2024年東大英語(第2問B 和文英訳)入試問題の解答(答案例)・解説

2024年東大英語 2B和文英訳 問題

以下の下線部を英訳せよ。

    政治の世界でのクオータ制(quota system) は, 議員の構成と, 彼らが代表する集団全体の構成とが適切に対応することを目指す制度である。 また企業などの民間の組織においても,  例えば意思決定に関わる役員職に女性が一定の割合を占めることが求められている。 そのような仕組みが本当に平等につながるのか賛否両論の声も聞かれるが, 現状では多くの社会において, 何かしらこのような制度により, 不平等を是正する必要が生じている。

   クオータ制は、それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている。それが達成されたあかつきにはクオータ制は, まさに平等の原理に照らして廃止することもできる。

【東大英語2B和文英訳総括】

2018年に20年ぶりに復活した和文英訳問題ですが、本年度も2Bで登場しました。
皆さんは、和文英訳と聞いた時に、どのようなスキルが求められるとお考えですか。

基本構文の駆使、正確な文法力、豊富な語彙力、スペルミスや句読点の付け忘れなどへの注意力といったものが、とっさに思い浮かぶでしょう。

また、中学高校で和文英訳の授業は自由英作文に比べれば頻繁に実施されていますから馴染みのある出題形式ですし、並べ替えや穴埋め問題と並んでオーソドックスな問題形式として和文英訳は知られています。

ですが、なぜか東大2B和文英訳では全然点数が取れないと嘆かれる方が毎年多くいらっしゃいます。
学校や塾の和文英訳では、いつも満点を取る子でもです。

なぜに同じ和文英訳なのに、こうも違うのでしょうか。

それは、英訳目的が異なるからです。
学校でやる和文英訳は、基礎構文力を身につけることに重きが置かれ、扱われる題材も学習効果を高める観点から作られた短文ですから非常に取り組みやすいのです。

その一方、東大入試で課される和文は、受験生を選抜することを目的とし、書籍から一部抜粋したもので英訳されることを前提とした文ではありませんから分かりづらく、逐語訳でもしようものなら文意が崩れてしまう特性があります。

東大教授は、受験生に構文力を身につけてもらうために出題しているわけではないということですね。

東大側がどのような点を受験生に問うているかというと、
① 基礎構文力(文法力)
② 語彙力
③ 言い換え力(文意把握力)

の3点だと私は考えます。

多くの受験生は①と②に主眼を置きますが、実のところ、この③が東大英作文で求められる最重要項目だと言っても過言ではありません。

たとえば、「猫の手も借りたい」を英訳する時に、字義通りにI want to borrow a cat’s hand.と訳しても意味不明ですよね。
そうではなく、ここで伝えたいニュアンスは助けが欲しいということですからI need your help.と訳さなくてはいけないわけです。

これに似た問題を東大は2003年2Bで問うています。
以下、問題文を掲載します。

次の文章は、あるアマチュア・スポーツチームの監督の訓話の一部である。この中の、「雨降って地固まる」という表現について、それが字義通りにはどういう意味か、諺としては一般的にどのような意味で用いられるか、さらにこの特定の文脈の中でどのような状況を言い表しているのかの3点を盛り込んだ形で、60語程度の英語で説明しなさい。

昨年は、マネージャーを採用すべきであるとかないとか、補欠にも出場の機会を与えるべきだとか、いやあくまで実力主義で行くべきであるとか、チームの運営の仕方をめぐってずいぶん色々とやり合いましたけれども、「雨降って地固まる」と申しまして、それで逆にチームの結束が固まったと思います。今年もみんなで力を合わせて頑張りましょう。
(東大2003年)

これは自由英作文の問題ではありましたが、言葉を字義通りに捉えても適切に英訳はできないことを示す好例です。

皆さんは、東大2B英文和訳の解答例を参考書などで確認すると思います。
プロの先生方が時間無制限で調べながら書き上げた英文ですから、非常に優れた英文ばかりですよね。
私が受験生だった頃は、こんなの一生書ける気がしないと思ったものです(笑)。
もちろん、こういったプロの解答例がスラスラ書けたら、こんなにも素敵なことはありませんが、大多数の東大受験生は塾講師のようには書き上げることはできません。
ルノワールやピカソの名画を芸術鑑賞したところで、巨匠と同じような絵を描けないのと同様に、模範答案を呆然と眺めるだけで、ある日目覚めたら、突然にすらすらと英文が書けるようになることはないのです。

