2025年東大英語(第2問B 和文英訳)入試問題の解答(答案例)・解説
(編集部注1)難易度の評価など、当日解いた所感はこちらをご覧ください。
(編集部注2)実際の入試問題入手先
本解説記事を読むにあたって、事前に入試問題を入手なさることを推奨します。
・産経新聞解答速報 https://www.sankei.com/article/20250225-SS6KISNKS5BRTKNOCIBINS4GHI/?outputType=theme_nyushi
・東京大学HP https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_04.html
目次
- 2025年東京大学 英語 2B和文英訳 問題
- 【東大英語2B和文英訳総括】
- 2025-2B和文英訳 所感
- 2025年東大英語 2B和文英訳 思考プロセス
- たとえ疑問に思っていたとしても、の英訳を泥くさく考察してみた
- 権力を持つ者が動かしている政治を変えることは難しいと捉えており、の英訳を泥くさく考察してみた
- だからこそ、土地や家を持っていない人々は、がむしゃらに働き、の英訳を泥くさく考察してみた
- 支払いに何十年とかかっても手にしようと試みる、の英訳を泥くさく考察してみた
- これなら私にも書けるかもと思わせてくれる答案例
- こんなのを書いてみたいと思わせてくれる答案例
- いま話題のchatGTPが考えた答案例
- 解きっぱなしで終わらせない。2025東大英語2Bの復習用重要表現集
- 東大和文英訳対策 類題演習題材のご紹介〜入試問題良問選〜
- 【さらに深く学びたい方のために】
2025年東京大学 英語 2B和文英訳 問題
以下の下線部を英訳せよ。
この世は,土地を持っている人間と, 持っていない人間に分かれており, 土地を持っていない人間は, 馬鹿高い金額を払って土地を手に入れ, ブラックボックスと化し,商品の値段など分からなくなってしまっている家という商品を購入しない限りは, 自分のための家を手に入れることはできないのである。だから大抵の人は家を所有者から借りることになるのだが, 家賃を払うお金すらない人は, 路上生活者になるしか道はない。
これはどう考えても憲法違反のような気がするのであるが, お金という権力を持っている人間だけが支配している現状について, 誰も疑問に思っていないようだ。たとえ疑問に思っていたとしても, 権力を持つ者が動かしている政治を変えることは難しいと捉えており, だからこそ, 土地や家を持っていない人々は, がむしゃらに働き, 支払いに何十年とかかっても手にしようと試みる。
僕はこの家の在り方をおかしいと思う。
(坂口恭平 『モバイルハウス 三万円で家をつくる』 を一部改変)
【東大英語2B和文英訳総括】
2018年に20年ぶりに復活した和文英訳問題ですが、本年度も2Bで登場しました。
皆さんは、和文英訳と聞いた時に、どのようなスキルが求められるとお考えですか。
2025-2B和文英訳 所感
速報記事(https://exam-strategy.jp/archives/92913)でも申し上げたように、昨年に引き続き極めてメッセージ性の強い文章が選ばれました。
2018年に和文英訳が華麗なる復活を遂げて以来、当初は旅やら外国語習得やら、どこの大学でも見かけるような当たり障りのないテーマが問題として選ばれてきました。
しかし、2024年度入試ではクオータ制が問われ、今年は社会的不平等/経済格差について社会風刺した文章が選ばれました。
働いても働いても豊かになれない。
政治に期待したところで何も変わらない。
そうした閉塞感のなかで、多くの人々は「これが社会というものだ。仕方がない」と思考を放棄し、現実を受け入れるしかない状況を前にしているのではないか。
でも、本当にこのままでいいのか。
何も行動を起こさなくていいのか。
政治を変えるために、まずは投票に行くべきではないのか。
そのようなメッセージを、本年度の2Bと2Aから感じ取れました。
2Bで社会の歪んだ現状について問題提起をし、そうした現状に目をつむることなく声をあげるべきではないかと2Aで提起しているように思えたのです。
「意見を言わないということは同意することを意味する」と問うてきたのには、今こそ日本人はしっかりと未来を据えて投票に行くことで民意を政治に反映させるべき時ではないのかという東大教授の熱い想いが込められているように私は思えました。
さて、作問背景についての考察はこれくらいにして、下線部そのものに目を向けるとしましょう。
今年度の特徴として、英訳すべき分量は昨年より若干少なくなりました。
訳しづらさという点では、「動かしている」「がむしゃら」「何十年」あたりの適訳を試験会場でうまく思いつけなかった受験生もいたかもしれません。
