2023年(令和5年)東大国語を当日解いたので、所感を書いてみた。

敬天塾の塾長と講師が東大の二次試験当日(2023年の2月25日・26日)に入試問題を解いて、所感を記した記事です。他の科目については、こちらのページにリンクがございます。

注)2023年3月1日追記
本稿作成後、解説記事作成などを通して問題の考察を深めました。それにより、当日受けた印象から変化した部分があるため、このように黄色背景で追記しています。読む際にはご注意下さい。

【科目全体の所感】

総合難易度 昨年比でやや易化か?

「国語なんてどうせ差がつかないから、勉強しなくてよい」なんて言われていたこともありましたが、ここ2年は例外でした。
長らく「国語は60~70点台」という時代が続いていたところ、直近2年は得点分布が下落。
合格最低点も連動して下がり、「さすがに、国語もちゃんと勉強しなければ」と思わせられた受験生も多かったことでしょう。
それを踏まえてか、今年は難易度がやや緩和したという評価です。

第一問
読解も設問要求も平易な問題。
しかし、設問の作りなどを見ると、見た目よりは多少難しいと思われます。
難易度が緩和したとはいえ、舐めてかかれるほどではありません。

第二問
古文は仏教説話。やや易でした。
2022年・2021年と比べるとかなり解きやすかったので、拍子抜けした受験生もいるでしょう。
読解も解答作成もそんなに頭を悩ませる箇所が無かったので、早い人は15分~20分ほどで解き終わって、他の大問に時間を使えたのではないでしょうか。

第三問
漢文は典型的な政治論でした。
《臣下が主君を諌め、共により良い国づくりに励むべき》といった内容です。
漢文語彙力が多少は必要ですが、句形は難しくなかったです。
2021年と比べるとかなり簡単で、2022年と同等から少し簡単な、標準レベルでしょうか。

第四問
一読では・・・いや、何回読んでも意味が分からないような難解な文章でした。意味が分からなければ、当然設問にも答えられないので、判定は「難」。時間内に解くとなると、相当厳しいでしょう。

まとめ
第1~3問の難易度が緩和し、第4問は相変わらずの難ということで、総合的には「易化」。
第4問はここ2年もほとんど点数が取れないほど難しかったのを踏まえると、国語全体の得点分布はやや上がるかもしれません。
但し、採点基準や採点方法によっては、ここ2年と同程度に点数が低い可能性もあります。得点開示が返却されたあとの、得点分布が今後の考察において重要になることでしょう。

第一問(現代文)𠮷田憲司「仮面と身体」

難易度 標準

エッセイ風だった2022年とうってかわって、典型的な論説文でした。
文章の論理構成も非常に明確で、論理展開も丁寧
意味段落の転換部にはわかりやすく転換することを指示する文が存在しているため、誤読も発生しづらいでしょう
2021年、2022年が誤読しやすい文章だっただけに、文章の読解面では易化したと評価してよいと思われます。
一方で、問題としての「衝撃」は感じられず、良くも悪くも典型的でクセのない良問という印象です。

このように、答案の方向性が定まりやすい問題ほど、採点が厳しくなる可能性もあります。
「自分としては書けたぞ」と思っても、点数が返ってこないというのは、東大の国語アルアルです。
この辺りが注目ポイントです。

内容としては、国立民族学博物館の気鋭のフィールドワーカーである𠮷田憲司氏が『学燈』に寄稿した『仮面と身体』からの出典でした。世界各地の仮面の探究を通じて、人の「顔」や、「異界」の存在について考察を深めた文章です。

 

一(標準)→やや易~標準に格下げ」

「なぜか」と問われそうなのに、「どういうこと」に答える問題。文章が読みやすいので簡単な問題だと錯覚しそうですが、「人間のなかにある普遍的なもの、根元的なものの探求」を言い換えようとすると、なかなか厄介です。
近年、東大現代文で頻出になっているパターンの「本文中に書いてないから、自分で言葉を足して書かなければならない問題」だと言えます。これに慣れていない人は、見かけ以上に難しく感じたことでしょう。

追記
難易度の評価を「やや易~標準」に格下げしました。答案作成を試みたところ、本文が読みやすく、傍線部もシンプルな構造をしており、答案を作成しやすいのではないかと評価しました。