では、諦めるしかないのかというと、決してそんなことはありません。
本稿では、エレガントな解答例を示すというより、満点でなくとも、泥臭く点数を取る思考プロセスを詳述していきたいと思います。

2Bに苦手意識のある方にこそ、是非熟読していただきたいと思います。
きっと、表現することが楽しくなってくるでしょう。

2024-2B和文英訳 所感

速報記事(https://exam-strategy.jp/archives/20202)でも申し上げたように、極めてメッセージ性の強い文章が選ばれました。
2018年に和文英訳が華麗なる復活を遂げて以来、旅やら外国語習得やら、どこの大学でも見かけるような当たり障りのないテーマが問題として選ばれてきました。
年々、歯ごたえが増してきているなとは感じましたが(2018が簡単すぎました)、京都大学や大阪大学のようなインパクトは然程ありませんでした。
そうしたなか迎えた2024年度入試で出されたお題が、クオータ制なのです。

クオータ制について本稿で詳しく説明することは控えますが、
東工大が2024年度入試から女子枠を新設したり、
東大英語部会が多様性を全面に打ち出した教科書大改訂を行なったり(http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/eigo/publication2.html)、
東大英語部会の恩師でもある矢口祐人教授が2024年2月に『なぜ東大は男だらけなのか』(集英社新書)を世に出したり、
女性教員を増員させる方針を東京大学が新たに発表したりと、
なぜ本問が2024年度入試で出題されたのか、とても偶然の一致とは思えません。

今年の和文英訳の文章には出典が明示されていないことから、おそらく東大教授がオリジナルで作成した文章だと思われます
そのことからも、東大受験生に限らず多くの人が目にする東大入試問題を通じてクオータ制の意義を啓蒙しようと意図されたように思えます。
ちなみに、林 香里東大副学長のインタビュー記事も学びがあると思いますので、リンクを掲載いたします。https://www.todaishimbun.org/keyperson_20210910

1A英文要約では、2024年11月5日に行われるアメリカ大統領選挙を意識してかマスコミによる偏向報道といったプロパガンダによって政治が歪んでいる時勢を憂い、1B文挿入問題でもジャーナリズムの話が登場し、
第5問ではアメリカの根深い人種差別の話が登場(アメリカにおける人種の分断を憂いたのかもしれません)し、
そして2B和文英訳ではクオータ制の話が登場するなど、まるで東大教養学部の授業を聞いているようにも思えました

入試問題を通して、受験生と「対話」するばかりか、東大入試問題に興味関心を持つ全国の高校生や一般市民に「問いかけ(啓蒙)」をしているのではないかと強く感じました。

さて、作問背景についての考察はこれくらいにして、下線部そのものに目を向けるとしましょう。
今年度の特徴として、英訳すべき分量がここ数年では最も多かったと言えます。
訳しづらさという点では、「根付いてしまった」「あかつきには」「照らして」あたりの適訳を試験会場でうまく思いつけなかった受験生もいたことでしょう。
ただ、日本語で書かれたものを機械的に訳すのが和文英訳の意味するところではありませんから、文脈に矛盾がない限りで問題文を英訳しやすいように言い換えすることが重要です。
こうした和作文を施せば、今年度の2Bも容易に解き切ることができたでしょう。
エレガントな解答例ばかりを目にしていては決して体得できないスキルですので、敬天塾の過去問解説で存分にノウハウを学ばれてください。

思考プロセス

問題文を再掲します。

以下の下線部を英訳せよ。

    政治の世界でのクオータ制(quota system) は, 議員の構成と, 彼らが代表する集団全体の構成とが適切に対応することを目指す制度である。 また企業などの民間の組織においても,  例えば意思決定に関わる役員職に女性が一定の割合を占めることが求められている。 そのような仕組みが本当に平等につながるのか賛否両論の声も聞かれるが, 現状では多くの社会において, 何かしらこのような制度により, 不平等を是正する必要が生じている。

   クオータ制は、それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている。それが達成されたあかつきにはクオータ制は, まさに平等の原理に照らして廃止することもできる。