ですが、日本語で書かれたものを機械的に訳すのが和文英訳の意味するところではありませんから、文脈に矛盾がない限りで問題文を英訳しやすいように言い換えをする「和作文」を手始めに行うことが重要です。
今年度の2Bは英作文が得意な方であれば2分で答案を完成できたと思いますが、仮に2Bが不得手な方であったとしても、文脈における下線部の意味するとこを考えて適切に和作文をしたならば、容易に解き切ることができたはずです。
エレガントな解答例ばかりを眺めるだけでは決して体得できないスキルですので、泥臭く1点でも多くもぎ取るノウハウを敬天塾の過去問解説で存分に学ばれてください。
8種類の大問で構成される東大英語では安易に特定の大問を捨て問にすることなく、しっかりと対策を講じた上で点数を取りに行く姿勢を貫くことが合格を引き寄せるのです。
2025年東大英語 2B和文英訳 思考プロセス
問題文を再掲します。
以下の下線部を英訳せよ。
この世は,土地を持っている人間と, 持っていない人間に分かれており, 土地を持っていない人間は, 馬鹿高い金額を払って土地を手に入れ, ブラックボックスと化し,商品の値段など分からなくなってしまっている家という商品を購入しない限りは, 自分のための家を手に入れることはできないのである。だから大抵の人は家を所有者から借りることになるのだが, 家賃を払うお金すらない人は, 路上生活者になるしか道はない。
これはどう考えても憲法違反のような気がするのであるが, お金という権力を持っている人間だけが支配している現状について, 誰も疑問に思っていないようだ。たとえ疑問に思っていたとしても, 権力を持つ者が動かしている政治を変えることは難しいと捉えており, だからこそ, 土地や家を持っていない人々は, がむしゃらに働き, 支払いに何十年とかかっても手にしようと試みる。
僕はこの家の在り方をおかしいと思う。
(坂口恭平 『モバイルハウス 三万円で家をつくる』 を一部改変
下線部を句読点などでざっくり区切ってみますと、主に4つのパートに分けられましょう。
① たとえ疑問に思っていたとしても
② 権力を持つ者が動かしている政治を変えることは難しいと捉えており、
③ だからこそ、土地や家を持っていない人々は、がむしゃらに働き、
④ 支払いに何十年とかかっても手にしようと試みる。
とあります。
③と④はまとめることもできそうですが、本稿では敢えて分けて考察を試みたいと思います。
なお、多くの受験生は下線部だけ読んで英訳を試みるわけですが、なぜに東大側が下線部前後の文章を載せているのか考えてみてください。
それは、訳しづらい箇所が出てきた時にヒントにして欲しいという思いを込めているからです。
4A正誤でも、4B英文和訳でも、5の物語文でも下線の所だけ拾い読みする受験生が多くいますが、東大教授も作問にあたり、そうした受験生の存在を想定してワナを仕掛けています。
2Bについては、確かに下線部だけ読めば何とかなることも多いのですが、2020年2Bの「まゆつばもの」のように、下線部以外のワードから適切な訳語を類推しなければならない設問も出されますので臨機応変に問題文を活用しましょう。
なお、東大や京大の2Bでは堅い文体で旅や人生訓などありがたいお話がよく出されますので、文意を正確に把握するためにも日本語の語彙力を磨くことも忘れないようにしましょう。
東大入試では、全教科的に国語力が高度に求められているからです。
また、人生訓の英訳訓練を京大や阪大あたりの過去問も使いながら訓練しましょう。
それでは、①〜の順に見て行くとします。
たとえ疑問に思っていたとしても、の英訳を泥くさく考察してみた
英語力のある方なら、さらっと、even if they have doubts (about this / about the current situation)と訳せるでしょうが、doubtやeven ifを本番の緊張などからスムーズに思いつけなかった受験生だって一定数はいたはずです。その時に、「ああ、もう無理だ」と諦めるのは早いです。白紙で出すことなく、文脈から解釈したことを泥臭く表現する姿勢を忘れないでください。そうして得られた1点が、合否の分水嶺になることもあります。
まず、そもそも、「疑問に思って」というのは、何に対してでしょうか。下線部では目的語が略記されていますが、
下線部の直前には「お金という権力を持っている人間だけが支配している現状について、誰も疑問に思っていないようだ」とありますから、社会的不平等が広がった歪んだ「現状」に対する「疑問」だということがわかります。では、「疑問に思う」とは何を意味するのでしょうか。5歳児に質問されたとき、皆さんなら、どのように答えますか?
