2017年東大地理(第2問)入試問題の解答(答案例)・解説

第2問

世界の水資源と環境問題に関する出題です。社会問題と地理の典型問題を組み合わせて深く考えさせられるような東大らしい問題でしたね。

設問A

設問(1)

正攻法で解くと・・・

各国の水資源の状況を示している表からア~エのどれがオーストラリア、カナダ、クウェート、マレーシアを示しているのか答える問題です。
色々な情報がありますから、別解が多く考えられる問題です。

まず正攻法をとると、一番左の列を見て、年平均降水量が一番低いエが中東のクウェート、一番多いのウがマレーシアと即答できます。年平均降水量が2800mmというのは極端に多いですし、100mmというのは極端に少ないため、即答できるレベルの「変な値」です。
残りのアとイを比べるために、真ん中の水資源量を比べると、極端に多いイがカナダと特定できます(残ったアはオーストラリア)。

他にも、一人あたりの水資源量を見て、極端に少ないエがクウェートで極端に多いイがカナダとわかります。年降水総量を見て、明らかに多いアとイが、面積の広いオーストラリアとカナダだろう、少ないのはクウェートだろうとわかります。

数字が分かりやすいので、簡単な問題だと思いますが、もう一つ別解を紹介します。

割合の統計データが出た場合は、割ってみよ!

別解として、提示されたデータから計算するというものがあります。

「一人あたり水資源量」のような、分子を分母で割った割合のデータが出た場合、ペアになる統計データを割り算することによって、新たな統計データが算出できます。

今回の問題では、「水資源量」÷「一人あたり水資源量」をすることで、「人口」が計算できます。(厳密にいうと、最後に10億をかけないといけませんが、各国の大小の比較さえできればよいので、省いています)
やってみたのがこちらです。

計算してみると、各国の値で差が付きこれで判断できそうです。クウェートが一番人口が少なく、エに該当するのは一目瞭然でしょう
。ほかの3つに関しては、イ>ウ>アの順で大きいです。もちろん、10億をかけてから大小を比較してもOKです。(その方が、数字として見やすいですね)

あとは、あらかじめ覚えておいた、オーストラリアとカナダ、マレーシアの人口データと照らし合わせれば解けるはずです。
しかしながら、この3国の人口について、正確に大小を覚えている人は限られそうです。人口が1億人以上の国などは積極的に覚えることがあると思いますが、それ以下の人口は曖昧になりがちでしょう。
ということで、この解法で特定することはできないかもしれませんが、あくまで別解の可能性があるということを提示しておきます。

なお、この3国の人口は
オーストラリア:約2500万人
カナダ:約4000万人
マレーシア:約3000~3500万人
なので、A÷Bを計算した結果の大小(イ>ウ>ア)と、正しく一致しています。

別解2:面積を計算

実は、この表にはもう一つ割合データが隠れています。それが「年平均降水量」です。
「年平均降水量」とは、「面積あたり」の降水量のことです。ある土地に何mmの雨が降ったのか、という指標なので、面積で割った割合の数値です。

ということで早速、(年降水総量)÷(年平均降水量)を計算してみましょう。これで国土面積が計算できるはずです。

今度は、数字がいい感じにバラつきました。イ>ア>ウ>エの順に並んでいます。
オーストラリアとカナダの面積で大小判定ができない人は、要反省です。

カナダは世界第2位、オーストラリアは世界第6位の面積大国です。このような基本の統計データは基礎中の基礎ですので、必ず漏れがないようにしましょう。

設問(2)

エジプトで水資源量が年降水総量を上回っている理由を答えるという基礎的な問題でしたね。エジプトで外来河川のナイル川が流れていることは有名ですので、すぐにナイル川を利用していることを思いついて、しっかり点を取りたいところでした。

設問(3)

エチオピアとエジプトの間では水資源を巡る対立が起こっていて、その背景となるエチオピアの水資源の特徴について自然と社会の両面から答える問題です。
(2)でも取り扱いましたが、ナイル川絡みの問題ですね。エジプトのアスワンハイダムなどの建設によってナイル川下流に様々な問題が起きていることを知っていればすぐに思いついたかもしれません。
社会的な側面はナイル川から取水するためにダム建設が進んでいるという展開で良いでしょう。水の取り合いは世界中でもめ事になります。

また、自然環境についてはエチオピアの大部分が高原に位置しているため降雨による水資源が流出しやすく、気候はAw気候とCw気候が占めて雨季に降雨が集中し、乾季には水資源が不足します。よってこれらの問題から、水資源確保のためにダムを必要とすることを述べられそうです。
答案骨子としては高原に位置することや水資源を有効活用できてないことを述べ、水資源を上手く使うためにダム建設が進んでいると展開すれば良いでしょう。

設問(4)

日本のような国では数値で表示される水使用量よりも多くの水資源を間接的に利用しているのではないかという考え方を説明する問題です。バーチャルウォーター(仮想水)の説明をすればよいでしょう。
バーチャルウォーターとは輸入される農畜産物などの生産に使われた水のことを指します。日本のような食料自給率の低い国は食料を輸入に頼っているため、多くのバーチャルウォーターを利用していることになります。小麦やとうもろこしなどの穀物を輸入すれば生産に使用されたバーチャルウォーターを輸入することになりますし、肉類を輸入すれば豚や牛などの家畜の飲み水や飼料に使用された水をバーチャルウォ-ターとして輸入することになります。
以上のことをまとめれば良いのですが、2行にギュッと詰めるのはなかなか難しいですね。

答案比較

設問(2)

