通り将来のことを論じないで、ただ日常の平凡な話をするだけだ。この方は子孫に(将来の帝位を)残す(ことのできる)人物ではない。おまえの命はそれでもやはり、難を逃れることができるだろう」と言い、(しかし、)孫たちを指さして「この者達は必ず乱に遭遇して死ぬだろう」と言った。孫の何綏の(大人として活躍する)時代になって、(何曽の予言どおり)結局、不当な刑罰によって殺された。昔の歴史書はこの者(=何曽)を賛美して、(何曽には)先見の明があるとしている。

 (しかし、)私の意見はそうではない。思うに、何曽の不忠については、その罪は大きい。そもそも、臣下たるものは、(朝廷に)出勤しては誠を尽くそうと思い、(朝廷から)退勤しては君主の過ちを補おうと思い、君主に美徳があれば助け従い、君主に過失があれば正して救うべきである。(これこそ)共に政治を行う方法である。何曽はその位は官職の最高位を極め、爵位やそれに見合った車や衣服は尊く重んじられている。当然、(君主に対して)言葉を率直にして諫め正し、道を論じてその時代の政治を助けるべきだ。(それなのに)今(挙げた話では)退勤して陰口をたたき、出勤しては朝廷で強く意見を言うことがない。それを(前史で先見の明があって)明智だと言うのは、なんと誤りではなかろうか。倒れたときに助ないならば、そのような補助者を任用するだろうか。いや、任用などしない。

参考文献
明治書院 『新釈漢文大系 貞観政要』
講談社学術文庫『貞観政要 全訳注』

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