「おかしいと思う」「何かを変えなきゃいけないと感じている」「こんな状況は受け入れられない」「よりよくしないといけない」などと説明できるのではないでしょうか。字面を目で追うばかりではなく、要するになにが言いたいのか?と自問自答することで、解答指針は浮かび上がってくるのです。
以上をもとに、英訳を試みると
- Even if they think this (またはthe current situation) is not good(not goodの代わりにstrangeやwrongも可)
- Even if they feel something is wrong
- Even if they think they have to change something
- Even if they think something needs to change
- Even if they feel they have to improve this(またはthe situationなど)
- Even if they think this is not acceptable
- Even if they wonder whether this situation is wrong
あたりが代替候補として浮かび上がってきそうです。
なお、ここまで、Even ifを当たり前のように使ってきましたが、「疑問に思っているけれども」と言い換えてthoughやalthoughにパラフレーズすることもできそうです。たとえば、
- Though they think they have to change this situation
- Though they feel this is not good
のように変えられそうですね。いかがでしたか。「たとえ疑問に思っていたとしても」という短い表現1つをとっても、これほどまでに代案を紡ぎ出すことができるんです。先生が黒板に書いた美しい解答例をノートに取ったところで、それは美術館で芸術鑑賞に浸ったのと変わりはありません。「すごいな〜。いつか、こんな英文を書いてみたいな〜」で終わりです。大切なのは、自分の頭の中に入っている知識を総動員させて、1点でも多くもぎ取るガッツです。
正直、あまりエレガントではない表現もあったかと思います。ですが、試験会場でパニックを起こしている時に何も思いつかないのであれば、中学レベルの英単語を組み合わせてみたり、下線部を思いっきり意訳して、もっとも主張したい「核」のところだけ端的かつ明瞭に書いて1点でも多く稼ぐスタンスは重要です。
これまで模範答案を眺めて「すごいね!こんなの書けたらいいね!」という感想だけで学習を終えられていた方は、ぜひ、頭の中に入っている知識を駆使できるように、与えられた日本語文を英訳しやすいように別の日本語に言い換える和作文を実践してください。言い換えに際しては、小難しく考えるのではなく、5歳児に説明するくらいの気持ちで、日本語の語彙レベルを落として言い換えてみると良いでしょう。我々の脳内にストックされている日本語の語彙数に比べ、英語の語彙数は微々たるものなわけですから、ストレートに英訳できないことは多々あります。そうした問題を解決するのが、与えられた日本語文を英訳しやすいように加工する技術なのです。和文英訳というと、日本語→英語にダイレクトに訳されることをイメージされる方が多いと思いますが、日本語→日本語→英語というプロセスを経ることで難易度の高い英文にも怖気つくことなく冷静に英訳を試みる勇気が芽生えてきます。この手法は、第一線でご活躍されている翻訳家や同時通訳者の方も多用されているようです。ぜひお試しください。
権力を持つ者が動かしている政治を変えることは難しいと捉えており、の英訳を泥くさく考察してみた
このパートこそ、和作文の本髄を発揮すべきでしょう。
まず、「動かしている」をmoveと機械的に訳しても意味が通じません。
物体を物理的に動かそうとしているのではなく、「政治」というシステムを「牛耳っている」「操っている」「導いている」「支配している」「影響下に置いている」「左右している」ことを意味しているはずです。
ともなれば、
- control
- lead
- influence
- rule
- dominate
あたりの単語が思い起こされるはずです。
次に、「権力を持つ者」は、どう訳したらいいでしょうか。
those in powerやpowerful peopleやthe powerといったエレガントな表現をサクッと思いつける方は上級者です。
ですが、うまく思いつけなかったのなら、言い換えねばなりません。
課題文では「権力」を「お金という権力」と説明しています。
ということは、「権力を持つ者」=「お金を持っている人」=「金持ち」と言い換えることができそうですね。ともなれば、
- rich people
- the rich/the wealthy
- those who have the power of money
- people who have the power called money
- people who have a lot of money
- people with a lot of money
と言い換えることもできそうですね。
では「政治」についてはどうでしょうか。
シンプルにpoliticsやthe political systemと訳せれば最高ですが、試験最中にド忘れしたり、スペルに自信がなかったりすることもあるかもしれません。
