2016年 東大国語 第2問(古文)『あきぎり』解答(答案例)と現代語訳

はじめに

鎌倉時代の擬古文です。
珍しく人物関係図を載せてくれているので、最初に注記と一緒に確認しましょうね。

なお、古文単語力で差が付いた年だったかと思います。

解答例(答案例)とプチアドバイス

(一)傍線部エ・オ・キを現代語訳せよ。

エ 悲しとも、世の常なり。

答案例:悲しいという言葉でも、普通過ぎて気持ちを言い尽くせない。

プチアドバイス:「言い尽くせない・言い表せない・言うまでもない・言ってもしかたがない」といった「言~ない」系は50語ほどあります。
500語レベルの単語帳に載っている語はおぼえていきましょう。

 

オ やがて迎へ奉るべし。

答案例:すぐに姫君をお迎え申し上げよう。

プチアドバイス:「べし」の訳し分けは東大古文の受験生に必要な力です。
多義語「やがて」は〈➊そのまま ➋すぐに〉。

状態の後だと➊。タイミングの後だと➋。
今回は直前が「喪が明けたら」なのでタイミング。

 

キ 御覧じだに入れねば、

(直後:かひなくてうち置きたり。)

答案例:目をとめることさえなさらないので

プチアドバイス:「入る」の解釈に迷うところですが、前後の文脈から、少しも見ていないと判断できるので、「よく御覧にさえならないので」などと回答してしまうのは良くないでしょう。

 

(二)「なからむあとにも、かまへて軽々しからずもてなし奉れ」(傍線部ア) とはどういうことか、説明せよ。

答案例:尼上の死後にも、乳母は必ず姫君を大切に世話せよということ。

プチアドバイス:まずは逐語訳して、わかりづらい箇所を換言・補足します。特に「誰が」「誰を」の補足を意識しましょう。

 

(三)「おはします時こそ、おのづから立ち去ることも侍らめ」(傍線部イ)を、主語を補って現代語訳せよ。

答案例:尼上が御存命中は私が姫君の側をたまたま離れることもあるでしょうけれども、

プチアドバイス:「こそ~已然形、」は基本的に逆接です。文脈的にも逆接でないと合いません。

 

(四)「ただ同じさまにと」(傍線部ウ)とはどういうことか、説明せよ。

答案例:姫君は母である尼上の後を追って死にたいと、ひたすら思っているということ。

プチアドバイス:親しい人が亡くなった後に「死におくれまい」と言うのは「古文あるある」です。(実際は死なないことが多いですが)
また、「ただ」の訳漏れの解答を見かけます。傍線部は「同じさまにと」ではなく「ただ」にも引かれてあります。
基本的に、説明問題でも傍線部は品詞分解して逐語訳を!

 

(五)「鳥辺野の夜半の煙に立ちおくれさこそは君が悲しかるらめ」(傍線部カ)の和歌の大意をわかりやすく説明せよ。

答案例:尼上に先立たれ、さぞかし姫君は悲しんでいることでしょう。

プチアドバイス:「立ちおくれ」の訳が差が付くポイント。「亡くなり・死んで」だと意味が不足します。なお、接頭語「立ち」は語気を強めたり音数を調整したりしているだけなので、訳しません。

本文と現代語訳の併記(JPEG)

本文と現代語訳の併記(PDF)

2016年『あきぎり』現代語訳

現代語訳

 (尼上は)本当に臨終だと思いなさったので、乳母をお呼び寄せになり、「今となってはもう最期と思われると、この姫君のことだけ心配なので、(自分が)亡くなった後にも、必ず(姫君を)軽々しくお世話し申し上げてはいけませんよ。今となっては(姫君は)宰相(=乳母)の他は、誰を頼りにしなさるでしょうか。いや、他の誰も頼りにはしなさらないでしょう。たとえ私が亡くなっても、もし父君が生きていらっしゃったならば、そうはいっても(姫君は大丈夫だろう)と安心できるに違いないのに、誰に世話を依頼するということもなくて、亡くなってしまうような後の不安なこと」(といったこと)を繰り返し繰り返し仰るものの、話し続けて最後まで仰ることが出来ず、涙もこらえるのが難しい。

