2024年(令和6年)東大英語を当日解いたので、所感を書いてみた。
目次
【東大英語総論】
【科目全体の所感】
総合難易度 昨年並み
2024年度入試では、新傾向の問題が出ることはありませんでした。
マーク式の設問数も昨年度と同じ33問でした。
2022〜2023の過去問探究をしっかりやってきた受験生にとっては、報われる問題セットだったと思われます。
英作文については、TOEFLの過去問で起案訓練をした受験生にとっては圧倒的に有利だったと思われます。
そのほか、リスニングについては、PART Bが聞き取りづらい音声だった点は昨年度と同様でしたので、ぜひ敬天塾東大英語2023実況中継解説シリーズも熟読されると学びが大きいと思われます。
第1問A 英文要約
難易度 標準
2021年以降、東大1Aの傾向が明らかに変化しています。
各段落の内容を繋ぎ合わせて字数を削れば「はい、出来上がり!」といった紋切り型の解法だと上手くまとめられなくなっているのです。
さて、2024年度の1Aについては、どうでしょうか。
結論から述べると、少しマイルドになったと言えます。
大衆心理の操作について述べられた文章で、第3段落では「広報・宣伝の父」と呼ばれるエドワード・バーネイズの名前も挙げられています。
彼は、戦争宣伝から商品の売り込みまで、ありとあらゆる宣伝活動に従事してきたことで有名です。
著作の『プロパガンダ』では、アメリカの広告業界が如何に国民を洗脳しているのか、その手口について詳しく書かれています。
私は、この文章を一読したとき、2018東大1A(デマに関する要約問題)の話を思い出しました。
ちなみに、今日の東大入試の少し前に行われた2024年慶應経済の英作文でShould the Japanese government take action to control the spread of disinformation?(日本政府はデマの拡散を規制するために行動を起こすべきか)という問題が出されたこともあり、実に興味深く今年の1A要約を読めました。
2024年慶應経済の第3問でも、デマに関する長文が出題されています。
多読用にでも是非ご一読なさってください。
さて、少し話が脱線してしまいましたが、2021〜2023の1Aに比べると、解答の方向性が明確で、さほど悩むことはなかったように思えます。
ただ具体例がいろいろと書かれている点は、昨年や一昨年とも類似しており、あれもこれも全部答案に盛り込もうとすると、すぐに字数オーバーになってしまったでしょう。
要素ばかりを盛り込むことに注力するのではなく、一体何を一番に伝えようとしているのか、「核」を先に考え、あとから肉付けしていくよう心がけてください。
第1問B 文挿入(段落整序)
難易度 標準
その上で、2024年度1Bに話をうつします。
本年度の文章量は昨年並みで、空所の数も変わらず5つ、そして並べ替え問題が1つあり、ダミーの選択肢は1つでした。
ダミーの選択肢については、2023年が2つ、2022年が1つ、2021年が3つでしたので、それらと比べると少ない方だったと言えます。
文中に隠されたヒントの数も例年と大差ありませんでした。
なお、長文が少し長くなっただけで拒否反応を示す方は、読解スタミナをつけるべく多読訓練を行うとともに、z会の名著『ディスコースマーカー英文読解』を読み込むなどして、要所要所で英文を深く読むかさらっと読むかのリズムを掴めるようにしましょう。
加えて、復習するに際して、一文一文を精読しようとしている受験生も一定数いるようですが、本問は構文解釈の題材ではありません。そこを勘違いして、一文一文を完璧に理解しようと試みると泥沼にハマることになります。
東京大学がなぜに文挿入の問題を第4問ではなく第1問に配しているのかを考えてみると糸口が見えてくるでしょう、
この1B文挿入(段落整序)ほど戦略が有効な大問はありません。
宣伝にはなりますが、過去問分析の方法や着眼点などを効率的に学ばれたい方は、ぜひ敬天塾の映像授業や過去問実況中継もご活用ください。
その上で、この2024年の1Bに再挑戦したとき、きっと、これまでとは比べものにならない視野の広がりを実感できることでしょう。
第2問A 自由英作文
難易度 標準
今年度は、次のような設問が出題されました。
以下の主張のいずれかを選び,その主張に対するあなたの考えを,理由を添えて,60〜80語の英語で述べよ。
「紙は人類の最も偉大な発明の一つである」
「自転車は人類の最も偉大な発明の一つである」
東大は近年、2018年(抽象的テーマ)→2019年(日常的テーマ)→2020年(抽象的テーマ)→2021年(日常的テーマ)→2022年(抽象的テーマ)→2023年(日常的テーマ)といった具合に、偶数年に抽象的なテーマを取り上げる傾向にありますが、今年度はわりと具体的なテーマで出題がなされました。
2020や2022のような恐ろしく書きづらい内容ではなかった点、ホッとした受験生も多かったことでしょう。
似たテーマでは、2018年に東北大学で人々の生活を変えた発明を1つ答えよという問題が出題されていますし、東大教授のネタ本と言われるTOEFL過去問では「自転車は人々の生活を変えたという考えについて論じなさい」と問われています(敬天塾の2A映像授業で配布しているTOEFL-TOPIC集NO.36を参照)。
敬天塾流の起案訓練をやっていた生徒からは、2分で解き終わったと嬉しい知らせもいただきました!