そんな時は、直ちに和作文ですね♬
政治とは何か。
これは非常に難しい質問かもしれません。
ですが、設問文は全体を通して、この現状、この社会っておかしくない?と疑問を提起しているわけですから、そのことと絡めると
- our society
- the social system
と言い換えることもできそうです。
もっというならば、国民の暮らしに直結する「政策」や、それを実行している政府に問題があるとも言えますので、
- the policy
- the government
と表現することもできそうです。
これらに、「▲▲を重視する(=▲▲-oriented)」を取ってつけて、
- the wealthy-oriented policy
- the rich-oriented government
と表現できれば、かなりシンプルに訳せそうですし、
- the political system where rich people are the focus
- the political system focused on the rich
- the social system under the control of those in power
- the social system dependent on the power
- the government manipulated by rich people
などとも表現できそうです。
組み合わせれば、いくらでもバリエーションが出てきます。
さらには、単語で表現するばかりではなく、「社会の進むべき方向性」 「社会がどうあるべきか」「社会のあり方」「金持ちが社会を牛耳っている事実」などと捉え直し
- the future direction of our society
- how our society should be
- what our society should be like
- the fact that rich people rule our society
のように言い換えることもできそうです。
最後に、「変えることは難しいと捉えており」についてです。
まず「変える」はchangeで十分だと思いますが、より良くすると考えるならimproveでも良さそうです。
「政治」を「社会のあり方」と捉えるなら動詞はdecideやdetermineも候補に上がってくるでしょう。
「〜することは難しい」に関しては[it is difficult(またはhardやtoughなど) to〜]を真っ先に思い浮かべてほしいところです。
「捉えており」は「考えている」とシンプルに言い換えれば良いでしょう。
両者を合わせて
- think it is difficult to〜
- find it difficult to〜
とするのがオーソドックスだとは思いますが、この形が思いつかなければ、
- changing ■ is hard
- improving ▲ is difficult
などと動名詞を使って表現したり、「難しい」を「できない」「あきらめている」と言い換えて
- can’t change
- can’t improve ■ with our own hands(自分たちの手で■をよりよくする)
- give up making ■ good for them
ことも可能です。
以上を組み合わせてみると
- they think it is hard to change the politics controlled by those in power
- they find it difficult to change the politics controlled by rich people who have the power
というオーソドックスなものから
- they think it is difficult to change the rich-oriented government
- they think it is difficult to change the fact that only rich people decide how our society should be
- people think improving the society ruled by those who have power is hard
- people think they can’t change the wealthy-oriented government
- people give up making the society ruled by the power good for them
- people think they can’t determine(またはdecideやshape) the direction of our society
のようなシンプルな形まで多種多様に解答例が考えられそうです。
そのほか、本パートを2文に分けて表現することもできるかもしれません。
たとえば、
- If this keeps on, they think they are going to regret it. However, they also think they can’t change the politics controlled by people who have the power.
