2025年東大英語(第1問A 英文要約)入試問題の解答(答案例)・解説
(編集部注1)難易度の評価など、当日解いた所感はこちらをご覧ください。
(編集部注2)実際の入試問題入手先
本解説記事を読むにあたって、事前に入試問題を入手なさることを推奨します。
・産経新聞解答速報 https://www.sankei.com/article/20250225-SS6KISNKS5BRTKNOCIBINS4GHI/?outputType=theme_nyushi
・東京大学HP https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html
東京大学の英語の陣頭を飾る1A英文要約は、得意不得意が大きく分かれる大問の一つだと言われています。
その理由には幾つか考えられますが、1Aが「思考力」「日本語表現力(運用能力)」を問うた大問であることは真っ先に挙げられましょう。
近年、英検やTOEICといった資格試験を低学年のうちからチャレンジする傾向が強まってきました。
短期目標を定めて英語学習に邁進する姿勢は実に好ましいところではありますが、東大英語とは頭の使いどころが違います。
私も、英検、国連英検、TOEIC、TOEFLとあらゆる英語資格試験を受験してきましたが、それらの試験で脳みそを使うことはほとんどありませんでした。
単語を覚えて、長文を早く読めれば解ける問題ばかりです。
ですが、東大英語は単語が分かっていても解けない、本文を読めても上手くまとめられないといった具合に、試験科目に「英語」と銘打ちながら、上っ面の英語力ではなく受験生の「思考力」「日本語運用能力」を東大では問うてきています。
これは、東京大学が世界的な研究者養成機関であることとも関係しています。
英語が使えたら世界で通用する一流の研究者になれるわけではありません。
日本語を話せる日本人は、みなが優れた研究者として国内で認知されるわけではないのと同じです。
このように特殊なチカラを問うている試験だからこそ、東大英語に特化した対策が必要なのです。
こちらの大問別分析チャートもぜひご参照ください。
この表を元に、各大問で求められる知識や能力を戦略的に身に付けていくことが東大英語制覇の王道です。
さて、これまで2019年〜2024年の東大過去問について、敬天塾では詳細な思考プロセスを実況中継という形でご紹介してきました。
とくに、2022〜2023年については日本一詳しく東大英語の極意を解説したつもりです。
ぜひエッセンスを貪欲に学ばれてください。
本稿で扱う2025年度につきましては、要点解説ということでライバル達に差をつけられるポイントに絞って解説をいたします。
汎用性の高い解法や、東大英語を絶対的得意科目にするための訓練プログラムをお知りになられたい方は、敬天塾の映像授業と過去問実況中継解説をぜひご活用ください。
それでは、2025年度1A英文要約の要点解説を始めたいと思います。
(所感)
難易度のインフレが続いていた2021〜2024年の1Aと比べると相当マイルドになりました。
2024年の1Aを例に挙げると、上っ面の読解では読み取ることが困難だった隠れテーマを見抜く力が強く求められ、各段落の要素だけを繋ぎ合わせたら完成という紋切り型の解法では太刀打ちできない難しさがありました。
それに対して、2025年度の1Aは、本文の核となる要旨を繰り返し繰り返し本文に登場させ、答案作成の方向性を見誤らないようにしてほしいという配慮が随所に散りばめられていました。
単語レベルもそれほど高くはなく、要約初心者向けの教材にもなるような問題でした。
その意味では大幅に易化したとも言えますが、過去問探究をした受験生の中には大幅な易化を前にして罠でも仕掛けられているのではないかと疑心暗鬼になったり、他の受験生よりも優れたことを書こうとして多くの時間を投じてしまい他の大問が解き終わらず失敗したりした方も多いと聞きます。
また、本問の要旨は端的に書けば20〜30字程度でも済むところ、70〜80字での要約が求められているがため、かえって何を書けばいいのか、同義反復のようなことを書いて字数を稼がねばならないのか試験会場で悩んだ受験生もいたと思います。
そうした意味で、昨年度の問題にはない難しさもあったと言えますので、入試当日に発表した敬天塾速報記事では難易度を標準としました。
(本問の戦略的な位置づけ)
2024年度の第1問(英文要約+文挿入)は難度の高いセットでしたから、過去問探究をしていた受験生の中には第1問を捨て問にしようと決め込んでいた方も多かったと聞きます。
ですが、東大の入試問題を10年スパンで概観していただければわかるように、大問ごとに難易度は毎年変化しています。