二(標準~やや難)→「やや易~標準」に格下げ

これも「なぜか」でも問が成立しそうな設問でした。(キチっとした論説文なので、そうなりやすいのですが)。もっと言えば、「なぜか」と聞かれた方が簡単かもしれません。
単純に言い換えるだけなら「仮面をつけることは、神や霊などの憑依を必ずしも伴わなくても、成立するということ。」などとなるでしょうが、これでは説明になっていません
「仮面」とは何か、なぜ成立するのかなどを考えていくと、本文中にヒントが少なくて、案外解きづらい問題だったのではないでしょうか。

追記
難易度の評価を「やや易~標準」に格下げしました。答案作成を試みたところ、本文が読みやすく、傍線部もシンプルな構造をしており、答案を作成しやすいのではないかと評価しました。ただし「なぜ憑依を前提としなくたったのか」まで説明しようとすると、難しくなり、字数制限も厳しくなります。

 

三(やや易~標準)→「やや難」に格上げ

これは、答えやすい問題。傍線部ウの直前の段落を要約するのがメインの作業と言えるでしょう。ただし、これも「なぜか」に対して答えそうになる問題。しっかり「どういうことか」に答えるように気を付けたいところです。
但し、意外に難しいのが「新たな」の説明です。単に「新たな」と答案に書くだけでは、どのような点で新しいのかが分かりません。そこで、「以前は〇〇で、仮面をつけると△△」
などのように、変化が分かるように書きたいのですが、字数が気になります。

追記
すみません、誤読をしていたため、難易度の評価を変更して「やや難」に格上げしました。
傍線部の前後をまとめるのがメインの作業である点は変わりないのですが、表現が難しいと感じました。「仮面と被ると、他者との関係が新しくなる」という内容なのですが、仮面をかぶるというのはどのような行為なのか、なぜ他人との新たな境界になるのかを丁寧に、かつ簡潔に表現しようとすると難しく感じました。

 

四(やや易)→難易度を大きく上げ「難」に格上げ

これは、設問四(本文全体の趣旨を踏まえて説明する問)として、非常に典型的な問題と言えます。注意したいのは、傍線部エの前段落(ここで仮面が・・・と続く段落)です。
仮面というと「他者になりきる」という印象が強いと思いますが、実は最後の落としどころはそうではありません。「固定化」が最重要キーワードです。
しかも、単に「固定するんだなぁ」とおぼろげに理解してはダメで、「常に揺れ動き定まることのなかった自身の可視的なありかたが、初めて固定された」という部分を正確に理解する必要があり、では「何が揺れ動くのか・・・」など論理を追っていくと、自然に文章全体に広がっていくことでしょう。(これが、東大の設問四として典型的だと言えると思います。)
なんとなく傍線部の付近からキーワードっぽい部分を繋ぎ合わせるのでは不十分になりがちで、(正攻法と言えば正攻法だが)正確に語句の意味や定義を捉え、しっかり論理展開を追い、簡潔にまとめる力が求められる良問と言えます。

追記
こちらは、読んだときの印象からだいぶ変化し、難易度を大きく上げ「難」に格上げしました。

浅い答案を書くだけなら、やや易ほどの難易度で良いのですが、傍線部エの「自分自身を(中略)つかみ取る」の解釈や、異界の力を制御することをわかりやすく説明すること、また要素を分かりやすく字数内に収めることが非常に難しく感じました。

 

設問五(漢字の書き取り)
漢字は、「狩猟」「遂」「衝撃」の3つが問われました。昨年度の「滑稽」も過去に出題例がありましたが、今年の「衝撃」についても、1978年に出題されていました。
敬天塾の公式LINE特典では、東大漢字50年分リストをプレゼントしていましたので、しっかりと過去問探究された方にはサービス問題だったことでしょう。

(編集部注)関連記事のリンク
2023年東大国語 第1問 𠮷田憲司「仮面と身体」解答(答案例)・解説

第二問(古文)『沙石集』

難易度 やや易

鎌倉時代に書かれた仏教説話集からの出題でした。

説話は2011年からの12年ぶりでしたが、
1990年以降の全45題のうち13題(つまり約3割)が説話なので、
古い過去問にも取り組んでいた人にとっては、そこまで驚くべきジャンルではありません。