下線部を句読点などでざっくり区切ってみますと、主に4つのパートに分けられましょう。

① クオータ制は,それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって

② 長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている

③ それが達成されたあかつきには

④ クオータ制は,まさに平等の原理に照らして廃止することもできる

とあります。
①と②は一文でまとめることもできそうですが、本稿では敢えて分けて考察を試みたいと思います。

なお、多くの受験生は下線部だけ読んで英訳を試みるわけですが、なぜに東大側が下線部前後の文章を載せているのか考えてみてください
それは、訳しづらい箇所が出てきた時にヒントにして欲しいという思いを込めているからです。

4A正誤でも、4B英文和訳でも、5の物語文でも下線の所だけ拾い読みする受験生が多くいますが、東大教授も作問にあたり、そうした受験生の存在を想定してワナを仕掛けています。
2Bについては、確かに下線部だけ読めば何とかなることも多いのですが、2020年2Bの「まゆつばもの」のように、下線部以外のワードから適切な訳語を類推しなければならない設問も出されますので臨機応変に問題文を活用しましょう。

なお、東大や京大の2Bでは堅い文体で旅や人生訓などありがたいお話がよく出されますので、文意を正確に把握するためにも日本語の語彙力を磨くことも忘れないようにしましょう。
東大入試では、全教科的に国語力が高度に求められているからです。
また、人生訓の英訳訓練を京大や阪大あたりの過去問も使いながら訓練しましょう。
それでは、①〜の順に見て行くとします。

クオータ制は,それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって、の英訳を泥くさく考察してみた

まず、「クオータ制」は本文でquota systemとありますので、それをそのまま書けば良いわけですが、冠詞をつけることを忘れないようにしましょう。
2002-2Aでも「能力別クラス編成」についてranking systemとご親切に訳語を添えてくださっていましたが、冠詞を何もつけずにそのまま使っていた答案が腐るほどあったと言われています。
本問で言えば、quota systemは固有名詞だと言えますので、aではなくtheをつければ良いでしょう。

次に、このパートで最も差がつくのが「それが一時的であろうがなかろうが」の部分です。
英語力のある方なら、さらっと、whether (it is) temporary or notと訳せるでしょうが、temporaryが思いつかなかった受験生だって一定数はいたはずです。
その時に、「ああ、もう無理だ」と諦めるのは早いです。
白紙で出すことなく、文脈から解釈したことを泥臭く表現する姿勢を忘れないでください。
そうして得られた1点が、合否の分水嶺になることもあります。

まず、そもそも、「一時的あろうがなかろうが」というのは、何が一時的なのでしょうか。
一時的に(=臨時で)クオータ制を「実施する」という意味でしょうか。
それとも、一時的な(=その場しのぎの)効果しかクオータ制はもたらさないという意味での「一時的」でしょうか。
私の日本語能力の問題なのかもしれませんが、どちらで取っても文脈上は問題ないように思えました。
実のところ、whether (it is) temporary or notというのは、こうした解釈を誤魔化すための書き方なのです。
ですが、temporaryという単語がサクッと出てこないのであれば、本文の核心に迫ることで代替案を絞る出す必要が出てきます。

仮に、「一時的に」を単なる実施期間の長短の話として捉えるならば、

  • whether it is a short-term measure or not
  • whether we introduce the system in the short term or not
  • regardless of the implementation period(実施期間)
  • regardless of how long it takes

あたりが代替候補として浮かび上がってきそうです。

では、一時的にを「その場しのぎ」「次善の策」「抜本的な解決策ではない」と捉えたなら、どうでしょうか。

  • whether it is not the best option
  • whether it is a fundamental(またはdrastic) measure or a stopgap(その場しのぎ) measure
  • whether it can solve the problem drastically or not
  • whether we can solve the problem completely with this system or not

といった具合に、書き換えることもできそうです。

なお、ここまで、whetherを当たり前のように使ってきましたが、「たとえ一時的な解決策だったとしても」「たとえ抜本的な問題解決を図れなかったとしても」などとパラフレーズし、

  • even if it is a short term solution
  • even if we can’t solve the problem drastically(またはcompletely

と書いて、「一つの有効な手段であって」の後ろに持ってくるのも一案です。

いかがでしたか。
「それが一時的であろうがなかろうが」という短い表現1つをとっても、これほどまでに代案を紡ぎ出すことができるんです。
先生が黒板に書いた美しい解答例をノートに取ったところで、それは美術館で芸術鑑賞に浸ったのと変わりはありません。
「すごいな〜。いつか、こんな英文を書いてみたいな〜」で終わりです。
大切なのは、自分の頭の中に入っている知識を総動員させて、1点でも多くもぎ取るガッツです。