いかがでしたでしょうか。多少のニュアンスは変わるかもしれませんが、本筋からはズレていないと思います。
ここで大切なことは、与えられた課題文を読み込み、試験会場で思い出せる英語表現でなんとか答えを紡ぎ出す姿勢です。
パッと見て分からなくても、わかるように下線部分を加工する工夫こそ、東大和文英訳制覇の極意なのです。
なお、受験生のなかには「政治」や「権力」の訳としてpoliticsやpowerをスムーズに思い出せなかったことを学校や塾の先生に咎められた方もいたそうです。
私もかつてはそうでした。
「そんな単語も思い出せないなんて東大受験する資格なし」とか「気合いが足りないからだ」と馬鹿にされたり怒られたりと散々でした。
まあ、確かに、その頃の私は基礎がなっていなかったんだとは思いますが、東大模試で1位を取った人でも同じような状況に陥ることがあることを知った時には、自分だけじゃないんだと安堵したものです。
その時の経験から、泥臭く言い換え表現を探して、なんとか答えを紡ぎ出す戦略を考えるようになったのです。英語がものすごく出来る人からすればバカバカしいと思われるかもしれませんが、激戦の東大入試ではエレガントさよりも泥臭く1点を稼ぎ出す姿勢が合格を引き寄せると感じています。
ぜひ、試験終了の鐘が鳴り終わるまで諦めないでください。
ぜひ、敬天塾の過去問データベースや知恵の館の記事などから貪欲にノウハウを学んでいってください。
だからこそ、土地や家を持っていない人々は、がむしゃらに働き、の英訳を泥くさく考察してみた
下線部のなかでは、最も訳しやすいパートだと思われますが、意外にミスを犯しやすい箇所かもしれません。
簡単だと思った時ほど、気を引き締めて確実に点を取りにいきましょう。
まず、「だからこそ」についてです。
前のパートに続けて一文で言い表す場合は、「〜, so」でいいと思います。
ただ、一文が長くなると、接続詞の誤用や修飾被修飾関係の不明瞭といったトラブルがしばしば起こりますので、私としては本問を2文にわけたほうが良いと思っています。
2文に分けるなら。
- Therefore, 〜
- That is why〜
あたりになるでしょうか。ちなみに、That is becauseだと因果の流れが逆転してしまいます。
「原因 is why 結果 / 結果 is because 原因」ですので、注意しましょう。
模試を採点していると誤用する人が非常に多いことに気付かされます。
なお、文頭に「So」をつかう方が近年増えています。
会話表現では問題ありませんが、アカデミックイングリッシュ(大学で学ぶフォーマルな英語)では一昔前までは御法度とされていました。
最近は緩くなったと聞きますが、先生によっては容赦なく減点にする方もいますので、文頭のSoは控えたいところです。
同様に文頭のButも控えるべきだとは思いますが、こちらは近年の学校教科書でも採用されているので、書いても減点を食らう可能性は低いと思います。
次に、「土地や家を持っていない人々」についてみていくとしましょう。
「持っていない」については前置詞のwithoutを用いるか、関係代名詞のwhoあたりを使って表現することが考えられそうです。
「土地」についてはlandを用いれば十分ですが(⚠︎landにはsやaをつけない方が多いです)、小難しく言えばpropertiesなんていう表現もあります。
もし、landが思いつかなかった場合は、多少の減点覚悟でhousesだけを書きましょう。
groundを思いついた方もいらっしゃったかもしれませんが、土地という意味はあるものの地面や土壌を示すことが多いような気はしますので、ニュアンス的にはlandの方が良いです。
ただ、思い出せなかった場合は、まったく見当違いというわけでもありませんからthe groundと書き添えるのも試験戦略的にはアリだと思います。
以上より、
- people without land or houses
- people who don’t have(またはown)land or houses
あたりが候補として考えられます。
最後に、「がむしゃらに働き」についてです。
「がむしゃら」という言葉そのままでは単語帳などには載っていませんから、「一生懸命に」「必死に」とシンプルに言い換えをすれば十分です。
ですので、
- work very hard
- work desperately
- work diligently
あたりが第一候補になりそうです。
以上より、このパートは
- Therefore, people without land or houses work very hard
- That is why those who don’t have land or houses work diligently
あたりが解答として考えられそうです。
支払いに何十年とかかっても手にしようと試みる、の英訳を泥くさく考察してみた
いよいよラストのパートです。
