2023年東大国語 第2問(古文)『沙石集』解答(答案例)と現代語訳

はじめに

説話なので読みやすい問題でした。
(先に章末のオチを読んでおくと、「耳を売った人物が不幸になって、性格も悪くなっていくのかな?!」と予想が出来て、さらに読みやすくなりますよ)

設問(一)はかなり簡単なので、ここで点数を落としたらかなり厳しいです。
設問(二)以降は設問の要求に注目しましょう!
(四)の「状況がわかるように」、
(五)の「具体的に」などを見落とさないように!

答案例とプチアドバイス

(一)傍線部ア・イ・ウを現代語訳せよ。
ア たべ。御坊の耳買はん

答案例:譲ってください。貴僧の耳を買おう。

プチアドバイス:「御」も漏らさずに訳しておきましょう。「〇〇様」や「貴〇」という風に敬意を足します。
「買いたい」と訳すと意訳になっています。
「買ひたし」「買はまほし」などの訳との区別をつけましょう。
現代語訳は品詞分解して逐語訳するのが安全です。

なお、「賜ぶ」は東大古文2021年『落窪物語』や2008年『古本説話集』にも出ています。

 

イ 耳ばかりこそ福相おはすれ、その外は見えず

答案例:耳だけは幸運の相がおありになるけれども、その他には吉相は見当たらない。

プチアドバイス:「こそ~已然形、」は原則、逆接です。
順接にも使う接続助詞「~が、」は推奨しません。
「~けれども、」や「~のに、」を使いましょう。

 

ウ 予に代はりて、赴き給へかし

答案例:私に代わって、出向いてくださいよ。

プチアドバイス「予」は漢文の基本的な語彙力ですね!
このように、たまに漢文の知識が古文でも活かせます

念押しの終助詞「かし」が差がつくポイントでした。

 

(二)「何れも得たる事なり」(傍線部エ)について、「何れも」の中身がわかるように現代語訳せよ。

答案例:大般若経の全読誦による祈禱も、逆修も、どちらも私が得意としていることである。

プチアドバイス:「真読の大般若」はそのままでは良くないでしょう。
解答欄が小さくても、固有名詞や単語以外は現代語に言い換えることを心掛けましょう。
「真読」は現代語でもあるので、「大般若経の真読も、」でもOK!
「経」を加えることも忘れずに!

 

(三)僧が「一滴も飲まず」(傍線部才)と言ったのはなぜか、説明せよ。

(直前:「酒を愛すと云ふは、信仰薄からん」と思ひて、「いかにも貴げなる体ならん」と思ひて、)

答案例:酒も断っている信心深い高僧に見せて帰依させ、布施を多く貰いたかったから。

プチアドバイス:理由問題を解く思考のプロセスは、なぜ?を繰り返すこと。
なぜ、「一滴も飲まず」と言った?→➊「酒を愛すと云ふは、信仰薄からん」「いかにも貴げなる体ならん」と思ったから

なぜ、信仰が厚く貴いように見せたい?→➋尊敬〔帰依〕させたいから
なぜ、尊敬〔帰依〕させたい?→➌布施を多くもらいたいから
※解答欄が1行で厳しいので、➋は省略しても構わないと思います。

 

(四)「中々とかく申すばかりなくして」(傍線部力)について、状況がわかるように現代語訳せよ。

答案例:神主の家族は、神主を死なせた僧に、かえってあれこれと申すこともなくて

プチアドバイス:東大頻出「なかなか」の副詞は〈➊かえって ➋中途半端に〉。
「かえって」は普通に予想されるAとは異なるBだという意。

ここでの「普通に予想されるA」は、
僧が神主に餅を食べさせたせいで死んだ状況なので、
僧にあれこれ文句を言うことですね。

 

(五)「心も卑しくなりにけり」(傍線部キ)とはどういうことか、具体的に説明せよ。

答案例:耳を売った僧が、損得勘定で動いて嘘もつく、卑劣な心になったということ。

プチアドバイス:説明問題では「誰が」の補足を心掛けましょう。
なお、「僧が」と書いてしまうと、今回は僧が複数登場しているので減点でしょう。
仏教説話なので、「(お金に)執着」などの言葉で解答するのも良いでしょう。

(2023年4月下旬追記)東大「出題の意図」

東京大学の古文作問担当教授陣が以下のようなメッセージを発表しましたのでご紹介いたします。

第二問は、 古文についての問題です。 鎌倉時代の仏教説話集 『沙石集』 の一話 「耳売りたる事」を題材としました。 古文の基礎的な語彙・文法の理解をふまえ、自分の耳を売ってしまった僧が福運に見放されていく様子を、 比較的多い登場人物を整理しつつ、 正確に理解できたかを問いました。 文科ではさらに、文中のエピソードの内容について、文脈を踏まえて具体的に表現できるかどうかを問いました。

3点ほど、コメントしておきます。

①「基礎的な語彙・文法」だそうです。
 設問(一)の「賜ぶ」や「かし」のことでしょうか。
 「このくらいは応用じゃなくて、基礎だよ。押さえておこうね」と仰っている気がします。

②「比較的多い登場人物を整理しつつ、 正確に理解できたか」だそうです。
 第一段落:耳を売った僧、耳を買った僧、人相を見れる人
 第二段落:上人、(三日路の仏事依頼人)、(三日路の仏事に行く別の僧)、神主
 第三段落:神主の子息、神主の女房、神主の子ども(子息と同一かも)
たしかに7~10名が登場しているので、多いですね。
また、再現答案では確かに主語把握を間違っている人もチラホラいました。
東大過去問ではもっと主語把握が難しい年がたくさんありますが、まずはこの難易度で主語把握を確実にできるようになる力が必要ですね。