リード文は以下の通りです。

次の文章は『沙石集』の一話「耳売りたる事」である。これを読んで、後の設問に答えよ。

ここから、耳を売った人物の話であることが明白です。

もちろん、現実ではいくら耳が大きくてもそれを売るなんてことしません。
でも説話集ってそういうことがあるんです。
『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』には鼻が大きい坊主の話があります。
(芥川龍之介の短編小説『鼻』の題材にもなった話なので、ご存じな方も多いと思います。)

受験までに1年くらい時間の余裕がある方は、マンガ日本の古典シリーズを読んでおくと、現実とは違った異様な人物などが現れても普通に受け止められますよ☆
(ゲゲゲの鬼太郎を描いた水木しげる氏の『今昔物語』や『雨月物語』などがオススメ)

 

さて、敬天塾では「説話が出たら、最後のオチを先にチェックしよう!」と伝えています。
最後の文も引用しますね。

万事齟齬する上、心も卑しくなりにけり

このオチから、耳を売った人物が不幸になりそうですね。
そして性格も悪くなっていくのかな?!と想像しながら読むと良いでしょう。

 

今回、登場人物が多いので、少しだけややこしく感じた方もいるかもしれません。
・耳を売った人
・耳を買った人
・(彼らの)人相を見る人
・ある上人(有徳の僧)
・神主
・神主の家族

ただ、「段落分けは東大からの『場面が変わりますよ』というヒント」だと認識していれば、混乱せずに読めるはずです。

設問については、傍線部の単語も文法も簡単でした。
念押しの終助詞「かし」などを漏らさずに訳すことなどが、ちょっとした差になったでしょう。

2019年の『俳諧世説』や2020年の『春日権現験記』ほど簡単ではありませんでしたが、標準以下の難易度だと思われます。

(編集部注)関連記事のリンク
2023年東大国語 第2問(古文)『沙石集』解答(答案例)と現代語訳
2023年東大国語 第2問(古文)『沙石集』設問別の詳細な分析資料(2023年東大古典分析の動画付き)
映像授業【東大古文 学習法編】(2023年『沙石集』解説付き)

第三問(漢文)『貞観政要』

難易度 標準

出典の『貞観政要』は、唐の第二代皇帝である李世民の言行録。
太宗とも称される李世民は、「貞観の治」と呼ばれる希有な平和の時代を築いています。
徳川家康や明治天皇が帝王学を学ぶ上で使用したとも言われる名著です。

リード文の1文目は以下の通りです。

次の文章は唐の太宗、李世民(在位六二六~六四九)が語った言葉である。

語っている状況ではなく、語っている内容そのものです。
わかりやすく、第一段落も第二段落も「朕(皇帝の一人称)」で始まります。

 

内容としては、《臣下が主君を諌め、共により良い国づくりに励むべき》といった内容なので、東大受験生なら即時に掴めるでしょう。
ただ、傍線が引っ張られている箇所が難しく、漢文語彙力を疎かにしている受験生には太刀打ちは出来なかったでしょう。
(例えば「辞」や「佐」)

世界史選択者にはお馴染みの李世民や司馬炎が登場しました。
(世界史選択者に有利になるかと思いきや、そんなことは全くなかったです。)

注釈の数が11もあり、2020年度入試以来の多さとなっております。
設問にからむ注釈もあるので、解答を記述する際に意識する必要があります。

 

句形については、2009年に登場して以来の14年ぶりに詠嘆形が出ました。
論語の冒頭として有名な「亦~ずや」なので、そこまで難しくはないですが、忘れている受験生もいたことでしょう。
最後の設問の句形は「仮定形+反語形」のミックスでした。
このように応用された句形の出題は東大漢文あるあるです。
昨年の2022年と比べたら、句形はさほど難しくなかったですね。

(編集部注)関連記事のリンク
2023年東大国語 第3問(漢文)『貞観政要』解答(答案例)と現代語訳

第四問(現代文)長田弘『詩人であること』

難易度 難

当たり前ですが、第1問より読みづらいです。
第1問が読みやすすぎたというのもありますが、それを差し引いても、読みづらい文章
まず1文目から何言っているのか、わけがわかりません(笑)。
加えて、普通は漢字で表記する単語も平仮名で表記されている部分が多く、読解スピードが落ちてしまいます。