つまり、どの大問がお得かは年によって変わるということです。
2024年度入試では第1問が難化した代わりに、第5問が取り組みやすかったです。
その反対に、2025年度入試では第1問がマイルドになった代わりに、第5問で設問形式の変更など取り組みづらさが見られました。
それゆえに、安易にヤマを張ったり、特定の大問を端から捨て問として決め込んだりすることは、受験戦略上、極めてリスキーだと言えます。
本年度の1Aは確実に取りに行かねば合格が遠のく問題だったと言えます。
もっとも、だからと言って、無制限に時間をかけるべきではありません。
東大英語は120分で120点稼がねばならない試験です。
則ち、単純に言えば1分で1点を稼がねばならないわけですから、1つの問題にこだわりすぎることは避けねばなりません。
1Aの配点が推定で12点前後だと世間では言われていますので、その点からすると12〜13分程度で解くことをベースラインに置くべきでしょう。
完璧を目指さず7割完成レベルをさっさと仕上げて、いったん別の大問に移る勇気も、事務処理能力が高度に求められる東大英語では重要な合格スキルです。
なお、そんなに早くに解けないよという方は、以下の表を元に各々に合った戦略案を早期に構築しましょう。
(東大英語1A英文要約が苦手な人向けのアドバイス)
「わたしは、1A要約が不得意です。どうしたらいいでしょうか」と相談してくる方は、毎年数百人以上いらっしゃいますが、一辺倒の回答など出来はしません。
なぜなら、要約が不得意な原因は上図の通り人それぞれだからです。
腹が痛いという時に、単なる食べ過ぎや食中毒が原因であることもあれば、胃潰瘍や急性虫垂炎といった重篤のものが腹痛の隠れた要因になっていることもあります。
それと同様に、1A要約が「苦手」(※苦手という言葉は使わないようにしましょう。コツをつかめていないだけなんだとポジティブに捉えることも短期決戦では大切です)な理由も様々なのです。
たとえば、日本語の文章だとスンナリ要約できるのであれば、ディスコースマーカー(howeverやthereforeといった逆接や因果関係を示す長文読解における道しるべ)や段落構成を意識した読解は出来ていることを意味しますから、単純に英文読解に必要な文法力や語彙力が欠如しているだけの可能性が第一に考えられます。
ただ、共通テストや他の大問は解けるのに1Aだけ解けないとなった場合、語彙や文法以外の元凶を模索しなければなりません。
過去の生徒達にヒアリングした限りでは、「英文要約は、各段落の要素をたくさん答案に詰め込めばOK」「とにかく抽象的に書くことが英文要約の鉄則」などと偏った解法(思考テンプレ)を刷り込まされた結果、素直に読解要約をすることができず、莫大な勉強時間を費やしている割にいつまで経っても英文要約が上達せず「自分には要約の才能がない」などと自尊心を失ってしまうケースが多くありました。
その場合、1Aにアレルギー意識を持ってしまうこともありますので、一旦、別の大問対策に傾注させ、最後に1A対策に戻ってくるという戦略もアリだと思います。
なお、日本語文ですら、うまく要約ができない場合には、
- 本文は読めているけれども、あれもこれもと全ての要素を盛り込もうとして字数を大幅に超過してしまう
- 日本語の現代文読解においても、段落相互の関係や、逆接や言い換えの接続詞を何も意識せずに読んでいる
- 「とにかくたくさんの要素を詰め込め」「具体的なことを書いてはダメ」といった紋切り型の指導を受けて混乱
などが原因のケースが多い印象です。
このように、「1Aが苦手です」という状況の背景にある原因を炙り出すことが1A制覇の極意だと言えます。
その上で、各自にあったやり方を模索していくことが肝要です。
その子に合った戦略や手法は双子の兄弟でも異なるものです。
ただ、その中でも、比較的多くの受験生にヒットする解法戦略が、上図で示した「一言要約訓練」「文章構成法習得」「解答比較」といった手法です。
映像授業のなかで、詳しい方法論をご紹介しておりますので、ご興味のある方は是非お役立てください。
(実況中継解説)
まず長文の顔を飾る第一段落です。
近年の難化傾向を警戒して、少し丁寧目に読んでみました。
ただし、第1段落に抽象度の高い文章を持ってきて受験生の出鼻をくじく手口は、入試問題によく見られるものですので、わからなければわからないで次の段落にすぐ移るぞという意識を心がけました。
その上で、実際に読んでみると、
と冒頭で書かれていることがわかりました。
「死」に関する話なのかなと、まずはざっくり捉えました。
2文目にあったmake the callという表現は重大な決定をくだす旨の熟語です。
