2024年東大英語(第2問B 和文英訳)入試問題の解答(答案例)・解説
目次
- 2024年東京大学 英語 2B和文英訳 問題
- 【東大英語2B和文英訳総括】
- 2024-2B和文英訳 所感
- 思考プロセス
- 「クオータ制は,それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって」の英訳を泥くさく考察してみた
- 「長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている」の英訳を泥くさく考察してみた
- 「それが達成されたあかつきには」の英訳を泥くさく考察してみた
- 「クオータ制は,まさに平等の原理に照らして廃止することもできる」の英訳を泥くさく考察してみた
- これなら私にも書けるかもと思わせてくれる答案例
- こんなのを書いてみたいと思わせてくれる答案例
- いま話題のchatGTPが考えた答案例
- 解きっぱなしで終わらせない。2024東大英語2Bの復習用重要表現集
- 東大和文英訳対策 類題演習題材のご紹介〜入試問題良問選〜
- 【さらに深く学びたい方のために】
2024年東京大学 英語 2B和文英訳 問題
以下の下線部を英訳せよ。
政治の世界でのクオータ制(quota system) は, 議員の構成と, 彼らが代表する集団全体の構成とが適切に対応することを目指す制度である。 また企業などの民間の組織においても, 例えば意思決定に関わる役員職に女性が一定の割合を占めることが求められている。 そのような仕組みが本当に平等につながるのか賛否両論の声も聞かれるが, 現状では多くの社会において, 何かしらこのような制度により, 不平等を是正する必要が生じている。
クオータ制は、それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって, 長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている。それが達成されたあかつきには, クオータ制は, まさに平等の原理に照らして廃止することもできる。
【東大英語2B和文英訳総括】
2018年に20年ぶりに復活した和文英訳問題ですが、本年度も2Bで登場しました。
皆さんは、和文英訳と聞いた時に、どのようなスキルが求められるとお考えですか。
2024-2B和文英訳 所感
速報記事(https://exam-strategy.jp/archives/20202)でも申し上げたように、極めてメッセージ性の強い文章が選ばれました。
2018年に和文英訳が華麗なる復活を遂げて以来、旅やら外国語習得やら、どこの大学でも見かけるような当たり障りのないテーマが問題として選ばれてきました。
年々、歯ごたえが増してきているなとは感じましたが(2018が簡単すぎました)、京都大学や大阪大学のようなインパクトは然程ありませんでした。
そうしたなか迎えた2024年度入試で出されたお題が、クオータ制なのです。
クオータ制について本稿で詳しく説明することは控えますが、
東工大が2024年度入試から女子枠を新設したり、
東大英語部会が多様性を全面に打ち出した教科書大改訂を行なったり(http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/eigo/publication2.html)、
東大英語部会の恩師でもある矢口祐人教授が2024年2月に『なぜ東大は男だらけなのか』(集英社新書)を世に出したり、
女性教員を増員させる方針を東京大学が新たに発表したりと、
なぜ本問が2024年度入試で出題されたのか、とても偶然の一致とは思えません。
今年の和文英訳の文章には出典が明示されていないことから、おそらく東大教授がオリジナルで作成した文章だと思われます。
そのことからも、東大受験生に限らず多くの人が目にする東大入試問題を通じてクオータ制の意義を啓蒙しようと意図されたように思えます。
ちなみに、林 香里東大副学長のインタビュー記事も学びがあると思いますので、リンクを掲載いたします。https://www.todaishimbun.org/keyperson_20210910
1A英文要約では、2024年11月5日に行われるアメリカ大統領選挙を意識してかマスコミによる偏向報道といったプロパガンダによって政治が歪んでいる時勢を憂い、1B文挿入問題でもジャーナリズムの話が登場し、
第5問ではアメリカの根深い人種差別の話が登場(アメリカにおける人種の分断を憂いたのかもしれません)し、
そして2B和文英訳ではクオータ制の話が登場するなど、まるで東大教養学部の授業を聞いているようにも思えました。
入試問題を通して、受験生と「対話」するばかりか、東大入試問題に興味関心を持つ全国の高校生や一般市民に「問いかけ(啓蒙)」をしているのではないかと強く感じました。
さて、作問背景についての考察はこれくらいにして、下線部そのものに目を向けるとしましょう。
今年度の特徴として、英訳すべき分量がここ数年では最も多かったと言えます。
訳しづらさという点では、「根付いてしまった」「あかつきには」「照らして」あたりの適訳を試験会場でうまく思いつけなかった受験生もいたことでしょう。
ただ、日本語で書かれたものを機械的に訳すのが和文英訳の意味するところではありませんから、文脈に矛盾がない限りで問題文を英訳しやすいように言い換えすることが重要です。
こうした和作文を施せば、今年度の2Bも容易に解き切ることができたでしょう。
エレガントな解答例ばかりを目にしていては決して体得できないスキルですので、敬天塾の過去問解説で存分にノウハウを学ばれてください。
思考プロセス
問題文を再掲します。
以下の下線部を英訳せよ。
政治の世界でのクオータ制(quota system) は, 議員の構成と, 彼らが代表する集団全体の構成とが適切に対応することを目指す制度である。 また企業などの民間の組織においても, 例えば意思決定に関わる役員職に女性が一定の割合を占めることが求められている。 そのような仕組みが本当に平等につながるのか賛否両論の声も聞かれるが, 現状では多くの社会において, 何かしらこのような制度により, 不平等を是正する必要が生じている。
クオータ制は、それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって, 長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている。それが達成されたあかつきには, クオータ制は, まさに平等の原理に照らして廃止することもできる。