さて、残る「一つの有効な手段であって」について見ていくとしましょう。
ここは、シンプルに

  • an effective way(means/measure)
  • an effective way(means/measure) to solve the problem
  • one of effective ways to solve the problem

などと訳せば良いでしょう。
なお、下線部では、クオータ制は「有効な手段であって」「〜解消することを目的としている」と似たような内容が2回に渡って書かれています。
日本語の文章通りに、二回に分けて訳出するのがオーソドックスだとは思いますが、まとめて1つにした上で書くのもアリだとは思います。
ただ、その場合、「迅速に」をどこに書くか頭の使いどころだとは思います。
後述する「これなら私にも書けるかもの答案例」で一案を示したいと思います。

いかがでしたでしょうか。
正直、あまりエレガントではない表現もあったかと思います。
ですが、試験会場でパニックを起こしている時に何も思いつかないのであれば、中学レベルの英単語を組み合わせてみたり、下線部を思いっきり意訳して、もっとも主張したい「核」のところだけ端的かつ明瞭に書いて1点でも多く稼ぐスタンスは重要です。

これまで模範答案を眺めて「すごいね!こんなの書けたらいいね!」という感想だけで学習を終えられていた方は、ぜひ、頭の中に入っている知識を駆使できるように、与えられた日本語文を英訳しやすいように別の日本語に言い換える和作文を実践してください。
言い換えに際しては、小難しく考えるのではなく、5歳児に説明するくらいの気持ちで、日本語の語彙レベルを落として言い換えてみると良いでしょう。
我々の脳内にストックされている日本語の語彙数に比べ、英語の語彙数は微々たるものなわけですから、ストレートに英訳できないことは多々あります。
そうした問題を解決するのが、与えられた日本語文を英訳しやすいように加工する技術なのです。

和文英訳というと、日本語→英語にダイレクトに訳されることをイメージされる方が多いと思いますが、日本語→日本語→英語というプロセスを経ることで難易度の高い英文にも怖気つくことなく冷静に英訳を試みる勇気が芽生えてきます。
この手法は、第一線でご活躍されている翻訳家や同時通訳者の方も多用されているようです。
ぜひお試しください。

長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている、の英訳を泥くさく考察してみた

このパートこそ、和作文の本髄を発揮すべきでしょう。
「根付いてしまった」などという表現は普通の単語帳にも熟語帳にもそのままの形では載っていません。
もちろん、have taken rootといった具合にさらっとエレガントな答えを書ける方も世の中にはいらっしゃいます。
正直、すごくカッコよく思えます。
でも、羨ましがるだけではいけません。
まず、「長い時間の中で根付いてしまった不平等」というパートは、ベタに考えれば、「不平等 (関係代名詞) 根付く 長い時間の間で」という語順の構文が思い浮かぶでしょう。
ですが、「根付く」をうまく言い換えられなければ構文が浮かんだところで答案は書けません。
「根付く」とはなんなのかというと、それだけ「長く続いてきた」と言い換えることもできそうですし(つまり、下線部の「長い時間の中で」を同義反復的に強調しているだけ)、「長期にわたる深刻な問題」と捉え直すこともできそうです。
視点を変え、「長きにわたって私達が闘ってきた」「長い年月を経て、この不平等は解決することが難しくなってしまった」と言い換えても文脈上は問題なさそうです。

このように捉えるならば、「長い時間の中で根付いてしまった不平等」は

  • long-standing unfairness(またはinequalities)
  • deep-seated unfairness(またはinequalities)
  • deeply-rooted unfairness(またはinequalities)

のように形容詞句をunfairness(inequalities)に修飾させるシンプルな形に帰着させたり

  • over the years, solving gender inequalities has become increasingly difficult
  • we have been dealing with these inequalities for a long timeover a long period of timeover timefor a while nowでも可。nowa whileを強調しているだけ)
  • it has become difficult to solve the inequalities over a long period of time

のように文構造を大きく変えてみたり

  • gender inequalities that have made us suffer for a long time
  • gender inequalities that tortured us for a long time

のように、関係代名詞を用いてシンプルに表現することも出来そうです。

 