そのため、一読しただけでは、ほとんど何を言っているのかわからないでしょう。問題を解く以前に、読んで内容を理解するだけで、かなり苦戦しました。正直言うと、これをまともに理解するには、入試当日にアップする本稿の〆切では時間が足りませんでした。そのため、深く読み込み、理解し、考察した結果は、後日公開する要諦の解説記事に任せることにします。
2021〜2022年度の第4問は、どのように表現したら良いのか、本文のどこを活かせば良いのか悩ましい難問と言えましたが、今年の第4問は本文の読解が極めて難しいという点が加わっています。
もしかすると、読み取れさえすれば連鎖的に設問を解くことができるという考察もできるかもしれませんが、本稿を作成している時点では答案を作成するレベルに至っていないため、明言は避けておきます。
もしかすると、2021年、2022年と同様に、表現力が求められる問題かもしれないため、難易度はさらに高いという判定になる可能性もあります。

また、設問1つくらいは、解きやすい問題が混ざっているものですが、今年は4つとも全部難しいということで、相対的な難易度は最高の「難」判定にしました。

追記
この問題の解説記事(無料)はこちらのリンク先です。よろしければ合わせてご覧ください。

設問一、やや難
ガチガチの比喩表現の問題です。「観念」自体もわかりやすく説明する必要がありますが、問題は「錠剤」です。何を比喩しているのか、正確に読み取り、比喩を削除した言葉に直すのは非常に難しいでしょう。
傍線部に「錠剤のように定義されやすい」とありますから、「錠剤」は定義されやすいものの代表例として提示されているのでしょうが、それだけだとしたら薬品を例に出すでしょうか?体内に取り入れたら解けてしまう性質、病を治す性質、成分を抽出して成形されているという性質など、錠剤にはたくさんの側面がありますが、果たしてどこまでを含んだ比喩なのか
余談ですが、私は本文全体を読む前に、傍線部だけザっと目を通すのですが、この傍線部を見た瞬間、あまりの衝撃に脳が考えるのを拒否しました(笑)

設問二、難
第一段落の内容に対して、第2~3段落の具体的なエピソードをはさんだ上で、第4段落で回収するという論理構成。しかしながら、第2~3段落が第4段落の理解を促すような具体例になり切れていないため、結局、第1段落と第4段落の非常に抽象的な内容をもとに考察しなければなりません。
また、本文全体の趣旨(文章のオチ)である「自分と他人の差異を認識する言葉が大切だ」という内容も、含めようと思えば含められます。もちろん字数は厳しくなりますが、このオチを踏まえて(すくなくとも矛盾のないように)答案を作らなければならないですから、ここも悩みどころです。
抽象的な部分を平易な日本語に言い換えることは非常に難しく、相当難しい問題と言えるでしょう。

設問三、やや難
大雑把な方向性としては、設問二の対立概念を説明することになると思います。具体的には、設問二は「自分の経験に基づいて習得した言葉」という良い方法について書くのですが、設問三は「自分の経験に基づかないで、社会全体で作り出された言葉」という悪い方法についてです。
まず、これを説明するのだけでも難しいのですが、傍線部の直後には「言葉を敵か味方かでしか判断しなくなってしまうことへの恐怖」も書かれています。傍線部三の説明としてはここも含められるのですが、やはり抽象的すぎて、平易な日本語で表現するのは非常に難しい

設問四、やや難
意外に、一番答えやすいかもしれない設問。
傍線部のコア部分は「わたしが他者と出会う場所」ですが、傍線部の前後に、
・「言葉とは(中略)わたしにとってひつような他者を発見すること」
・「わたしたちは言葉をとおして他者をみいだし、他者をみいだすことによって避けがたくじぶんの限界をみいだす」
・「わたしたちの(中略)何がちがうかを、まっすぐに語りうる言葉なのだ」とあり、
など、使えそうな部分やヒントになりそうな部分が連続しています。
ただし、これ以上ツッコんで補足説明をしようとすると、やはり躓くでしょう。
「差異の言葉」とは何か、なぜ「差異の言葉」が大事なのか、など丁寧に説明しようとすると、設問三までの内容の理解が必要になりますから、困ります。
これも難しい問題だと言えます。

(編集部注)関連記事のリンク
2023年東大国語 第4問 長田弘『詩人であること』解答(答案例)・解説

最後に(宣伝)

上記の記事は、敬天塾の塾長と古典担当講師が執筆しています。
どなたでも受講可能な敬天塾の授業はこちら ↓

映像授業コース(旧オープン授業)【東大現代文】

映像授業コース(旧オープン授業)【東大古文・漢文】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)