下線部を句読点などでざっくり区切ってみますと、主に4つのパートに分けられましょう。
① クオータ制は,それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって
② 長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている
③ それが達成されたあかつきには
④ クオータ制は,まさに平等の原理に照らして廃止することもできる
とあります。
①と②は一文でまとめることもできそうですが、本稿では敢えて分けて考察を試みたいと思います。
なお、多くの受験生は下線部だけ読んで英訳を試みるわけですが、なぜに東大側が下線部前後の文章を載せているのか考えてみてください。
それは、訳しづらい箇所が出てきた時にヒントにして欲しいという思いを込めているからです。
4A正誤でも、4B英文和訳でも、5の物語文でも下線の所だけ拾い読みする受験生が多くいますが、東大教授も作問にあたり、そうした受験生の存在を想定してワナを仕掛けています。
2Bについては、確かに下線部だけ読めば何とかなることも多いのですが、2020年2Bの「まゆつばもの」のように、下線部以外のワードから適切な訳語を類推しなければならない設問も出されますので臨機応変に問題文を活用しましょう。
なお、東大や京大の2Bでは堅い文体で旅や人生訓などありがたいお話がよく出されますので、文意を正確に把握するためにも日本語の語彙力を磨くことも忘れないようにしましょう。
東大入試では、全教科的に国語力が高度に求められているからです。
また、人生訓の英訳訓練を京大や阪大あたりの過去問も使いながら訓練しましょう。
それでは、①〜の順に見て行くとします。
「クオータ制は,それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって」の英訳を泥くさく考察してみた
まず、「クオータ制」は本文でquota systemとありますので、それをそのまま書けば良いわけですが、冠詞をつけることを忘れないようにしましょう。
2002-2Aでも「能力別クラス編成」についてranking systemとご親切に訳語を添えてくださっていましたが、冠詞を何もつけずにそのまま使っていた答案が腐るほどあったと言われています。
本問で言えば、quota systemは固有名詞だと言えますので、aではなくtheをつければ良いでしょう。
次に、このパートで最も差がつくのが「それが一時的であろうがなかろうが」の部分です。
英語力のある方なら、さらっと、whether (it is) temporary or notと訳せるでしょうが、temporaryが思いつかなかった受験生だって一定数はいたはずです。
その時に、「ああ、もう無理だ」と諦めるのは早いです。
白紙で出すことなく、文脈から解釈したことを泥臭く表現する姿勢を忘れないでください。
そうして得られた1点が、合否の分水嶺になることもあります。
まず、そもそも、「一時的あろうがなかろうが」というのは、何が一時的なのでしょうか。
一時的に(=臨時で)クオータ制を「実施する」という意味でしょうか。
それとも、一時的な(=その場しのぎの)効果しかクオータ制はもたらさないという意味での「一時的」でしょうか。
私の日本語能力の問題なのかもしれませんが、どちらで取っても文脈上は問題ないように思えました。
実のところ、whether (it is) temporary or notというのは、こうした解釈を誤魔化すための書き方なのです。
ですが、temporaryという単語がサクッと出てこないのであれば、本文の核心に迫ることで代替案を絞る出す必要が出てきます。
仮に、「一時的に」を単なる実施期間の長短の話として捉えるならば、
- whether it is a short-term measure or not
- whether we introduce the system in the short term or not
- regardless of the implementation period(実施期間)
- regardless of how long it takes
あたりが代替候補として浮かび上がってきそうです。
では、一時的にを「その場しのぎ」「次善の策」「抜本的な解決策ではない」と捉えたなら、どうでしょうか。
- whether it is not the best option
- whether it is a fundamental(またはdrastic) measure or a stopgap(その場しのぎ) measure
- whether it can solve the problem drastically or not
- whether we can solve the problem completely with this system or not
といった具合に、書き換えることもできそうです。
なお、ここまで、whetherを当たり前のように使ってきましたが、「たとえ一時的な解決策だったとしても」「たとえ抜本的な問題解決を図れなかったとしても」などとパラフレーズし、
- even if it is a short term solution
- even if we can’t solve the problem drastically(またはcompletely)
と書いて、「一つの有効な手段であって」の後ろに持ってくるのも一案です。
いかがでしたか。
「それが一時的であろうがなかろうが」という短い表現1つをとっても、これほどまでに代案を紡ぎ出すことができるんです。
先生が黒板に書いた美しい解答例をノートに取ったところで、それは美術館で芸術鑑賞に浸ったのと変わりはありません。
「すごいな〜。いつか、こんな英文を書いてみたいな〜」で終わりです。
大切なのは、自分の頭の中に入っている知識を総動員させて、1点でも多くもぎ取るガッツです。
さて、残る「一つの有効な手段であって」について見ていくとしましょう。
ここは、シンプルに
- an effective way(means/measure)
- an effective way(means/measure) to solve the problem
- one of effective ways to solve the problem
などと訳せば良いでしょう。
なお、下線部では、クオータ制は「有効な手段であって」「〜解消することを目的としている」と似たような内容が2回に渡って書かれています。