このパートで苦戦する部分と言えば、「支払いに何十年とかかっても」の訳出でしょうか。
「●●年かかる」の基本定石は、[it takes ●● to V]が一般的です。
ただ、これを思いつかなかったとしても、「at the cost of decades(何十年という時間を犠牲にして)」「over decades(何十年にもわたって)」といった具合に前置詞をうまく使って表現することもできそうです。
つぎに、「〜かかっても」は、「たとえ〜だとしても」と言い換えられますからeven ifを用いるのが良さそうですが、本問のパート①で既にEven ifを用いていて、重複利用を避けたいのであれば、no matter how many decades〜とするのも良いでしょう。
「何十年」についてはdecadesやseveral decadesといった表現で訳すのがシンプルではありますが、試験会場で思い出せなければ、「長年」と読み替えてa long timeと表現することもありだと思います。
何十年というのは、あくまで、それくらい多くの時間を費やしていることを形容するための比喩だと考えられますので。
なお、字義通りに読めば、「何十年とかかっても」は「手にしようと試みる」にかかってはいますが、文構造を変えて、「何十年とがむしゃらに働き、それら(=土地+家)を手に入れようと試みる」としてみるのもアリかもしれません。
「支払い」についてはpayで十分だとは思いますが、敢えて訳さずに「手にしようと試みる」だけを表現しても文意は大きく崩れないように思います。
「手にしようと試みる」については、前のパートの「がむしゃらに働き」と並列関係にして用いるのかどうかによっても表現方法は変わってきそうです。
使用する動詞はgetやbuyやownやpossessあたりが考えられそうです。
なお、手に入れる対象について日本語文には記載がありませんが、英語では目的語の省略は好ましくありませんのでthem(=土地や家)などの目的語を添えるようにしましょう。
このあたりの英語と日本語の言語構造の違いについても採点対象になっていそうです。
以上をもとに、このパートの訳をいくつか示したいと思います。
- (〜work very hard) no matter how many decades it takes to get them
- (〜work hard for a long time) to try to get them
- (〜work hard) and try to own them even if it takes decades to pay for them
- (〜work hard) and pay over several decades to get them
- (〜work hard) and try to get them at the cost of many years
いかがでしょうか。日頃から多くのフレーズに触れ、語彙力増強に努めていただきたいところではありますが、それでもやはり緊張や焦りでド忘れすることはあります。
本稿を通じて、泥くさく考察することで別の切り口からも答案を紡ぎ出すことができるんだということを実感していただけたなら、こんなにも嬉しいことはありません。
英作文は数学に似ていると映像授業のなかで申し上げましたが、試行錯誤のなかで格闘する過程は、まさに数学そのものだと私は感じております。
昨年の東大文系数学第2問では対数が出題されましたが、あれをエレガントな式変形なしに全部小数に直して気合いで答えを出しきった猛者がいるそうです。
本人曰く「数弱をなめるなよ」だそうですが、それで20点を稼ぎ出せたわけですから、すごいですよね。
この姿勢が合格を引き寄せるのだと改めて思いました。
さて、以上、4つのパートに分けて分析考察を重ねてきましたが、各パートで申し上げた表現を組み合わせれば答案骨格は出来上がります。
その上で、英作文7つの大罪(https://exam-strategy.jp/archives/10835)や映像授業のなかでもお伝えしたように、時制や三単現のsなどに注意しつつ、スペルミスやピリオド付け忘れといったポカミスを犯さないように最後の仕上げを細心の注意を払ってしていきましょう。
決して最後の最後まで油断はしないでください。
人はミスを犯す動物だという認識のもと、何度も何度も見返しましょう。
それでは、ここで、いくつかの答案例を示したいと思います。
これなら私にも書けるかもと思わせてくれる答案例
① Even if people think this is wrong, they think it is difficult to change the politics controlled by rich people. Therefore, people who don’t have land or houses work very hard for a long time to try to get them.