次に、「迅速に解消することを目的としている」について見ていくとしましょう。
まず、「迅速に解消」については「迅速に解決」と考えることもできそうですが、「長い時間の中で根付いてしまった不平等」をどのように訳したかによっても工夫が必要になります。
たとえば、deep-seated unfairnessgender inequalities that have made us suffer for a long timeと訳したのであれば、unfairnessgender inequalitiesの直前にquickly solvequickly eliminateあたりを持ってくることも可能となりましょう。
その一方で、we have dealing with gender inequalities for a long timeのように文章構造を大きく変えてパラフレーズしたならば、以下のような工夫は必要となりそうです。

(工夫例)

  • We have dealing with gender inequalities for a long time, and the purpose of this quota system is to solve the inequalities.
  • We have dealing with gender inequalities for a long time, and this quota system will contribute to the solution of such inequalities.

多少のニュアンスは変わるかもしれませんが、本筋からはズレていないと思います。
ここで大切なことは、与えられた課題文を読み込み、試験会場で思い出せる英語表現でなんとか答えを紡ぎ出す姿勢です。
パッと見て分からなくても、わかるように下線部分を加工する工夫こそ、東大和文英訳制覇の極意なのです。

それが達成されたあかつきには、の英訳を泥くさく考察してみた

下線部のなかでは、最も訳しやすいパートだと思われますが、意外に生真面目な方ほど、逐語訳を試みようとして苦戦されたようです。
たとえば、「あかつき」なんていう訳はそのままの形で単語帳に載っているわけではありません。
これは東大教授が仕掛けた「ワナ」です。
東大の和文英訳は、受験生の構文力向上を意図してつくられたような教育学的配慮がなされた問題なのではなく、英訳されることを想定していない一般書籍などから抜粋した入試選抜問題です。
ですので、上手く訳せないと感じる言葉は必ず1つや2つはあります。
そうした時には、本当にその言葉が文全体の核心を突いたもの、つまり無理してでも訳出しなくてはならない語句なのかを考えるようにしましょう。たとえば、

  • 「じゃぶじゃぶと」汚れたシャツをしっかり洗った
  • 俺「っち」はなんとしても東大に行きたいんだ!
  • 「えっと」僕には到底理解できない

上記の「」内の言葉に何か意味があるのかというと、たいして英訳する価値はないはずです。
仮に、それを訳さなかったことにより減点を喰らうなんていう馬鹿げたことがあったとしても、その表現を考える時間と天秤にかけた場合、私なら1点減点の方が遥かに良いとさえ思えます。
書きたいことをなんでも書くというより、確実に書けることをミスなく短時間で書き上げるチカラの方が、東大英語では重要なのです。

 

さて、本問に話を戻しましょう。文脈から考えれば、「それが達成されたあかつきには」は、

  • それが達成された際には(時には)
  • それが達成されたならば

と考えることができそうです。最も思いつきやすそうなのはwhenでしょうか。
「達成」についてはachieveaccomplishを用いれば良いとは思いますが、仮にこれらの英単語が思いつかなければ、直前で訳出した「不平等を迅速に解消」の部分の表現を再度ここでも用いれば良いでしょう。
たとえば、when such unfairness is eliminatedやwhen such inequalities are solvedといった具合にです。

以上より、このパートは

  • when we can achieve the goal
  • when the goal is achieved
  • when they are solved(不平等をinequalitiesと複数形で表していたら。unfairnessならwhen it is solved)
  • when such unfairness is eliminated
  • when gender inequalities are solved
  • once those inequalities are solved

のように訳せば良いでしょう。

クオータ制は,まさに平等の原理に照らして廃止することもできる、の英訳を泥くさく考察してみた

いよいよラストのパートです。
このパートで苦戦する部分と言えば、「照らして」の訳出でしょうか。
その他、意外に「廃止する」の単語を試験会場でド忘れしたあり、「原理」がprincipleなのかprincilpalなのか焦りで分からなくなったなんていう人も一定数いたかもしれません。
私にもそうした経験があって、むかし何人もの先生に相談に行ったんです。
すると、「そんな単語も思い出せないなんて東大受験する資格なし」とか「気合いが足りないからだ」と馬鹿にされたり怒られたりと散々でした。
まあ、確かに、その頃の私は基礎がなっていなかったんだとは思いますが、東大模試で1位を取った人でも同じような状況に陥ることがあることを知った時には、自分だけじゃないんだと安堵したものです。