このような問題を前にした時、多くの受験生は動揺するわけですが、パターン別の解法をしっかり頭に叩き込めた人には点取り問題になったものと思われます。
つまり、事前準備の「差」が、得点の「差」になったと言えるのです。
凝った内容を書こうとしないことも、時間制約が厳しい東大英語においては大切な合格ポイントとなります。
せっかくですから、ここで、東大英作文の出題内容を概観してみるとしましょう。
今年度は、昨年のように過去問と類似した問題がそのまま出題されるラッキーな問題ではありませんでしたが、実は2001年に同じテーマの問題は出題されていました。
そこで、きちんと周辺知識を整理できた受験生にとってはサービス問題だったとのではないでしょうか。
正直、過去問などを通じて起案訓練をしてこなかった受験生にとっては、「紙の意義」やら「自転車の意義」と言われてもピンと来なかったかもしれません。
あまりに身近な ものすぎるからこそ、逆に難しく感じた受験生も多かったことでしょう。
紙の意義については、世界史選択者の方 が若干有利な気もしますが、小難しいことを書こうとせず、
歴史を記録できるとか、
口では直接伝えづらいことを 手紙の形で相手に伝えられるようになったとか、
身近な話題に持っていくことが、この手の問題では重要です。
そうした意味で、過去問を通じて、自分が得意な話に持っていく訓練をしたかどうかで試験会場での焦りの程度も変 わったものと思います。
第2問B 和文英訳
難易度 標準
2018年に20年ぶりの復活を遂げた和文英訳ですが、2024年度も変わらず出題されました。
一昔前の出題パターンもしっかりと確認することが東大英語制覇の極意だと言えます。まずは問題文をご覧いただくとしましょう。
以下の下線部を英訳せよ。
政治の世界でのクオータ制(quota system) は, 議員の構成と, 彼らが代表する集団全体の構成とが適切に対応することを目指す制度である。 また企業などの民間の組織においても, 例えば意思決定に関わる役員職に女性が一定の割合を占めることが求められている。 そのような仕組みが本当に平等につながるのか賛否両論の声も聞かれるが, 現状では多くの社会において, 何かしらこのような制度により, 不平等を是正する必要が生じている。
クオータ制は、それが一時的であろうがなかろうが一つの有効な手段であって, 長い時間の中で根付いてしまった不平等を迅速に解消することを目的としている。それが達成されたあかつきには, クオータ制は, まさに平等の原理に照らして廃止することもできる。
上記の下線部分を英訳させる問題です。
ここ数年、出題されてきた文章とは打って変わって、メッセージ性の強い内容になっています。
東京大学は2018年にも世界史大論述で女性史を出題し、2022年の東大英語第5問ではLGBTQに絡む文章を出題しました。
多様性を重視した東京大学らしい問題だと言えます。
今年度の2B和文英訳に関しても同様に言えるでしょう。
「根付いてしまった」「あかつき」「平等の原理に照らして」あたりを英訳するには、若干の工夫が必要そうですが、大阪大学や京都大学ほどではありません。
たとえば、2024の大阪大学であれば、下記のような味わい深い問題を出しています。
「そもそも」や「哲学すること」を直訳しようものなら、ペンが止まってしまうでしょう。
英訳しやすいように日本語文を加工する和作文の技術が東大以上に強く求められています。
下線部の意味を英語で表しなさい。
たとえば,「そもそも,人間は他人の心を理解できるのだろうか?」とか,「そもそも,他人を理解するとは,いったいどんなことか?」。あるいは,「そもそも,他人に心があるとどうして分かるのか?」。
こうした疑問は時間がたつにつれて,ふつうは忘れ去られてしまうようです。とはいえ,忘れたからといって,疑問が解決されたわけではありません。時々は,思い出したり,疑問が広がったりするのではないでしょうか。
実を言えば,いつの間にか忘れてしまった「そもそも」問題を,あらためて問い直すのが「哲学すること」に他なりません。哲学は, 過去の哲学者の学説を知るのが目的ではありません。
では、2024の京都大学はどうでしょうか。
次の文章を英訳しなさい。