こんな表現を知らなくても、Butでつながっていることから、第1文目の話(死の判断)と関係しているんだろうなくらいに捉えればOKです。
この時点で脳内をよぎったのは、本文の段落構成が映像授業で述べたどの基本パターンになるかということでした。
2021年度のようにPattern④だとまとめづらいよなあと心の中で思う一方、Pattern①〜③であっても最難と名高い2016年度級の1Aなら、即座に別の大問攻めに転換しようと心づもりはしていました。
2024年度のように隠れテーマ型の問題でも嫌だなという不安を抱えながら、第2段落以降を読み進めていきました。
引き続き、第2段落です。
第1段落につづいて、「死の定義」に関するテーマが書かれています。
人工呼吸器ななどの発明によって、何をもって死とするのかが不明瞭になっているとのこと。
その流れで、脳死に関する話題が取り上げられています。
要するに、脳死は人の死かと問うているのです。
さらには、そうした流れが混乱(confusion)を招いているとも段落の最後で書かれていますが、混乱の内容については、おそらく第3段落以降に来るのだろうと予想しました。
第3段落でも脳死に関して詳細に描かれています。
脳死の診断基準について確立していないようなことが書かれていますが、だらだらと答案に盛りこもうものなら字数を食ってしまいますので、「普遍的な診断基準が存在しない」といった具合に端的に表さねばならないと読んでいるなかで思いました。
ただ、ここを答案に盛り込むべきかは、後続の第4段落以降も精査せねばなりませんので、いったん次の第4段落に目を向けました。
本段落では、脳科学の進歩と科学技術の発展が「死の定義」をさらに曖昧にすると言っています。
blurがわからなかったとしても、第2段落の冒頭でcomplicated the definition of deathとありますから同系統の意味なのかなと考えれば良いでしょう。
ここで注目すべきは比較級のfurtherです。
より一層、何をもって死とするかがわからなくなると強調しているわけです。
なお、change life, tooの部分について、解釈に悩んだ方も多いと思います。
第4段落の後半でつらつらと書かれている具体例についても答案に盛り込むべきかどうか悩まれたかもしれません。
lifeには「生命」「人生」「暮らし」など様々な意味がありますが、第4段落だけでパッと意味がわからなければ、いったん飛ばして後続の段落から意味を類推すれば良いでしょう。
もっと言えば、完璧な答案を書かねば合格できないわけではないので、試験会場で焦ったら、要旨をつかむことに注力をしてください。
なお、要約と要旨の違いについては、以下の記事も併せてご参照いただけると幸いです。
先にネタバレをしますと、第4段落のlifeは、「人生」や「生のありかた」を意味すると考えられます。
それは、次の第5段落中盤に書かれていたWhat it is to be aliveから推測できます。
なお、脳科学の発展だけではなく技術革新についてもセットで触れたいものです。
なぜなら、第2段落冒頭のventilators(人工呼吸器)にせよ、第4段落中盤のimplants(体内に埋め込まれた装置など)にせよ、いずれも科学技術の発展に伴って実現できた医療機器だからです。
近年では、AIやデジタル技術の進歩も医科学の発展に貢献しています。
いよいよ締めの段落です。
本段落では、「生とは何か」という根源的な問いまで提起されるようになると明記されています。
そのキッカケとして、豚さんの脳蘇生に絡む研究が紹介されています。
2019年の頃に大々的に報道された話ですので、ご興味のある方は記事を読んでみてください。
https://www.bbc.com/japanese/47971724
この研究の何が驚くべき(startling)ことなのかというと、死後数時間経ったのに脳だけを復活させることができたわけですから、死というものが後戻りのできない不可逆的なものではないことを証明した点にあります。
その結果、生死の境界がますます不明瞭なものになると言えるわけです。
なお、第5段落の末尾にclarifying those limitsとあります。
limitを「限界」と訳した方にとっては、「限界ってなんだろう?脳の限界?」と訳がわからなかったと思いますが、おそらく、生死の「境目」という意味でのlimitなのかもしれません。
このように考えますと、第4段落のlifeも「生」と解釈するのが合理的に思えてきますね。
いかがでしたでしょうか。
5つの段落を通して、繰り返し繰り返し
- 死の定義が曖昧になっている
- 生の定義すら不明瞭になっている