その時の経験から、泥臭く言い換え表現を探して、なんとか答えを紡ぎ出す戦略を考えるようになったのです。
英語がものすごく出来る人からすればバカバカしいと思われるかもしれませんが、激戦の東大入試ではエレガントさよりも泥臭く1点を稼ぎ出す姿勢が合格を引き寄せると感じています。
ぜひ、試験終了の鐘が鳴り終わるまで諦めないでください。
そして、アリンコが恐竜に打ち勝つためには優れた戦略を打ち立てる他ないと思っています。
ぜひ、敬天塾の過去問データベースや知恵の館記事などから貪欲にノウハウを学んでいってください。

 

では、中身について見ていくとしましょう。
まず、「まさに平等の原理に照らして」の部分ですが、カッコよく述べるなら、in light of the very principle of equalityとなります。
ただ、こうした高級な表現をさらっと書けるんなら苦労はないよ、とボヤいている受験生もいることでしょう。
そんな方のために、さっそく和作文タイムです。

「平等の原理に照らして」というのは、
「平等の原理を追求して」
「平等の原理の観点から」とか
「平等を追い求めて」とか
「平等の原理を尊重すべく」とか
「平等の原理のために」とか
「平等の観点から」
といった具合に言い換えることができそうですね。
ともなれば、

  • in (the) pursuit of equality(the principle of equality)
  • in terms of equality(the principle of equality)
  • to pursue equality
  • to respect the principle of equality
  • for the principle of equality

のように書き換えることができそうですね。

そして、最後に「廃止することもできる」についてです。
文構造としては、the quota systemを主語にすれば受動態になるわけですが、weを主語にするような書き方も可能です。
「廃止する」の訳語については、abolishが思いつけばベストではありますが、思いつかなければget rid ofdo away withといった熟語で代用することも可能でしょうし、「クオータ制を導入する方針をやめる」「クオータ制を代える」といったように別の表現に変えてしまうのもアリだと思います。

たとえば、

  • we can change the policy of introducing the quota system
  • we can replace the quota system
  • we can do away with (get rid of) the quota system
  • we can stop introducing the quota system

のように表現することは可能だと思います。

いかがでしょうか。
もちろん、abolishin light ofが使えると気づいた方が圧倒的に早く答案作成ができますので、日頃から多くのフレーズに触れ、語彙力増強に努めていただきたいところではありますが、それでもやはり緊張や焦りでド忘れすることはあります。
本稿を通じて、泥くさく考察することで別の切り口からも答案を紡ぎ出すことができるんだということを実感していただけたなら、こんなにも嬉しいことはありません。
英作文は数学に似ていると映像授業のなかで申し上げましたが、試行錯誤のなかで格闘する過程は、まさに数学そのものだと私は感じております。

今年の東大文系数学第2問では対数が出題されましたが、あれをエレガントな式変形なしに全部小数に直して気合いで答えを出しきった猛者がいるそうです。
本人曰く「数弱をなめるなよ」だそうですが、それで20点を稼ぎ出せたわけですから、すごいですよね。この姿勢が合格を引き寄せるのだと改めて思いました。

 

さて、以上、4つのパートに分けて分析考察を重ねてきましたが、各パートで申し上げた表現を組み合わせれば答案骨格は出来上がります。
その上で、英作文7つの大罪(https://exam-strategy.jp/archives/10835)や映像授業のなかでもお伝えしたように、時制や三単現のsなどに注意しつつ、スペルミスやピリオド付け忘れといったポカミスを犯さないように最後の仕上げを細心の注意を払ってしていきましょう。
決して最後の最後まで油断はしないでください。
人はミスを犯す動物だという認識のもと、何度も何度も見返しましょう。

 

それでは、ここで、いくつかの答案例を示したいと思います。

これなら私にも書けるかもと思わせてくれる答案例

① The quota system is an effective way to quickly solve gender inequalities that have made us suffer for a long time. When the goal is achieved, we can do away with the quota system for the principle of equality.

② The quota system is an effective means whether it is a short-term measure or not. We have been dealing with gender inequalities for a long time, and the purpose of this quota system is to solve such inequalities. When gender inequalities are solved, we can do away with the quota system to pursue equality.

 

こんなのを書いてみたいと思わせてくれる答案例

The quota system, whether temporary or not, is an effective measure to quickly solve gender inequalities deeply rooted in the society over a long period of time. When the goal is achieved, the quota system can be abolished in light of the principle of equality.