かつての自分の同時に無知と愚かさを恥じることはよくあるが,それは同時に,未熟な自分に気づいた分だけ成長したことをも示しているのだろう。逆説的だが,自分の無知を悟ったときにこそ,今日の私は昨日の私よりも賢くなっていると言えるのだ。まだまだ知らない世界があることを知る,きっとこれが学ぶということであり,その営みには終わりがないのだろう。
こちらも、なかなかハードに思えますが、東大和文英訳も2018年に復活して以来、年々難しくなってきているように思えます。なお、京都大学はリスニングがない分、英作文や英文和訳をじっくり時間をかけて考察させるタイプの問題構成となっています。
その一方、東京大学は、要約・文挿入・自由英作文・和文英訳・リスニング・正誤・英文和訳・物語文といった具合に、多種多様な問題を短時間で処理させる事務処理能力テストとなっています。
毛色が全く異なる以上、立てる受験戦略も自ずと変わってきます。
さて、東大2024に話を戻しますと、和文英訳の極意は、一字一句バカ正直に訳そうとしないことにあります。
今回であれば、先述のように「根付いてしまった」「あかつき」「平等の原理に照らして」を強引に直訳するのではなく、英訳しやすいように言い換えたり、敢えて訳出をしなかったりすることで、なるべく無理のないシンプルな英文づくりを心がけるべきです。
世間の解答例を読んでみると、なんとも美しい文で、こんなの一生書ける気がしないと思うようなものもありますが、限られた試験時間の中で、そんな答案は書けやしませんし、書く必要はありません。
高得点合格者の方の答案例をご覧いただければ一目瞭然ですが、ものすごくシンプルにまとめているのです。
ミスのない文をスピーディに書き上げる。これが、時間制約の厳しい東大英語を制覇する極意だと言えましょう。
第3問 リスニング
難易度 標準 (今後スクリプト公表で変更する可能性があります)
まず、東大リスニングの出題形式について見ていくとしましょう。
(放送時間)30分程度
(放送開始)2月26日午後2時45分〜(変更可能性あり。必ず受験要項や問題冊子の注意事項で確認を!)
(設問総数)15問←A・B・Cの3つのパートに分かれており、各パートに5問ずつ割り当てられています。
(予想配点)2点×15問=30点
(選択肢数)5つ ←2018年入試より各設問の選択肢数が5つに増量した。
(解答方式)マークシート
このようになっています。
出題内容としては、
このようなテーマと語数で出されています。
その上でですが、2024年度のリスニングでは2023年度入試と変わらず、(A)(B)(C)の3つのパートに分かれており、それぞれが独立した内容となりました。
設問数は例年通り15問となっており、選択肢の数も5つで変わりはありませんでした。
音声の中身については、
(A)スエズ運河で起きた出来事とその影響
(B)架空のラジオ番組の一部
(C)パプアニューギニアにおける言語についての講義
となっています。
気になる点としては、昨年度は3問あったNOT問題が1問に減ったことが挙げられます。
流れてくる音声自体は確認できておりませんが、2021年度入試のようなインド訛りの音声ではなく、partAとCは比較的クリアな音声だったようです。
PART Bについては、昨年に引き続き、ボソボソっとした声で吹き込みがなされ、どの試験教室でも聴き取りづらい音声だったようです。
ただ、PART Bは、その代わりに、設問がシンプルでストレートに答えやすい問題が多かったようです。
PART AやCは音声がクリアな代わりに、音声をちゃんと聴いて理解しないと解けない設問がそこそこ散りばめられていたようですので、東大側が意図的に難易度バランスを変えてきていることがわかりました。
そのほか、相変わらず、試験教室によっては音量が小さい、スピーカーの音割れが激しいといった感想も聞かれており、気になる方は昼休みの試験放送の際に挙手をするなどすべきだったように思われます。
大きい教室ならハズレかというと必ずしもそうではなく、小さい教室だからといって当たりというわけでもなさそうです。
東進さんの東大レベル別模試では雑音入りリスニングが話題になったことがありましたが、それとはまた違った種類の雑音が東大入試では起こりえます。
とはいえ、雑音のある教室でも高得点を取っている人もいる以上、クリアーな音声ばかりではなく、音割れのような状況下でも聴き取れる訓練を早い段階から行うべきでしょう。