ことが唱えられていることに気づけるはずです。
ただ、実際に答案にまとめようとしますと、悩ましく思える点もあります。
本文の要旨は「脳科学や科学技術の発展に伴い、生と死の定義が曖昧になっている。」と30文字程度で端的にまとめられてしまうのです。
ですが、設問要求は70〜80文字ですから、あと40〜50字を付け足さなくてはなりません。
要約能力が高い受験生ほど、何を付け足せば良いのかかえって悩まれたことと思います。
そうした意味での難しさは本年の1Aにはあったかもしれません。
それでは、敬天塾の解答例を示したいと思います。
(敬天塾解答)
脳死は人の死か。脳死の普遍的な判定基準もないなか死の定義が曖昧になっている。脳科学や技術の発展は生とは何かという根源的な問いをも促し、我々の死生観は益々揺らぐ。(80字)
普遍的な判定基準もない脳死を巡り、死の定義が曖昧になっている。脳科学の進歩や技術革新で脳機能が解明されるにつれ、生と死の境界がますます不明瞭になっていくだろう。(80字)
いかがでしょうか。おそらく、これらの答案例に驚かれた方も多いと思います。
東大にご進学されると、英文要約の授業もあります。
そこでは、多くの東大生が書いた答案が無残に低評価をつけられていました。
東大教授が求める要約レベルは、単語の拾い読みでは決して到達できません。
本文を通じて、筆者が一番言いたいことは何なのか、脳みそに汗をかかせながら、格闘するプロセスが要約なのです。
ちょっと英語を話せるとか、留学経験があるとか英語の幼児教育を受けていたとかだけでは、東大1Aを制覇することは出来ません。
東京大学は、本問を通じて、思考力と日本語表現能力を問うてきています。
それは決して、各段落から要点を抽出して、うまく繋ぎ合わせて、字数を削る機械的な作業ではありません。
そのあたり、2021〜2024年の過去問実況中継解説でも詳しく述べておりますので、ぜひ併せてご参照ください。
詳細は上記の映像授業にございますが、一部は以下の無料記事にもございます。
(2024年度入試問題研究はこちら)https://exam-strategy.jp/archives/20565
(2023年度入試問題研究はこちら)https://exam-strategy.jp/archives/15067
(2022年度入試問題研究はこちら)https://exam-strategy.jp/archives/11849
(2021年度入試問題研究はこちら)https://exam-strategy.jp/archives/19769
市販されている過去問集とかなり違った切り口に驚かられた方も多いと思います。
ぜひ学習の一助にしていただければ幸いです。
ちなみに、東大教授が1A英文要約を出題し続ける理由は、東京大学が研究者養成学校でもあるからです。
一流の研究者に求められる資質の一つに、優れた研究論文を執筆できることが挙げられます。
執筆した研究論文が優れているか否かは、大学内外の教授に実際に読んでもらって評価してもらうわけですが、研究論文というのは時に何百何千ページに及ぶこともザラにありますので、多忙を極める教授が全ての論文に目を通すことは物理的に不可能です。
本屋さんや図書館に行った時に、片っ端から全ての本の全てのページに目を通すことできませんよね。
では、どのように私達は本を選んでいるかというと、御目当ての著者の作品を選ぶほかに、本屋の書籍紹介POP(広告)や本の帯や表紙の紹介文を見て、「これは、面白そうだな」と思って手に取るのではないでしょうか。
それに同じく、研究論文に関しても、「私の論文はこんなにも優れていて、読む価値のあるものなのですよ」と、世界中の研究者にアピールをする必要があります。それが、ABSTRACT(アブストラクト)と呼ばれる要約文です。
医歯薬理工系の論文を例にとると、1ページ目に、何を目的として、どのような手法を用いて、如何なる結果がもたらされたのかを端的かつ明瞭に記すのが御約束です。
そこでの売り込みが失敗すれば論文の中身を読んですらもらえません。
そうしたシビアな世界なのです。
さて、ABSTRACTをつくるに際しては、幾つかのルールがあります。
詳しくは、知恵の館記事や映像授業をご参照ください。
【さらに深く学びたい方のために】
敬天塾では、さらに深く学びたい方、本格的に東大対策をしたい方のために、映像授業や、補足資料などをご購入いただけます。
ご興味頂いたかたは、以下のリンクからどうぞご利用下さい。
映像授業コース【東大英語 第1問A 英文要約】
上記の問題について、これでもかと噛み砕いて説明した《実況中継》の解説もございます。
↑ まずは目次と無料部分だけでもどうぞ。