 

いま話題のchatGTPが考えた答案例

① The quota system, whether temporary or not, is intended as an effective means to swiftly address long-standing inequalities that have become entrenched over time. Once that objective is achieved, the quota system can indeed be abolished in accordance with the principle of equality.

② The quota system, whether it is a temporary measure or not, remains an effective means. Its purpose is to quickly resolve long-standing inequalities that have become difficult to address over time. If the goal of resolving inequality is achieved, the quota system can also be abolished in order to promote equality.

なお、chatGTPに関しては、以下の記事もよろしければご覧ください。

いま話題のAI学習システム chatGTPは東大対策に有効!?

 

ちなみに、gender inequalitiesといったように基本的にinequalitiesを複数形で表記してきましたが、NGRAM上では近年、gender inequalityのほうがメジャーになっているようです。

解きっぱなしで終わらせない。2024東大英語2Bの復習用重要表現集

今年度の問題で、「クオータ制」が取り上げられたこともあり、せっかくですから有益な表現を皆様に吸収していただければと願っております。

自分らしく生きたい(I want to be myself./I want to stay true to myself. /I want to live my own life.など)と願ったことは、誰もが1度はあるのではないでしょうか。
私は、1人1人が自分らしく生きられることが多様性(diversity)の本質だと考えています。

以下のリンク先でも、多様性の定義について学生さんが各々の想いを語られていますので、ぜひネタストックの一助となさってください。

https://www.law.virginia.edu/news/201602/what-diversity-means-me

 

人種(race)、信条(creed)、性別(sex)、社会的身分(social status)、門地(family origin)など、生まれもったもので差別(discrimination)を受けるのは基本的人権の侵害(violation of fundamental human rights)に他なりません。ノーベル経済学賞(Nobel prize in economics)を受賞したAmartya Sen博士は、貧困(poverty)の本質を次のように問うています。

Poverty is not just a lack of money; It is not having the capability to realize one’s full potential as a human being.
(貧困は単にカネがないことを意味しているのではない。人間として自分の能力を十全に開花することのできる機会を持てていないことを意味するのだ)
こうして、Sen博士は、貧困の本質を、deprivation of basic capabilities(自己実現を果たす機会が奪われている状態)だと定義しました。

このように捉えるなら、アパルトヘイトと闘った英雄Nelson Mandera氏の以下の名言がまた違って見えてくるのではないでしょうか。
Overcoming poverty is not a gesture of charity.  It is the protection of a fundamental human right, the right to dignity and a decent life.
(貧困の解決は、施しなんかではない。人としての尊厳やまともな暮らしを送れる権利といった基本的人権の保護に本質があるのだ)

ジェンダー(gender)の問題はSDGsの目標としても掲げられています。
ただ、本年の東大2Bの問題文にもあったように、非常に根深い問題で(deeply rooted)、どうやって解決したら良いのか世界中で議論がかわされています。
その一つの策がクオータ制(the quota system)なのです。アメリカのヒラリー・クリントンが、女性が社会でどんなに活躍して頑張っても、目に見えないガラスの天井(glass ceiling)が行く手を阻むと述べたことがあります。

I know we have still not shattered that highest and hardest glass ceiling, but someday someone willーand hopefully sooner than we might think right now.  
(私達がいまなお、あの最も高い位置にある最も硬いガラスの天井を打ち破ることができていないことを私は知っています。
ですが、いつの日か、誰かが打ち破ってくれることでしょう。
願わくば、私たちが考えるよりも早くに実現してくれたなら。)

And to also the little girls who are watching this, never doubt that you are valuable and powerful and deserving of every chance and opportunity in the world to pursue and achieve your own dreams.
(これを見ている全ての女の子たちへ。
あなた方は価値ある人で、力強さも持ち、自分の夢を追い求め叶えるために世の中のありとあらゆるチャンスがあなた達には与えられてるのだということを決して疑わないでください。)

と述べたのでした。

性別は当人が自分の意思で選んだものではありません。
自分の意思で選択し行動を起こした結果ではないものに対して、有形無形の責任を負わせるというのは、まさしくSen博士が述べるところのdeprivation of basic capabilitiesに他なりません。
東京大学(the university of Tokyo)は、男女共同参画室(office for gender equality)を立ち上げ、ジェンダー平等の実現に向け様々な方針を打ち出しています。
一人一人が自分らしく生きられる社会の実現のために行動を起こし始めているのです。