Aさん
砂漠地帯で少雨だが外来河川のナイル川が利用可能だから。

Bさん
ナイル川によって上流の流域での降水が国外からもたらされるため。

Aさんは砂漠地帯であることと少雨であることも書けていますが、年降水総量に加えて外来河川を利用出来るという論理が不十分です。降水量について述べても、問いに直接答えているわけではありません。

Bさんは国外で降った雨という水資源がナイル川によって流れてくるという点が書けていますね。ただ「降水が国外からもたらされる」という表現は不自然なので、「水資源が国外からもたらされる」と書くと良いでしょう。

このような簡単な問題でも、きちんと書くのは案外難しいものです。皆さんも「かけた」と思っても、落とし穴に陥っているかもしれません。信頼できる先生に添削をお願いするように心がけると良いと思います。

設問(3)

Aさん
湿潤でナイル川の上流に位置するが高原が広がり水の流出量が多く水の利用が難しい。この問題解決などのためにダム建設が進む。

Bさん
高原の国土が多く、水資源が活用し辛い状況となっている。そのため、ダム建設などで水資源の利用率の向上を図っている。

Aさんは1文目の「水の流出量が多く水の利用が難しい」は2回目の「水の」はカットしたら読みやすいですね。また、「この問題解決などのために」の部分は大部分の目的は水資源の利用のためなので問題解決「など」とあえて曖昧にする必要はなかったと思います。要点は書けていますがより読みやすい答案作りを心がけましょう。

Bさんは「高原の国土が多く」は回りくどいので「高原が広がる」とか「高原に位置する」と表した方が読みやすいです。また、「活用し辛い状況となっている」の部分は「辛い」はひらがなで表記しましょう。また「状況となっている」はなくても伝わるのでカットして字数を節約しましょう。2文目の「水資源の利用率の向上を図っている」は正確に表していて良いですね。みなさんも是非参考にしてください。

設問(4)

Aさん
日本のように食料自給率が低い国は輸入する穀物や家畜が生産される過程で使用される水を間接的に消費していると考えられるため。

Bさん
食料自給率が低い国は農作物を輸入する際に穀物生産や家畜の飼育、飼料生産などで消費された水も輸入しているという考え方。

Aさんは要素は概ね書けているのですが、文末の「考えられるため」という答え方が「どうのような考え方か」という問いに答えられていません。「~~という考え」や「~~という考え方」と終わるようにしましょう。

Bさんは、「農作物」と表現してしまうと畜産物などが入らないことになってしまいます。「農作物」ではなく「農産物」とすると畜産物も含められますので、書き換えると良いでしょう。典型問題は内容面で差がつきにくいのでこうした表現の一つ一つに気を配るのが大切です。

設問B

設問(1)

エネルギー供給量が世界の上位5位までの国について2002年と2012年時点でのエネルギー供給の構成を示している表から第1位の国と第3位の国の国名を答える問題です。
エネルギー供給量が世界5位以内に入ることと石炭の供給量が多いこと、この10年で供給量が大きく伸びていることなどからAが中国、Bがインドとなります。

設問(2)

中国やインドに共通してPM2.5の増加をもたらしていると考えられる原因とその社会的背景について答える問題でした。
両国とも経済発展が著しいことは有名ですね。両国は経済発展のために石炭や石油などの化石燃料を用いて火力発電や重工業、自動車産業などを推進しています。これらの化石燃料を燃焼させると大量の煤塵や大気汚染物質が排出されますが、排煙脱硫装置を設置するなどの環境対策が十分に行われていないため、大量の汚染物質が大気に放出されます。白いモヤがかかる北京の写真は教科書にも載っていますね。
答案骨子は経済発展のために化石燃料が大量消費されたが環境対策が不十分であったということを書ければ良いでしょう。

設問(3)

人口密度が希薄な地域でもPM2.5を含む微粒子が大量に発生する原因を1つ答える問題です。
人口密度が希薄だということは、人為的な要因ではなく、自然発生的な要因を考えた方が良さそうです。日本でも話題になっているのは黄砂の飛散ですね。タクラマカン砂漠などの砂漠地域から偏西風に乗って日本にも飛来していることはニュースでよく取り上げられていました。他にも火山灰に含まれる微粒子はPM2.5を含むので、正答として良いでしょう。

答案比較

設問(2)

Aさん
経済発展に伴い燃焼時の煤塵が多い石炭を中心に化石燃料の消費量が増えたが、発展を優先したことで環境対策が遅れているから。

Bさん
急速な経済発展に伴い工業化したことで容易に建てられる火力発電所が増え、化石燃料が更に消費されたが対策を行わなかったため。

Aさんはとても上手くまとめていると思います。石炭が燃焼時の大気汚染物質となる煤塵が多く排出されるということを書けていますし、石炭を「中心に」化石燃料を消費していると書いて、他の化石燃料も大量に消費されていることと石炭が特に多く消費されていることが端的に表せていて良いですね。
Bさんは「容易に建てられる火力発電所が増えた」という指摘は良い発想だったと思います。地形的な制約が比較的少ない火力発電所は他種の発電所に比べたら容易に建てられるので間違いでは無さそうですが、安直に「建設が容易だ」と書くと悪い方向に目立ってしまう可能性があります。わざわざ書かずに、単に「火力発電所が増え、」でもよいのではないでしょうか?
また、最後に「対策を行わなかったため」とありますが、なにもしていない訳ではないので限定的な表現は避けた方が良いです。

設問(3)

Aさん
砂漠化

Bさん
火山噴火による火山灰の飛散

 

Aさんの砂漠化という答えは、もう少し言葉を足したいところ。「砂漠化によって細かい砂塵が増えて飛散する」くらいまで書けるとより良いでしょう。その点、Bさんの方が良い答案だと思います。

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