スピードについては、それほど早いと感じた人はいなかったようで、東大模試や過去問CDくらいのスピードだとお考えいただければ良さそうです。
第4問A 英文法正誤
難易度 標準
東大4A正誤問題というと、多くの東大受験生が「捨て問」にされています。
年々文章量が増え、予備校講師でも間違えるような難解な設問を1問程度盛り込んでくることもあります。
ですが、高得点合格者の多くは、この4Aに割り当てられている10点をきっちり取りに行っています。
満点を取れる受験生がいる一方で、いくら時間をかけても点数が取れない受験生もいます。
両者の分水嶺はどこにあるのでしょうか。
それは、目の付け所の差異にあります。
その詳細については、敬天塾の映像授業や過去問解説記事でも詳述しておりますので是非読み込んでみてください。
年々合否の分水嶺となりつつある東大英語を制覇するためにも、安易に捨て問にしないことが合格ポイントです。
第4問B 英文和訳
難易度 標準
さて、2024年度は以下のような問題が出されました。
下線部(ア) Sometimes, I’d rip handfuls out and stuff them in my mouth, which wasn’t much like the way any animal I knew of ate.
下線部(イ) Alone in the woods behind our house I had beaten my chest, acted out my own invented stories without a thought to how another’s gaze might see me.
下線部(ウ) I learned in elementary school that we were animals, but unlike other animals we did not seem driven by the instinct for physical survival.
いかがでしょうか。
やはり、近年の4Bにおける新傾向を反映して、下線部だけ読んでも「よくわからない」文を、東大側が意図的に選んできていることが一目瞭然です。
この下線部だけを見て、何を言っているのか完璧に理解できた人は、正直「いろんな意味で」すごいです(笑)。
ただ、少なくとも、私には無理でした。
やはり前後の文章を読まないと何を言っているのか上手く意図をつかめませんでした。
意図をつかめないまま訳そうものなら、訳のわからない日本語が出来上がってしまいます。
日本語として体(てい)をなさない文では、そもそも英文を和訳したことにはならないはずです。
敬天塾では、2022〜2023の4B過去問について、このあたりを詳しく解説していますので、ホームページのトップより過去問データベースをぜひチェックしてみてください。
第5問 エッセイ(物語読解)
難易度 標準
出題形式は昨年度と同様、記述式2問、並べ替え1問、空所補充と内容一致の計11問構成でした。
2022年度はジェンダーをテーマにした物語文が出題され、2023年度では刑務所の必要性について子供たちと対話するというメッセージの強い内容の文章が出題されました。
そして、2024年度の第5問ではアフリカからやってきた筆者がこよなく愛する「歩くこと」に関連付けてアメリカの人種差別について述べています。
2022〜2023に比べると強力なメッセージ性はなく、本文自体も前半から読みやすい文章が続いているように思えました。
そうしたこともあり、難易度を標準としました。
アメリカの人種差別の話を世界史で学んだことがあったり、関連した文章を読んだことのある受験生にとってはストーリー展開が非常に見えやすかったように思えます。
そうした意味で、幅広いジャンルの文章を多読して、教養力を高めることは東大英語対策に有益だと言えましょう。
東大第5問あるあるですが、冒頭で何言っているのかわからずとも、中盤以降で論旨が見えて来ることが多いですから、細部にこだわらず全体像を早くに掴み取ることを意識するようにしましょう。
取れるところをきっちり取りに行くことが東大英語制覇の極意です。
1Aと1Bを昨年並みとしているのが驚きです。