もっとも、かつてアメリカで黒人やヒスパニック系住民への実質的な差別待遇を是正するために採られたアファーマティブ アクション(affirmative action)の問題が必ず反対意見として出されます。
1960年代のアメリカでは、この政策によって、白人が入試や採用試験において不利に扱われる逆差別(reverse discrimination)が問題となり、ものすごい論争になりました。
東京大学英語部会は、こうした懸念も勘案した上で、「それが達成されたあかつきには,クオータ制は,まさに平等の原理に照らして廃止することもできる。」という言葉を添えたのでしょう。

なお、この問題は、公平(equity)と公正(equality)の話にも通じるものがあります。ここで、せっかくですから、敬天塾から東大合格を果たされた方の授業内演習における答案を一つご紹介しましょう。

Equality can be defined as giving everyone equal opportunity, while equity refers to giving everyone equal outcome. The problem is fairness really only works when everyone is all the same to start out with. Of course it’s not the case; everyone is different. Affirmative action in education helps colleges promote diversity and take steps toward greater equity in admissions. However, at the same time, it can serve as a reverse discrimination; ironically it leads to problems more than it has solved.(80 words)

いかがでしたでしょうか。
東京大学にご進学されたのちも、ジェンダー問題について授業やゼミで考えさせられる機会が数多くあります。
様々な考えや解釈があって良いと思います。
ぜひ、一人一人が自分らしく生きられる社会の実現に向けて、皆様のお知恵や情熱を活かして欲しいなと切に願っております。

東大和文英訳対策 類題演習題材のご紹介〜入試問題良問選〜

本稿の冒頭でも申し上げた通り、世の中には和文英訳の問題は腐るほどあるも、東大の和文英訳に類似した問題はなかなか入手できません。
そこで、東大受験生の皆様が少しでも和作文の訓練ができるよう、他大学の過去問をピックアップしてご紹介したいと思います。

次の文章を英訳しなさい。

かつての自分の同時に無知と愚かさを恥じることはよくあるが,それは同時に,未熟な自分に気づいた分だけ成長したことをも示しているのだろう。逆説的だが,自分の無知を悟ったときにこそ,今日の私は昨日の私よりも賢くなっていると言えるのだ。まだまだ知らない世界があることを知る,きっとこれが学ぶということであり,その営みには終わりがないのだろう。

京都大学2024

(敬天塾コメント)

やはり京都大学は重たい和文英訳を出してきますね。
「未熟な自分」や「営み」といった表現は、まさに和作文しなければ英訳できないですね。
京大はリスニングや物語文や正誤問題といった問題がない分、一題一題がとてつもなく歯ごたえのある問題で構成されており、その分、学びも多いと言えます。
ちなみに、東京大学が自由英作文の出題数を減らして20年ぶりに和文英訳を復活させた2018年に、京都大学はその反対に和文英訳の代わりに自由英作文をいきなり2題構成で出題しました(翌2019年には早々に和文英訳を復活させましたが)。
両大学は入試問題づくりにおいても実に興味ふかい共通点や相違点がありますので、時間が許す限り5年分くらいは各教科で目を通しても良いと思います。
なお、東大2022〜2023過去問実況中継のなかでも、良質な類題をご紹介しておりますので、併せてご参照ください。

下線部の意味を英語で表しなさい。

  たとえば,「そもそも,人間は他人の心を理解できるのだろうか?」とか,「そもそも,他人を理解するとは,いったいどんなことか?」。あるいは,「そもそも,他人に心があるとどうして分かるのか?」。

  こうした疑問は時間がたつにつれて,ふつうは忘れ去られてしまうようです。とはいえ,忘れたからといって,疑問が解決されたわけではありません。時々は,思い出したり,疑問が広がったりするのではないでしょうか。

  実を言えば,いつの間にか忘れてしまった「そもそも」問題を,あらためて問い直すのが「哲学すること」に他なりません。哲学は, 過去の哲学者の学説を知るのが目的ではありません。

大阪大学2024

(敬天塾コメント)

今度は、大阪大学の2024から良問をご紹介いたします。
こちらは、京大以上に、和作文が必要そうです。
「そもそも問題」「哲学すること」・・このあたりは、直に英訳することはできません。
日本語と英語が1対1対応していないことがよくわかる問題です。
お時間のある方は、ぜひ京大や阪大の問題にもチャレンジなさってください。きっと多くの学びを得られることでしょう。

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