日本語の文章通りに、二回に分けて訳出するのがオーソドックスだとは思いますが、まとめて1つにした上で書くのもアリだとは思います。
ただ、その場合、「迅速に」をどこに書くか頭の使いどころだとは思います。
後述する「これなら私にも書けるかもの答案例」で一案を示したいと思います。
いかがでしたでしょうか。
正直、あまりエレガントではない表現もあったかと思います。
ですが、試験会場でパニックを起こしている時に何も思いつかないのであれば、中学レベルの英単語を組み合わせてみたり、下線部を思いっきり意訳して、もっとも主張したい「核」のところだけ端的かつ明瞭に書いて1点でも多く稼ぐスタンスは重要です。
これまで模範答案を眺めて「すごいね!こんなの書けたらいいね!」という感想だけで学習を終えられていた方は、ぜひ、頭の中に入っている知識を駆使できるように、与えられた日本語文を英訳しやすいように別の日本語に言い換える和作文を実践してください。
言い換えに際しては、小難しく考えるのではなく、5歳児に説明するくらいの気持ちで、日本語の語彙レベルを落として言い換えてみると良いでしょう。
我々の脳内にストックされている日本語の語彙数に比べ、英語の語彙数は微々たるものなわけですから、ストレートに英訳できないことは多々あります。
そうした問題を解決するのが、与えられた日本語文を英訳しやすいように加工する技術なのです。
和文英訳というと、日本語→英語にダイレクトに訳されることをイメージされる方が多いと思いますが、日本語→日本語→英語というプロセスを経ることで難易度の高い英文にも怖気つくことなく冷静に英訳を試みる勇気が芽生えてきます。
この手法は、第一線でご活躍されている翻訳家や同時通訳者の方も多用されているようです。
ぜひお試しください。
「長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている」の英訳を泥くさく考察してみた
こちらのページでは省略しております。映像授業【東大英語第2問B 和文英訳】に入れております。
「それが達成されたあかつきには」の英訳を泥くさく考察してみた
こちらのページでは省略しております。映像授業【東大英語第2問B 和文英訳】に入れております。
「クオータ制は,まさに平等の原理に照らして廃止することもできる」の英訳を泥くさく考察してみた
こちらのページでは省略しております。映像授業【東大英語第2問B 和文英訳】に入れております。
それでは、ここで、いくつかの答案例を示したいと思います。
これなら私にも書けるかもと思わせてくれる答案例
① The quota system is an effective way to quickly solve gender inequalities that have made us suffer for a long time. When the goal is achieved, we can do away with the quota system for the principle of equality.
② The quota system is an effective means whether it is a short-term measure or not. We have been dealing with gender inequalities for a long time, and the purpose of this quota system is to solve such inequalities. When gender inequalities are solved, we can do away with the quota system to pursue equality.
こんなのを書いてみたいと思わせてくれる答案例
The quota system, whether temporary or not, is an effective measure to quickly solve gender inequalities deeply rooted in the society over a long period of time. When the goal is achieved, the quota system can be abolished in light of the principle of equality.
いま話題のchatGTPが考えた答案例
① The quota system, whether temporary or not, is intended as an effective means to swiftly address long-standing inequalities that have become entrenched over time. Once that objective is achieved, the quota system can indeed be abolished in accordance with the principle of equality.
② The quota system, whether it is a temporary measure or not, remains an effective means. Its purpose is to quickly resolve long-standing inequalities that have become difficult to address over time. If the goal of resolving inequality is achieved, the quota system can also be abolished in order to promote equality.
なお、chatGTPに関しては、以下の記事もよろしければご覧ください。
ちなみに、gender inequalitiesといったように基本的にinequalitiesを複数形で表記してきましたが、NGRAM上では近年、gender inequalityのほうがメジャーになっているようです。
解きっぱなしで終わらせない。2024東大英語2Bの復習用重要表現集
こちらのページでは省略しております。映像授業【東大英語第2問B 和文英訳】に入れております。
東大和文英訳対策 類題演習題材のご紹介〜入試問題良問選〜
こちらのページでは省略しております。映像授業【東大英語第2問B 和文英訳】に入れております。
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