2019年東大英語(第1問A 英文要約)入試問題の解答(答案例)・解説

東大英語の陣頭を飾る1A英文要約は、得意不得意が大きく分かれる大問の一つだと言われています。
その理由には幾つか考えられますが、1Aが「思考力」「日本語表現力(運用能力)」を問うた大問であることは真っ先に挙げられましょう。

近年、英検やTOEICといった資格試験を低学年のうちからチャレンジする傾向が強まってきました。
短期目標を定めて英語学習に邁進する姿勢は実に好ましいところではありますが、東大英語とは頭の使いどころが違います。
私も、英検、国連英検、TOEIC、TOEFLとあらゆる英語資格試験を受験してきましたが、それらの試験で脳みそを使うことはほとんどありませんでした。
単語を覚えて、長文を早く読めれば解ける問題ばかりです。
ですが、東大英語は単語が分かっていても解けない、本文を読めても上手くまとめられないといった具合に、試験科目に「英語」と銘打ちながら、上っ面の英語力ではなく受験生の「思考力」「日本語運用能力」を東大では問うてきています。

これは、東京大学が世界的な研究者養成機関であることとも関係しています。
英語が使えたら世界で通用する一流の研究者になれるわけではありません。
日本語を話せる日本人は、みなが優れた研究者として国内で認知されるわけではないのと同じです。
このように特殊なチカラを問うている試験だからこそ、東大英語に特化した対策が必要なのです。

さて、2022年〜2023年の東大過去問について、敬天塾では詳細な思考プロセスを実況中継という形でご紹介してきました。
(編集部注:こちらの記事の最後にリンクを掲載しています)
日本一詳しく東大英語の極意を解説したつもりです。ぜひエッセンスを貪欲に学ばれてください。
本稿で扱う2021年度につきましては、要点解説ということでライバル達に差をつけられるポイントに絞って解説をいたします。
汎用性の高い解法や、東大英語を絶対的得意科目にするための訓練プログラムをお知りになられたい方は、敬天塾の映像授業と過去問の実況中継解説をぜひご活用ください。

それでは、2019年度1A英文要約の要点解説を始めたいと思います。

(所感)

2019年〜2021年の東大1Aでは実に不思議なことに、前書きで長文の内容や要約して欲しいポイントを明示していました。
2019年であれば、「ヨーロッパで生じたとされる変化の内容を70〜80字の日本語で要約せよ」とご丁寧に注意書きがなされています。
ちなみに、2021年の1Aでも要約内容の指定が前書きでなされていました。

なぜに、天下の東京大学がこのようなサービスをしているのでしょうか。
多くの塾関係者が意図不明と評価されていますが、誤解を恐れずに言うならば、2016〜2018にかけての1A要約の出来があまりに悪かったからではないかと推察しています。
2016〜2018の1Aでは「要旨」を答えるよう設問要求がなされました。
ですが、要約と要旨の違いが分かっていない受験生がかなり多くいたのでしょう。
トンチンカンな回答が金太郎飴のように大量に並んでいたと言われています。
(なお、要約と要旨の違いについては、こちらの記事をご参照ください。https://exam-strategy.jp/archives/9857

こうした事態を憂慮した東大教授が、「この文はね、●●について書かれているものですよ」「▲▲について、まとめてくださいね」とヒントを与え、受験生がきちんとした答案を書き上げてくれるようになるのか、3年スパンで実験したのではないかと感じています。

ちなみに、2022年〜2023年にかけては2015以前の「要約せよ」に戻っています。
これは、2019〜2021年度入試で提出された受験生答案が、全体的に東大側が要求する水準に近づいたと教授陣が評価したからだと、はじめ私は思いました。
ですが、実況中継解説でも詳述した通り、2022〜2023の問題は2015年以前とも違うように私は感じました。
詳細は、敬天塾の過去問データベースにアップしておりますので、ご参照ください。
2016〜2018の3年間で「要旨」を答えさせ、2019〜2021の3年間で詳細な前書き情報を載せ、2022年以降は要点が一見して掴みづらい文章を出すようになってきています。
3年単位で、様々な出題パターンを試しているようにも思えます。

 

少し話が長くなりましたので、いったん、2019年度に戻るとしましょう。
本稿で扱う2019年度1Aについては、前書きが置かれる特殊性はありましたが、本文自体は非常に読みやすく、70〜80字で要約するのも、それほど難儀ではなかったように思われます。
高校1〜2年生に解かせることもできます。
各段落の要点を繋ぎ合わせれば解答方針が立ちますので、要約初学者にとってはフレンドリーな1問です。
そうしたこともあり、難易度としては「やや易」といったところでしょうか。
3段落構成で、使われている語彙もマイルドなものばかりでした。
多くの学校や塾さんで、この2019-1Aを題材に授業が行われているのも納得です。

ただし、この問題だけを見て東大要約の何たるかを悟ったとは思わないようにしましょう。
2021年以降の問題で痛い目に遭うことになります。
2018年度入試で、東大英語はリスニングの選択肢が5つに増量し、4A正誤問題が消え、1B文挿入では本文の要点を英語でまとめさせる問題が初登場するなど大幅な出題形式変更がなされ、多くの東大受験生が時間不足に陥りました。
こうした事態を受けて、2019では1Aを従来よりも「意図的に」マイルドにした可能性があります。
ですので、2019はサービス問題だったと考え、本問だけを以て紋切り型の解答戦略を練らないようになさってください。