② Though they feel they have to change this situation, they think they can’t change the government which is influenced by powerful people. Therefore, people without land or houses work very hard and try to get them at the cost of many years.
こんなのを書いてみたいと思わせてくれる答案例
Even if they feel this is unacceptable , they give up changing the political system ruled by those in power.That’s why people without any land or houses work very hard and pay over several decades for them.
いま話題のchatGTPが考えた答案例
① Even if they have doubts, people believe it is hard to change the politics controlled by those in power. That’s why people without land or homes work hard and try to get them, even if it takes decades to pay for them.
② Even if they question it, they think it’s difficult to change the politics controlled by the powerful. Therefore, those without land or homes work tirelessly, trying to buy them even if it takes decades.
なお、chatGTPに関しては、以下の記事もよろしければご覧ください。
解きっぱなしで終わらせない。2025東大英語2Bの復習用重要表現集
せっかくですから有益な表現を皆様に吸収していただければと願っております。
努力しても報われない(Hard work doesn’t pay off. / Our efforts go unrewarded. ) 。
働きすぎて身体を壊して(get sick from working too hard / collapse from overwork) しまった。
これが社会の有り様(It’s just the way of the world.)だと嘆く人も多いことでしょう。
「俺のせいじゃない! 社会のせいだ!」(It’s not my fault! It’s society’s fault!)と言うと、言い訳をするな(Don’t make excuses.)と怒られることも多いと思いますが、あながち間違いばかりではありません(not always wrong)。
政治が失敗すると、人は死にます(When politics fails, people die. ⚠︎politicsは単数扱い)。
スターリンや毛沢東が採った政策(policy)のことを思い出してください。
幸い、日本は民主主義国家(a democratic country)ですから、投票(vote)に行けばいいのではないかと思うことでしょう。
政治なんて自分達と関係ない(politics is none of our business)と言って、投票に行かずに文句ばかり(complain)言っている人たちが多くいます。
投票したところで、自分の声がきちんと届けられる(feel our opinions have been heard / reflect our opinion) はずはないと諦めて(give up)しまっているのかもしれません。
今年の東大2A自由英作文でもご紹介した、サイレント・マジョリティー(the silent majority)になるのではなく、しっかりと声を上げることで政治の質を高めていく(improve the quality of the government)ことではないでしょうか。
日本には働いても働いても、生活がままならない(can’t make a living / Life is hard)ワーキングプア(the working poor)と呼ばれる人たちが多数います。
ノーベル経済学賞(Nobel prize in economics)を受賞したAmartya Sen博士は、貧困(poverty)の本質を次のように問うています。
Poverty is not just a lack of money; It is not having the capability to realize one’s full potential as a human being.(貧困は単にカネがないことを意味しているのではない。人間として自分の能力を十全に開花することのできる機会を持てていないことを意味するのだ。)
こうして、Sen博士は、貧困の本質を、deprivation of basic capabilities(自己実現を果たす機会が奪われている状態)だと定義しました。