③「文科ではさらに、文中のエピソードの内容について、文脈を踏まえて具体的に表現できるかどうか」だそうです。
理科にはなくて文科にだけ出されたのは設問(二)(四)です。
「文脈を踏まえて具体的に」とのことなので、やはり(二)だと具体化が不足しているのは良くないでしょうし、(四)は直前の状況(耳を売った僧の行動で神主が死んでしまったこと)をスルーしている解答は評価が低いでしょうね。

本文と現代語訳の併記(JPEG)

本文と現代語訳の併記(PDF)

2023年『沙石集』現代語訳

現代語訳

 奈良に(おいて)、ある寺の僧が、耳たぶが厚いのに対して、(別の)ある貧しい僧がいて、「ください。貴坊の耳(たぶ)を買おう」と言う。(耳たぶが厚い僧が)「すぐに買ってください」と言う。(さらに)「どのくらい(の価格)で買いなさいますか」と言う。(耳たぶを買いたがっている僧が)「五百文で買いましょう」と言う。(耳たぶが厚い僧が)「それならば(良いだろう)」と言って、金銭を受け取って売ってしまった。その後、京都へ行って、人相見のところに、耳を売った僧と一緒に(耳を買った僧が)行く。人相見が(耳を買った僧の)人相を占って、「幸運(な人相)はございません」と言うと、耳を買った僧が、「あの(福耳の)御坊の耳を、代金いくらいくらで買いました」と言う。「それならば、御耳のおかげで、来年の春ごろから、幸運に恵まれて、御心穏やかでいられるでしょう」と占う。ところが、耳を売った僧(の人相)については、「耳だけは幸運な相がおありだけれども、その他は(吉相は)見当たらない」と言う。その(耳を売った)僧は、今現在まで、暮らし向きがよくない人である。「このように耳を売ることもあるのだから、貧乏を売る(=手放す)こともきっとあるだろう」と思い、奈良を立ち去って、東国に住んでおりましたが、学識を持った僧で、説法などもする僧である。

 ある高僧が(この耳を売った僧に)言うには「老いた私を仏事に招待している用事がある。(私は)年老いているし、道のりが遠い。私に代わって、出向いてくださいよ。ただし、三日かかる道のりだ。予想では、布施は十五貫を超えはしないだろう。
また(別件で)ここから一日の道のりの場所に、ある金持ちの神主が、七日間にわたって逆修(=生前に死後の冥福を祈る仏事)をする仕事がある。これも私を招待すると言っているけれども、行こうという気にならない。こちらは、一日あたりに最悪五貫、うまくすると十貫ずつはくれるだろう。きみは、どちらに行きなさるか」と聞く。その(耳を売った)僧は「お聞きになるまでもない。遠路を耐え忍んで、十五貫文ほどを取得するようなのより、一日の道のりを行って七十貫を取得しましょう」と答える。(高僧は)「それならば」と言って、もう一か所へは他の僧に行かせる。神主の所へは、この僧が行った。

 既に海を渡って、その(神主の)場所に到着した。神主は年齢が八十歳に達して、病で臥せっている。(その神主の)息子が申し上げたことには、「(父は)老体に加えて、病気である月日が長くて、回復は期待し難いですけれども、ひょっとすると(回復するのでは)と(期待して)、まずは祈禱として『大般若経』の真読(=省略せずに読誦すること)をお願いします」と言う。「また、逆修はぜひとも(私たちの方で)準備いたしまして、そのまま(祈禱に)続いて、致します」と言う。この僧が思うことには「まず、大般若経の(分の)布施をもらおう。また、逆修の布施は手に入ったも同然だ」と思って、「お安い御用です。参上したからには、仰る通りにします。(大般若経の真読も逆修も)どちらも(私の)得意なことです。特に祈禱は私の宗派の秘宝である。必ず霊験があるでしょう」と言う。

 「ところで、(お坊様は)お酒は召しあがりますか」と聞く。およそ酒好きではあるけれども、「酒が好きだと言うと、信仰心が薄いだろう」と思って、「いかにも尊そうな僧の風格でいよう」と思って、「一滴も飲まない」と答える。「それならば」と言って、(神主の家族は)温かな餅を勧めた。そこで、(僧は)大般若経の啓白(=趣旨や願意を仏に申し上げること)をして、その餅を(神主に)食べさせて、「これは大般若経の法味、不死の薬でございます」と言って、病人に与えた。病人は尊く思って、横たわったまま合掌して、三宝諸天の御恵みだと信じて、一口食べたところで、ここ数日間、何も食べていなかったので、噛み疲れた様子で、うまく食べられず、むせた。女房と子供が(神主を)抱きかかえて、あれこれしたけれども、思い通りにならず、死んでしまったので、かえってあれこれと申すこともなく、「亡き親の追善供養の時に、ご連絡を申し上げましょう」と言って、(僧を)帰した。

(僧は)帰る道では、波風が荒く、波を乗り越えて、なんとか命からがらで、衣装を始めとして全てだめになった。(耳を売った僧が選らばなかった)もう一か所の法事では、布施を莫大だった。これも、福耳の幸運を売ってしまったせいかと思われた。全てにおいて意図したとおりにならない(で不運な)上に、心も卑劣になってしまった。

参考文献『新編日本古典文学全集 沙石集』(小学館)

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