(要点解説)

まず、ざっくりと各段落の要点をみていくとしましょう。

第1段落で、産業化する以前のヨーロッパにおける子供達が置かれた不遇について述べられています。
親の所有物としてこき使われ、労働力として酷使されていた苛況が端的に述べられています。
法的な権利もなく、身体的虐待も広く行われていたわけです。
ヨーロッパというと、どことなく先進的な地域なように日本人はイメージされるかもしれませんが、意外に思われた方も多かったことでしょう。
東大英語では、しばしば、我々が漠然と抱くイメージや「常識」なるものを覆す内容の文章を出題してきます。

続く、第2段落では、1870年から1920年にかけて、「変化」が芽生えたことが冒頭で示されています。
まさしく、設問要求の内容ですね。
少し注意深く読み進めてみます。
すると、法的な権利が与えられるようになったことや、大人とは違う存在として子供が認識されるようになっていったこと、その結果、社会は子供達を様々な危難から守っていくようになったことが述べられています。

注意して欲しいのは、第2段落と第3段落は繋がっているということです。
第2段落の第1〜2文で、1870年から1920年にかけて、子どもの権利というものが認められるようになっていったことが書かれています。
その具体例を第2段落の後半と、第3段落で詳述しているわけです。
事実、第3段落の冒頭でAnother change(もう一つの変化)とありますから、1つめの変化は第2段落の後半で述べられていることになります。

ただ、第3段落で示された「変化」の中身は比較的書きやすかったのですが、第2段落と第3段落を別物と捉えた受験生にとっては、第2段落の何が「もう一つの変化」なのか不明瞭だった受験生も多かったことでしょう。
なぜなら、第2段落の冒頭で法的権利が子供に与えられるようになっていったとあるわけですが、第3段落でも同様なことが書かれており、なぜAnother changeと第3段落の冒頭で提起されているのか、東大側の意図を掴みかねる受験生が数多くいたそうです。
確かにわかりづらいですね。

ここは、上述したように第2段落の第1文で総論が述べられ、第2段落の中盤〜第3段落でで各論が述べられている文章構造を見抜くことが求められました
ここで、もう少し第2段落の後半を見ていくとしましょう。

第1段落で、子供達は親の所有物として扱われ、単なる労働力とみなされていたことが描かれていました。
ですが、第2段落の第3文以降でそうした考えが正され始めたと述べられています。
そして、子供達はunique groupとして社会で守っていかなければならないという考えに至ったと述べられています。このあたりが「変化」だと言えそうです。

ちなみに、子供達がunique groupとしてみなされるようになったことに違和感を覚えた方も多かったのではないでしょうか。
「子供は子供なんだし、大人とはそもそも違うだろう?」と思われたかもしれません。
ですが、それは現代の感覚です。
かつてのヨーロッパでは、子供は大人と同様に働かされ、酒場で酒を飲んだりしていました。
要は「小さな大人」くらいに扱われていたんです。
子供は弱いものだから守っていこう、という発想がそもそも欠如していたんです。

大人との明確な線引きがなかったため、子供を大人と区別して、衛生環境の良いところで、ちゃんと教育を受けさせ、自己実現に努めさせるなんていう考えすら庶民にはなかったのです。
上流階級や皇帝の一族くらいになると話は別だったようですが。
こうした背景を知っていると、第2段落後半で述べられているunique groupの話が特別な変化だと思えるようになるはずです。
今年度の1Aで差がつくとしたら、この部分を如何に答案に盛り込めるか、なのかもしれません。

そして、締めの第3段落。ここでは、第2段落冒頭でも示されていたように、子供達が法的な権利を保障されるようになり、虐待禁止法が施行され、公教育の整備なども進んだことが幾つかの具体例とともに示されています。

いかがでしたでしょうか。
各段落の要素をうまく繋ぎ合わせることが求められた標準的な文章です。
要約訓練をさほどやっていない受験生は2019-1Aを探究することで経験値を上げていくのが理にかなっています。
さて、ここで、敬天塾出身の東大合格者が書いた答案をご紹介するとしましょう。

答案例

(敬天塾出身の東大合格者の答案)

産業革命以前は労働力かつ親の個人資産とされていた子どもが、19世紀後半以降は社会が支援・保護すべき存在となり、様々な権利が保障され、国家にも守られるようになった。(80字)

まあ、これくらい本番でサクッと書ければ十分なような気もします。
「産業革命前の」については、時間軸を明示する意味で書いても良いとは思いますが、「19世紀後半以降」という言及もなされていますので略記しても良いかもしれません。
ここで、敬天塾の解答例も提示するとしましょう。

(敬天塾解答)

親の所有物として労働力扱いされた子供は、19世紀後半から社会が守るべき特別な存在として認識されるようになり、国から様々な法的権利が保障され支援されるに至る。(80字)

いかがでしたでしょうか。
80字にまとめるのが大変だという声も聞かれましたが、この程度で苦戦していてはいけません。
字数節約については、敬天塾の特別講義もございますので、そちらも併せてご活用ください。

なお、新傾向と言っても良さそうな2022年〜2023年度の過去問に関しては、より詳細な思考プロセスをご案内しておりますので、ぜひ併せてご参照ください。

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