2011年東大世界史(第1問 大論述)入試問題の解答(答案例)・解説
世界史の大論述の答案はブレる
こちらの記事でも書きましたが、世界史の大論述は字数が多く、塾や予備校、学校の先生の答案例が東大入試で高得点ではない可能性が高いため、対策が難しいです。
敬天塾では、様々な路線から高得点答案の研究をしていますが、良質なものが出来た場合には、知恵の館でも発表しています。
2011年 東大世界史 第1問 問題
歴史上、異なる文化間の接触や交流は、ときに軋轢を伴うこともあったが、文化や生活様式の多様化や変容に大きく貢献してきた。たとえば、7世紀以降にアラブ・イスラーム文化圏が拡大するなかでも、新たな支配領域や周辺の他地域から異なる文化が受け入れられ、発展していった。そして、そこで育まれたものは、さらに他地域へ影響を及ぼしていった。
13世紀までにアラブ・イスラーム文化圏をめぐって生じたそれらの動きを、解客欄(イ)に17行以内で論じなさい。その際に、次の8つの語句を必ず一度は用い、その語句に下線を付しなさい。
インド アッバース朝 イブン= シーナー アリストテレス
医学 代数学 トレド シチリア島
簡単な講評
1995年の第1問大論述のうち、文化交流の面だけにフォーカスしたような問題。
ヨーロッパが中世になって没落していた間、イスラーム(中東)では相変わらず世界の中心地として、ちゃんと発展していて、ヨーロッパは古代の優れた文明を逆輸入する。これを端的に書くのが一つの方針。
インドを想起させる指定語句もあるため、インド→イスラム→ヨーロッパの流れも書きたいところです。
東大ではイスラム地域を非常に重視しているので、対策は必須。また、インドも超重要地域。必ず集中的に勉強した方がよいですね。
さらに、指定語句に登場しない地域(中国、アフリカなど)にも目を向けて答案が書けると、なおよいでしょう。
なお、設問文(歴史上~付しなさい)の完成度は低く、何を問われているかが読み取りづらい(読み取れない)ため、受験対策として優先度はそれほど高くないでしょう。指定語句がなかったら、かなり答案の方針がブレる問題だと思われます。
敬天塾のサンプル答案
イスラームは単なる周辺諸地域の文化交流の中継地点ではなく、異文化を融合・発展させる拠点であり、周辺地域に多大な影響を与えた。そのため、イスラーム勢力圏は主にイベリア半島・北アフリカから中央アジア・インドまでであったが、文化の影響はさらに広い地域にまで及んだ。例えば、ヘレニズム文化はビザンツ帝国等を経てイスラーム文化圏へ流入し、アッバース朝の「知恵の館」を中心にアラビア語に翻訳され研究されたのち、イブン=シーナーが研究したアリストテレス哲学や医学を代表例とした様々な文化が、トレドやシチリア島でラテン語に翻訳され、12世紀ルネサンスを誘引した。他にもインドのゼロの概念がイスラーム文化圏へ流入して代数学の発展に貢献しヨーロッパへ伝播し、中国の製紙法やエジプトの錬金術もイスラーム文化圏を経由してヨーロッパへ伝播し、それぞれヨーロッパで重要な文化へ成長した。このようにイスラーム経由の諸文化がヨーロッパで花開いたが、欧州以外の多方面に数多く伝わっている。イスラームの優れた暦学が元の郭守敬へ伝わり授時暦作成に大きく寄与したことや、アラビア語が東アフリカ沿岸に伝わり混成言語のスワヒリ語が派生したことは好例である。
敬天塾サンプル答案への講評
端的に言って、東大では
①因果関係が明解な答案(指定語句が有機的に結びついている)
②読み易い文章になっている答案
が評価されるようです。
予備校の答案では、知識をひけらかすかのような、具体例豊富なものが多いのですが、必ずしも評価されるとは限りません。
世界史の勉強は暗記が中心になるし、先生としても知識を覚えさせることが仕事になりますから、そのような先生が答案を作ると知識重視の答案になるのでしょう。
しかし、具体例(知識)は自分の主張に説得力を持たせるための道具であり、メインキャラクターではありません。
その意味で、上記のサンプル答案をご覧ください。
周辺諸地域→イスラームで融合・発展→広く周辺諸地域へ伝わり影響を大きく与える
というのが、答案作成者が主張したい内容だと読み取れると思いますが、その具体例として、具体例が配置されています。
例えば、
インドのゼロの概念がイスラーム文化圏に入り、研究されて代数学の発展に貢献し、ヨーロッパへ伝わり数学の発展につながる
という具体例がありますが、これが上の太字の主張部分に合致するわけです。
このように、一貫した主張を論述できた場合、高評価が得られるという情報もいくつか入っています。
具体的に何点の答案かはわかりませんが、どうぞ参考にしてください。