このように捉えるなら、アパルトヘイトと闘った英雄Nelson Mandera氏の以下の名言がまた違って見えてくるのではないでしょうか。
Overcoming poverty is not a gesture of charity. It is the protection of a fundamental human right, the right to dignity and a decent life.(貧困の解決は、施しなんかではない。人としての尊厳やまともな暮らしを送れる権利といった基本的人権の保護に本質があるのだ)
本問で取り上げれた論点は住む権利(the right to housing)の話とも関係しています。
家がないと、雇用(employment)や、医療サービス(health care services)や、学校教育(education)など、様々な面で不利益を被ります。
家賃(the rent)が高ければ、食費(food expenses/food costs)や医療費(medical expenses)を切り詰め(cut down)なくてはならず、健康で文化的な暮らし(wholesome and cultured living)を享受できなくなってしまいます。
欧米諸国(Western Countries)では、住宅価格の高騰(rise in housing costs / rocketing property prices)を前に、Affordable Housing(一般庶民が買えるOR借りられる価格の住宅)を推進する政策が展開されています。
家賃ばかりにお金が飛んでしまえば、子供をもつゆとりなど当然持てず、出生率の悪化(worsening fertility rate)にも繋がると懸念されています。NHKのポッドキャストもぜひご覧ください。
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/backstories/3497/
東大和文英訳対策 類題演習題材のご紹介〜入試問題良問選〜
本稿の冒頭でも申し上げた通り、世の中には和文英訳の問題は腐るほどあるも、東大の和文英訳に類似した問題はなかなか入手できません。
そこで、東大受験生の皆様が少しでも和作文の訓練ができるよう、他大学の過去問をピックアップしてご紹介したいと思います。
次の文章を英訳しなさい。
人間の心と顔の表情の関係は、一般的なイメージ以上に込み入っている。顔は心を映す鏡だと言われるが、「ポーカーフェイス」という言葉もあるように、いつもそうであるとは限らない。実際、顔の表情を変えることが心を動かすこともあると示唆する研究もある。もしそうならば、口角を少し上げるだけで、前向きな気持ちになれるかもしれない。
京都大学2025
(敬天塾コメント)
いやあ、さすが京都大学です。
まるで、受験会場で試験に臨む受験生への応援メッセージのようにも読み取れました。
中身の面でも「ポーカーフェイス」や「口角」といった表現は、まさに和作文しなければ英訳できないですね。
ちなみに、2021年の英訳問題も、受験生の心を温めてくれるメッセージでしたので、せっかくですからご紹介したいと思います。
次の文章を英訳しなさい。
言うまでもなく、転ばぬ先の杖は大切である。しかし、たまには結果をあれこれ心配する前に一歩踏み出す勇気が必要だ。痛い目を見るかもしれないが、失敗を重ねることで人としての円熟味が増すこともあるだろう。あきらめずに何度も立ち上がった体験が、とんでもない困難に直面した時に、それを乗り越える大きな武器となるにちがいない。
京都大学2021
(敬天塾コメント)
いかがでしょうか。歴史に残る名文だと思いました。
京大はリスニングや物語文や正誤問題といった問題がない分、一題一題がとてつもなく歯ごたえのある問題で構成されており、その分、学びも多いと言えます。
ちなみに、東京大学が自由英作文の出題数を減らして20年ぶりに和文英訳を復活させた2018年に、京都大学はその反対に和文英訳の代わりに自由英作文をいきなり2題構成で出題しました(翌2019年には早々に和文英訳を復活させましたが)。
両大学は入試問題づくりにおいても実に興味深い共通点や相違点がありますので、時間が許す限り5年分くらいは各教科で目を通しても良いと思います。
なお、東大2022〜2024過去問実況中継のなかでも、良質な類題をご紹介しておりますので、併せてご参照ください。
では、引き続き、大阪大学の問題をご覧いただくとしましょう。
次の下線部を訳せ。
言い忘れた話のことは「言わない」 に限ります。言い忘れるくらいですので, たいしたことない話なのです。 それにもかかわらず言ってしまうと, 今までの話が全て台無しになってしまいます。 着地点をあらかじめ決めておき, 美しい終わり方をするようにしてください。 そうすることで相手はあなたのお話全体をよい思い出として持ち帰ってくれることでしょう。
(竹林正樹.2023. 『心のゾウを動かす方法』扶桑社より一部改変)
大阪大学2025
(敬天塾コメント)
こちらも、なかなか歯ごたえがありそうです。
「美しい終わり方」「持ち帰ってくれる」・・このあたりは、直に英訳することはできません。
日本語と英語が1対1対応していないことがよくわかる問題ですね。
余力のある方は、ぜひ京大や阪大の和文英訳にもチャレンジされると良いでしょう。
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