 まして乳母は涙をこらえるのができないでいる様子で、しばらくは何も申し上げない。少し心を落ち着けて、「どうして(姫君のお世話が)いい加減になるでしょうか。いや、いい加減なお世話なんてしません。(尼上が)御存命の時には、たまたま(姫様のそばを)離れることもあるでしょうけれども、誰を頼りとして、ちょっとの間でもこの世に生き続けなさることができるでしょうか。いや、私以外を頼りにして生きることはできないでしょう」と言って、袖を顔に押し当てて、(涙を止めるのが)堪えがたそうである。姫君は(乳母にも)まして、ひたすら同じ(涙を止めるのが堪えがたい)様子であるなかにも、このように嘆きをかすかに聞くにつけても、「まだ正気を保っているのだろうか」と、悲しさを晴らす方法はない。本当に、ただ今となってはもう最期だと思って、念仏を声高く申し上げなさって、(周囲の人が、尼上は)「眠りなさるのだろうか」と見ると、早くも息絶えてしまった。

 姫君は、(尼上と)ひたすら同じように(死んでしまいたい)と、思い焦がれなさるけれども、どうしようもない。誰もが気が気でないけれども、そのままの状態でいることもできないので、その御葬送の準備をなさるにつけても、(姫君が)「我が(尼上より)先に(死にたい)」と言って何度も気を失いなさるのを、(姫君の傍にいる人が)「何事も前世からの因縁がおありになるのだろう。(尼上が)お亡くなりになってしまったのは、どうしようもない」と言って、またこの姫君のご様子を嘆いている。大殿も様々に申し上げて(姫君を)慰めなさるけれども、(姫君は)生きている人とも見えなさらない(ほど茫然としている)。

 その夜、そのまま阿弥陀の峰という所に(尼上の遺体を)埋葬し申し上げる。(尼上は)はかない煙となって立ち上りなさった。悲しいという言葉でも、月並み過ぎて気持ちを言い尽くせない。大殿は(尼上が生前に)細かくおっしゃったことが夢のように思われて、姫君のお気持ちは、「さぞかし(悲しいだろう)」と自然と推し量られて、乳母を呼び寄せて、「必ず(姫君に何か)申し上げて慰め申し上げなさい。喪が明けたら、すぐに(姫君を)迎え申し上げよう。心細く思わないでいらっしゃい。」など、頼もしい様子で言い残しなさって、お帰りになった。

 中将は、「このよう(な事情)だ」と聞きなさって、姫君のお嘆きを想像し、気の毒で、「『鳥辺野の草となって(自分も燃やされて尼上と一緒に煙になりたい)』とも(思って)、さぞかし嘆きなさっているだろう」と(思うと、中将も)しみじみとつらい。「(自分が)毎晩(姫君の元に)通っていくことも、「(喪中となった)今はもうできないのだろうか」とお思いになると、どなたのお嘆きにも劣らない(ほど嘆く)のであった。少将(=姫君の侍女)のもとまで(姫君宛の手紙を送った)、

(火葬地である)鳥辺野の夜更けの煙(となって空に上がる尼上)に取り残されて、さぞかしあなたが悲しんでいることでしょう。

と書いてあるけれども、(姫君は)目をとめることさえなさらないので、(少将は)どうしようもなくて(手紙を)置いておいた。

【さらに深く学びたい方のために】

敬天塾では、さらに深く学びたい方、本格的に東大対策をしたい方のために、映像授業や、補足資料などをご購入いただけます。
ご興味頂いたかたは、以下のリンクからどうぞご利用下さい。

映像授業【東大古文 過去問演習編(易~やや易)】(2002年『神道集』・2003年『古本説話集』・2008年『古本説話集』・2016年『あきぎり』解説)

映像授業コース【東大古文・漢文】


2016年 東大国語 第2問(古文)『あきぎり』解答(答案例)と現代語訳” に対して2件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    ちょうど解答なくて困ってますた。あざす❗️

    1. 平井 より:

      コメントありがとうございます!励みになります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)